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必ず…… ②

 突如立ち上がったマテラは、まるで鬼の様な形相をしていた。

 こんなに厳しい表情の彼女など、今迄一度も見た事が無い。


「ひぃぃっ!」


 完全に腰を抜かして、身体が萎縮する。

 完全に勝利を確信していたと思っていたのに、俺の邪な企みなどバレてしまっていたのだ。

 調子に乗って文字通り"逆鱗"に触れてしまったのただ。

 確かに、悪ふざけが過ぎた気もする。

 いくらいつも半裸みたいな格好でサービスしてくれいるマテラでも、いきなり"胸"を揉まれそうになって、怒らない訳が無かったのだ。

 温厚で純粋な彼女の優しさに甘えて、俺は調子に乗り過ぎていたのだ。


「い、いや、違うんだ!そうじゃないんだ!」


 俺は何とか彼女の怒りを沈める為、必死で言い訳を考えた。

 だが、何も言葉が思いつかない。


『マテラ、なんなのだ?この魔力の渦は……』

「わからん…… 私も初めてみる現象だ……」


 しかし、良くマテラの事を見て見れば、その視線は俺の方など一切見向きもせず、『天空』のただ一点を睨みつけていた。


「え……?」


 どういう事だ?

 二人に遅れて、俺も急ぎ、空を見上げる。


「な、何だあれは!?」


 そこには、丁度俺達の真上に、視認出来るほど濃密な大気中の魔力が渦を巻きながら集まっていた。

 まるで、この世界全ての魔力をその一点に掻き集めているみたいに見えた。

 マテラの殲滅魔法の時ですら、ここまで濃密で大規模な魔力の渦は見た事が無かった。


「デカい……」


 スケールの桁が違い過ぎる。

 一体、何が起こっていると言うのだろうか?

 普段なら何が起こっても、余裕を見せるマテラですらも、動揺しているようだ。

 ここまで警戒心を持っている彼女を、黒竜戦の時ですら見た事がなかった。


「佑弥、何が起こるかわからん。注意しておけ……」


 マテラが、真剣な眼差しを俺に向ける。


「あ、ああ……わかった」


 バレて、無かったのか……

 緊急事態の最中に、少しだけホっとした自分が恥ずかしかった。

 だが、今はそんな事を考えている場合では無いようだ。

 俺の無駄な心配を他所に、魔力の渦はどんどんと濃くなっていき、徐々に形を形成し始めている。

 何かとてつもない事が起ころうとしているのは間違いない。

 怖い……

 恐怖が消え、安心の後に再び、最悪の恐怖が俺を襲っていた。

 この緊急事態の最中、一瞬でも安心してしまった自分が嫌になる。


「来るぞ!」


 マテラが叫んだ。

 天空の溜まりきった魔力は鋭く発光し、見た事も無いほど巨大な"魔法陣"が展開されていく。

 "魔法陣"を形成している文字こそスメーラ言語の様だが、術式は見たことが無い。

 記録の中には無い初めて見る"魔法陣"だった。


「う、動き出したよ!」


 "魔法陣"に描かれている術式は、更に変化していく。

 マテラの描く"魔法陣"に比べれば、起動から発動までに時間がかかっている様な気がするが、どちらにせよ、発動までに余り時間は無さそうだ。


『マテラ!なんだあの魔法形式は!?』

「私にもわからん。が、良い物だとも思えん!取り敢えずあの"魔法陣"が完全に完成するのを阻止する!」

『あんな巨大な出力の"魔法陣"を妨害出来るのか!?』

「魔力量は膨大だが術式は構築練度が甘い!私なら破壊出来る!《Контрола н(制御)ободување(解放)》!」


 ドン!っとマテラの身体に、莫大な量の魔力が発生した。

 普段マテラは過剰過ぎる魔力を、意図的に限界値を設けて制御している。

 その制御を解放したのだ。

 これで彼女は力の100%を使用出来る。

 逆に言えば、この"魔法陣"を破壊する為には、あの彼女が全力を出す程の必要があると言う事なのか。


「ぬぅううう!」


 馬鹿みたいな出力の魔力を、彼女は異常な制御力で急激に練り上げていく。

 空に浮かぶ"魔法陣"には見た事も無いほどの、巨大な魔力量が込められているとは言え、今のマテラの内包する魔力量は、それこそ次元の違うレベルだ。

 いくら世界規模の"魔法陣"とはいえ、惑星規模の魔力を扱うマテラなら何とかなる。


「うわぁ!」


 激しい奔流と共にマテラから"魔法陣"解除の《妨害魔法》が天空に放射された。

 空に浮かんだ巨大な"魔法陣"を、更に巨大なマテラの魔力が包み込み、二つの魔力が激しく衝突する!


「むぅ!これで消えんだと!?だが、これでどうだ!!」


 マテラから立ち上る魔力放射が更に激しさを増す。


 あの巨大な"魔法陣"を凌ぐ程の巨大な魔力の奔流が衝突していく。

 まるで"天地逆"に落雷する幾重にも連なる大雷の様だ。

 恐怖はあったものの、俺はマテラの事を100%信用している。

 何が起こったとしても、彼女ならば必ず何とかしてくれるに違いない。

 マテラには不可能など無い。

 どんな危険が迫っていたとしても、彼女が隣に居てくれる限り、俺達に危険など起こりえないのだ。


「ぐっ!そこまで対応しているのか!」


 マテラの強力な《解除魔法》を受けて半壊しかかっていた天空の"魔法陣"が、更に形を変えていく。

 《解除魔法》に対抗する為に新たな"形態"へと進化したのだ。


「だが……これでもう終わりだ!」


 マテラから放たれる魔力照射が更に激しくなった。

 俺は、この展開に、息を飲んで展開を見守っていた……


「!!」


「マテラ!?」


 その時、マテラの目が大きく見開らき、そして、突如魔力放射が止んでいた。

 マテラに限って、魔力枯渇など有り得ない。

 どうしたと言うのか!?


「あ、れは……」


 マテラから放たれていた《魔法》は完全に消え去り、彼女は放心して、糸が切れたみたいに地面に座り込んでしまった。

 天空の"魔法陣"は、マテラの妨害が止まったタイミングを見計らったように、再び激しく動き出していく。


『どうしたんだ!?マテラ!』


「何かあったの!?」


 俺達は慌ててマテラの元へと駆け寄った。

 そして、マテラがゆっくりと、俺の顔を見上げた。

 本当に、ゆっくりと……


「マ、テラ?マテラ!!しっかりして!」


 彼女の目には、今にも溢れそうに涙が溜まっていた。

 そして、ゆっくりと俺の身体に手を回し、優しく俺を抱きしめた。

 俺は動揺する。

 なんだこの彼女の態度は?


「マテラ……?」


 いつものとは、少し違う抱擁だった。

 これではまるで……


「佑弥……」


 彼女は、力なく俺に語りかけた。

 怖い。

 こんなシーンを何度も何度も映画で見た事がある。

 だけど、今度ばかりは映画の見過ぎだと思いたかった。


 昔から、嫌な予感だけはよく当たる。

 おじいちゃんが倒れた時も。

 おばあちゃんが旅立った時も。

 嫌だ。

 次のマテラの言葉を聞くのが怖い……


「佑弥……これで、お別れだ……」


 嫌な予感だけは、いつも当たるんだ……





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