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必ず…… ④

 __________令和 東京


「何とか、"繋がり"は出来た……」


 東京の中心部、地下深い秘密施設の中で、上條凪は残り少なくなった魔力を振り絞って佑弥達を眺めていた。


 この世界に残されていた、ほんの僅かな魔力を必死で掻き集め、《星霜の光扉》という大規模な《転移魔法》をさせた。

 故に、この世界の魔力は、殆ど枯渇してしまっている。


 佑弥を再び違う"時代"へ転移させるには、また何十年も魔力を溜め込むか、もしくは"違う時代を流れる魔力"を無理矢理に使用するしか方法は残されていない……


「これ以上は、待てない……」


 施設内には、何に使うのか分からない巨大な装置や精密機器、その他無数にある魔道具等で埋め尽くされている。

 凪は"史上最高で究極の魔女マテラ"が、人生の全てをかけて、それでも完成半ばで断念してしまった《時間干渉》の術式を、科学の力で完成させた。

 その術式を使用すれば、ありとあらゆる世界の扉を開くばかりか、過去や未来の魔力さえもこの世界から遠隔使用する事が出来る。筈なのだ。


 だが、完成させたとは言え、《時間干渉》を発動させる為には、いくつもの困難な工程が必要となる。

 使う時間、タイミング、魔力量、複雑な位置計算に至るまで、どれか一つでもミスがあれば『対象』が何処へ飛ばされてしまうかわからないのだ。

 この部屋に無数に存在するこの道具や装置達は、その為に作った、数々の補助装置や魔力回路だった。


 今、佑弥がいる"過去"の世界には、魔力の枯渇してしまったこの世界とは違い、膨大な原始の魔力が今も満ち溢れている。

 《時間転移》に必要な魔力量に問題は無い。


 だが、度重なる《時空転移》が佑弥の身体にどんな悪影響をもたらすかは、解らない。

 故に、《時空転移》を行うのは最小限、かつ最適なタイミングで行う必要があったのだ。


「二人との『絆』は出来た……本来ならばもう少しだけ、あなたの成長を待ちたかったけど、これ以上は待てない。この"タイミング"で貴方を次の"時代"へ飛ばさなくては……」


 ほんの少しのタイミングすら外せない、深い緊張感に包まれていると言うのに、モニターに映る当の佑弥はマテラの純粋性をいい事に、卑猥な事を企んでいる最中であった。

 純粋なマテラはともかく、現役女子高生の凪からすれば、佑弥の卑猥な"作戦"などバレバレである。

 もはや、作戦と言うレベルのものですら無い。

 全ての女性を軽視した、最低愚劣な行為だった。


「何やら嬉しそうな顔してるけど……そんな下衆な行為を見逃す訳には行かないわ。もう行くわよ」


 凪は補助装置を起動させ、佑弥のいる過去の世界へとリンクを繋ぐ。

 そして、《時間転移》に必要な魔力を掻き集めていく。


「くっ、なんて乱れた"魔力"なの……」


 装置と術を使って『佑弥のいる過去の世界』の膨大な魔力を操作しようとするが、魔力はうねりを上げて凪に逆らい、暴れ回った。

 理論は完璧な筈だったが、計算どおりにはなかなか行かないのだ。

 本来ならば一瞬で終わらせる予定だったが、作業は難航する。

 だが、あまりに時間をかけ過ぎてしまえば、マテラに《転移》を妨害されてしまうかもしれない。


「やっぱり、理論通りには行かないか……少し荒れるわね」


 数千年もの時間と世界を隔てての《魔力干渉》は、"現代最高の魔女"と言われる凪の力を持ってしても、簡単な事では無かった。


 思考で頭が焼き切れる程に魔力を錬成し、少しづつ"魔法陣"を修正構築していく。

 凪は脂汗を流しながら、必死で"魔法陣"を安定させていくが、モニターの向こうにいるマテラがこちらを振り向いた。

 その厳しい眼差しは、まるで、モニター越しにこちらの存在に気付いているかの様であった。


 凪の額に汗が滴る。

 まだ早い。

 バレるのが早すぎる。

 今、彼女に妨害されてしまえば、次のタイミングは当分訪れない。


「くっ…… やはりそのまま見逃される訳無いわよね。だけど、今邪魔されると全てが終わってしまう! お願い!"魔法陣"の構成式に気付いて! 」


 何とか、《《気付いて》》欲しい……

 モニター越しにマテラと凪の視線が合う……


 モニターの向こう側では、異常な魔力変動を察知したマテラが、異常な警戒心でこちらを睨み続けていた。そして、危惧していた通りの強烈な《妨害魔法》を放射する。

 いくら世界規模の"魔法陣"とはいえ、あのマテラに本気で妨害されてしまったら、瞬く内に霧散させられてしまうだろう。


「ヤバい!ヤバい! 今貴方に"魔法陣"を破壊される訳には行かない!お願い!気付いて!」


 予想どおり、マテラの魔力は凪の力を持ってしても、手に余る程に強大で膨大であった。

 必死で《対妨害魔法》を再構築するが、それでも《転移魔法陣》は、今にも解除されそうになる。

 どれだけ時間をかけて練り上げた魔力でも、地球そのものの魔力にアクセスする事が出来るマテラに魔力勝負で敵う訳が無い。

 文字通り、次元が違うのだ。


「お願い!貴方の作ったこの構成式に気付いて!」


 凪は聞こえる筈も無いマテラに対して、必死に叫んだ。

 凪に出来る事は、マテラに気付いて貰えるように願うだけ。

 マテラが構築したオリジナルの基本術式は、レベル差がありすぎて彼女以外には使えない。

 それでも、少しでも彼女に気付いて貰う為、限界までオリジナルそのままに残してある。


「お願い!お願い!これは貴方の作った魔法陣なのよ!」


 何度も何度も叫んだ。

 懇願して泣き叫ぶ様に叫んだ。


 凪の魂からの叫びが、通じたのか……


 消し飛ばされそうだった"魔法陣"が安定を取り戻していく。

 どうやらマテラはこちらの思惑と、魔法陣の"術式のクセ"に気付いてくれた様だ。


 そして……佑弥を抱きしめた……


 マテラは泣いていた……


「気付いて、くれた…… どちらにせよ、今しかない!《שער הכוכבי(星の次元扉)》」


 《転移魔法陣》が佑弥の足元に展開される。


 佑弥はまだ抵抗しているようだったが、一旦発動された《転移魔法》からは、例えマテラの力であっても逃れる事は出来ない。

 それは製作者のマテラにも解っている筈だ。


 マテラと佑弥は、泣きながら抱き合っていた。

 佑弥の身体が穴へと引きずり込まれて行く……


 そして、沈み込んでいく佑弥の身体は、やがて完全に見えなくなった……


 佑弥の転移が無事に完了した。


 モニターに映るマテラは、堰を切ったように大声で泣き叫んでいた。

 佑弥に悲しむ素振りを見せないように、必死で我慢していたのだろうか……


「ごめんなさい……」


 どれだけ時間が経っても、マテラはずっと泣き止む事は無かった。

 どれだけ謝ろうと、この声がマテラに届く事は無い。

 それでも凪は、謝らずにはいられなかった。


「ごめんなさい……」


 凪も涙を零していた……






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