越えるもの ②
訓練だと言うのに、彼女の形相はまるで悪魔か鬼のようだった。
恐怖で汗が引いていく。
「トドメだ!雷光腹筋貫通撃!」
「ぐぅわっ!こ、殺す気かっ!」
転倒し、ガラ空きになっている腹部にトドメの一撃が迫る。
まさか本当に腹筋を貫通する程本気では殴られないとは思うが、生半可な威力に手加減してくれる程優しくも無い。
直撃すれば間違いなく瀕死、最低でも"気絶"は免れない。
恐怖だ。
「くっ……!」
マテラの攻撃は常に"攻防一体"。
ほんの一瞬の"油断や隙"さえも見逃してはもらえない。
逆にこちらが見つけた一瞬の隙は、彼女の"罠"だったりする。
完全にお手上げ状態だ。
"一対一"でまともにやり合っても、全く勝てる気がしない。
だが……
『させんよ!!』
ガシーン!と、刀は俺とマテラの拳の間に割って入る様な形で、マテラの拳を受け止めた。
一対一なら無理でも、今の俺は常に二人掛りだ。
いちいち口に出して頼まなくても、スザリオが最善最速で俺をサポートしてくれるのだ。
「スザリオ!いつの間に一人で動けるようになったんだ!?」
マテラには、既にスザリオが『単体で好きに動く事が出来る』とは伝えていない。
というよりも、スザリオが《風魔法》を使って浮遊出来る事は知っていたが、ここまで自由自在に動ける事など、46時中一緒の俺ですら知らなかった。
流石のマテラも、思念体であるスザリオが、依代である刀を単体で動かす事までは想定外だったようだ。
『私はもはや、佑弥と一体なのだ!二人がかりでも卑怯などとは言わせんぞ!』
「言うか!私を誰だと思っている!二人まとめて消し炭にしてくれる!」
スザリオは俺の手から離れ、単体でマテラに斬りかかっていく。
刀はまとわりつくように、何度も何度もマテラを攻撃し続けていた。
ある程度、攻撃方法が予測出来る人体とは違い、自由自在縦横無尽に動き回るスザリオの攻撃に流石のマテラも手を焼いているようだ。
「くっ……チョロチョロと面倒な!はぁっ!」
『佑弥長くは持たん!早く起きろ!』
スザリオの動きに慣れてきたマテラが反撃に転じる。
スザリオは戦闘を続けながらも、惚けていた俺に活を入れた。
悔しいが、スザリオの動きは俺が握っていた時よりよっぽど戦いの形になっていた。
俺なんか居ない方がよっぽど強いんじゃ……って気分になるが、このまま指を加えて見ていると言う訳には行かない。
「ごめん!待たせた!」
体勢を直すと同時に、スザリオが俺の手元に戻ってくる。
やはり二人の力でマテラから一本取る事に意味があるのだ。
「スザリオ。助かった!」
『うむ。マテラに二度は通じんぞ!気を抜くな』
「ああ!マテラ、さあ続きだ!」
「偉そうにっ!さっさと二人まとめてかかってこい!」
マテラとの間に、張り詰めた空気が流れる……
マテラは余裕の表情で俺達の攻撃を待ち構えていた。
俺達が何かを企んでいるのを見抜き、それを正面から受けて立ってくれるつもりなのだ。
それならこちらも都合が良い。
マテラの余裕に甘えて、全力の奥義で挑む。
『……佑弥、例の技を試すぞ……』
「わかった……」
俺達は、念話で温めていた作戦を実行に移す事を決めた。
それは、何としてもマテラの異常な防御を突破する為に、二人で考えぬいた『新技』だった。
「行くぞ!」
「ほう……まだ何か試すつもりだな。面白い!受けて立ってやる!」
俺達は、再びマテラへと突撃する。
二人で編み出した奥の手を最強最悪の師に試すのだ。
「行け!スザリオ!」
スザリオを上空へと高く放り投げる。
放り投げたスザリオは弧を描き、マテラの丁度上空数十mの位置に到達する。
『食らえ!《集束高熱砲》』
スザリオが単体で《魔法》を詠唱すると、空中に筒状の"鏡"の様な物を大量に生み出されていく。
《魔法書》に記された魔法は全てマテラに対処されてしまう。
これは、スザリオが新たに生み出した《新魔法》だった。
「なんだその《魔法》は!?」
「教えるか!やれ!スザリオ!」
"筒状の鏡"によって高密度に集束された太陽光が、超高熱の"レーザー光"となってマテラへと放たれる。
全てを融解させる超高温のレーザー光は、いくらマテラの皮膚でも簡単には防ぎ切れない筈だ。
「ふん。こんなもの!」
光の速度で放たれたレーザー光を、マテラは異常な反応でサラりと躱す。
信じられない反射神経だ。
だが……
『まだだ!《集束高熱砲》一斉発射!』
上空に展開された複数の"鏡"から、今度は複数のレーザー光が放たれた。
その数、20数発。
「全て避けられるもんなら、避けてみろ!この光の柱はいくらマテラでも無傷じゃ済まないぞ!」
周辺一帯に巨大な光の柱が建ち並び、大地を焼き払うが如く、縦横無尽に暴れ回る。
「ちょこざいな!《מַרְאָה》!」
直撃しそうだった光の柱が、突如マテラから離れるように進行方向を変えた。
マテラが鏡の《反射障壁》を《生成》して拡散させてしまったのだ。
「嘘だろう!?」
「魔導を極め尽くした私相手に《魔法》勝負を挑むなど千年早い!」
俺の持つ現代地球の科学知識で術理を構築し、複数の"鏡"を同時に操作する『超演算処理能力』と、それに必要な大量の魔力をスザリオが担う。
必死の思いで練習し生まれた、必殺の《魔法》を、いとも簡単に対応されてしまった事は想定外であったが、それでもまだ俺達は諦めない。
次だ!
「来い!」
展開された《魔法》を遠隔操作に切り替えたスザリオが、俺の手元に戻ってくる。
『全く驚かされる……ああも簡単に対処されてしまうとは……』
「諦めるな!行くぞ!」
マテラとの正面衝突を恐れて、奇策や遠距離攻撃で『意識の外』を狙うのは、やはり不可能だと思い知らされる。
単純に魔力量と魔法理論に、差があり過ぎるのだ。
やはり、危険なのを承知で、マテラの真正面からシンプルに、今の俺達の全ての力を掛けた攻撃しかない……




