越えるもの ①
____________東端『 拠点 』
黒竜との戦いが終わった後、俺はまるで人が変わったかの様に訓練に取り組んでいた。
今までみたいな不純な動機等ではなく、明確に自分が『強くなりたい』と思うようになったのだ。
二人の類稀な師に恵まれる事で、メキメキと成長を感じられていたのもあったが、一番の理由は、もうこれ以上マテラの手を汚させたくなかったのだ。
再び同じ事態が発生した時には、今度は自分の手を汚す覚悟だった。
とにかくもう、二度と彼女の泣く姿を見るのが嫌だったのだ。
しかし、その為には力が足りなさ過ぎる。
どうすれば強くなれるか?
ひたすらに考え鍛え続け、教えを乞うた。
一秒を惜しむように刀を振るった。
『もう少し力を抜いた方が良い、力み過ぎていてスピードが落ちているぞ!』
刀となったスザリオに指摘を仰ぐ。
スザリオは文字通りに我が身で感じ取った俺の動き、魔力の流れ、力み、などを的確に分析して俺に伝えてくれる。
疲れて動きが雑になったり、合理的な身体の使い方が出来てなかった時は、すぐに指導が飛んでくる。
書物や写真だけでは理解出来ない、所謂『奥伝』と呼ばれる部分までも解析し、俺に詳しく伝えてくれるのだ。
これで、強くならない訳が無い。
スザリオは戦闘中の全ての出来事を判断解析し、常に最適な結果を導き出してくれた。
圧倒的なスザリオの指導に身を任せ、俺も引き摺られる様に、どんどんと強くなって行った。
しかし、スザリオの成長は、そんな俺を遥かに越えるものだった。
彼はまるで、現代で言う"スーパーAIコンピューター"のような速度で成長し続けていたのだ。
それはもはや成長と言うよりも、"進化"と言っていい程のものだった。
その知能を使った解析能力は"凄まじい"の一言で、数日前まで知りもしなかった筈の剣術を恐ろしい速度で学習解析し、次々と新たな剣理を編み出していく。
剣技についての理合いも技術も、俺の記録にある知識をとっくに凌駕していたのた。
「ほんとスザリオの頭の中どうなってんだ?まるでコンピュータみたいだな……」
『うむ。肉体的な制限が解かれた今、以前よりも遥かに知能が上がっているようだ。期待しててくれ。もっと佑弥を強くしてみせる。マテラから一本取るまでは、決して諦めるなよ』
「マテラから一本か……」
昼はマテラとの実戦を想定した訓練。
朝夕はスザリオの格闘技術指導。
疲労の貯まらないこの便利な身体を良い事に、休むこと無く動き続けた。
その結果、たった数日の内に、俺はステータスの強烈な上昇、更にステータスには現れない強さをも手に入れる事が出来ていた。
しかし、それでもまだ、マテラには遠く及ばないのだ。
マテラから一本取ると言う事が、どれ程大変という事なのかを知った。
しかも、マテラが本来不得手な筈の肉弾戦で、である。
流石は、史上最強を自負する女性なのだ。
登り始めてやっと、目指していた山の高さがどれだけ高い山だったかと気付いたという訳だ。
だが、目標は高い方が良いに決まっている。
俺達は、諦める事無く訓練を続け、マテラへと挑み続けたのだ。
¸¸☆*・゜
「よーし!そろそろやるか!」
ずっと一人で待っていたマテラが、声を掛けてくる。
退屈そうな顔で俺達の秘密訓練が終わるのを、今か今かと待ちわびていたのだ。
スザリオの指導の成果は、マテラも諸手を挙げて感動する程のものだったが、俺をスザリオに取られてしまったような気がするのか、最近は若干"ヤキモチ"を焼かせてしまっている様だ。
可愛いやつだ。
俺の"心"は永遠にマテラに捧げていると言うのに……
「よし!行くぞ!よろしくお願いいたします!」
戦闘訓練中だけは友では無く、師としてマテラに相対する。
実際、こんなに成長した俺達でさえ、マテラとの間には、まだまだ越えられない巨大な"鉄壁"が立ちはだかっている。
だがそれでも、決して諦めはしない。
毎日思案を重ねながら、必死で編み出した"必殺技"を持って、決死の思いでマテラに挑むのだ。
「スザリオ!いくぞ!」
『ああ!』
《黒》でマテラの場所まで高速移動し、全力を込めた袈裟斬りを放つ。
小手先のフェイントを使った生半可な攻撃などでは、マテラのデタラメな防御力を突破出来ない。
スザリオを持つ手に、ありったけの力を込めた。
(ドカーン!)
凄まじい衝撃音が響き渡った。
だが、マテラはそれを避ける事もなく、いつもの様に片手だけで悠々と受け止めた。
訓練と効率化により、昨日比で116%強い斬撃を放てる様になっていると言うのに……
「うん!昨日よりも力が乗っているな!」
まったく、どんな身体の作りをしているのか。
だが、この攻撃でマテラの防御を突破出来ないのは予想済みだ。
毎度の事なので今更驚きもしないが、両手首が痺れるほどの力を込めた刀の一撃を、マテラは平然と素手で受け止めるのだ。
世界最強の『マテラ刀withスザリオ』を使ってでも、マテラの肌には傷一つ付けることは出来ない。
ぶつかるのが同じ材質ならば、込められた魔力量の強い方が勝ち。という事らしい。
二人がかりでも、マテラの魔力量には到底及ばない。
つまり、このままでは永遠に彼女から一本取る事など出来ないと言う事になってしまう。
かといって、スザリオを超える武器などこの世には存在しない。
ならば、どうすればいいか?
俺達は必死で研究した技を試す。
「おりゃああ!!」
スザリオに教わった【合理的で最善な身体の使い方】を使い、袈裟斬り、突き、横一文字、逆袈裟……
比較的構造の弱い首や腹部、彼女の弱点となりそうな部分を、流れるように一呼吸で12回斬りつける。
「どうした!そんなもんか!?」
それでも、やはり全てマテラに片手で防がれてしまった。
この頑強さも厄介だが、俺達の必死の連撃を悠々と対処する反射神経も凄まじい。
やはり、マテラの"意識の外"から攻めなければ、攻撃は届かない。
仮に届いたとしても、桁違いの"魔力量"で弾き返されてしまうのだ。
「はぁ!隙有り!甘いぞ!」
そして、この一瞬の隙を見逃さない天性的な戦闘感。
俺の連撃の間を縫うように、カウンターで強烈な回し蹴りを放ってきた。
「ガハッッ!」
何とか蹴りを刀で受け止めるも、衝撃を殺しきれずに、派手に吹っ飛ばされてしまう。
『マテラの攻撃にガードは危険だ!なるべく回避しろ!』
「わ、わかってるよ!」
スザリオがマテラに聞こえないよう、手を通して脳内に直接語りかけてきた。
言われなくてもそんな事は分かっている。
だが、そんな余裕すら無いのだ。
シュ。とマテラの身体がブレた。
そして、吹っ飛ばされて開いた筈の距離が、一瞬の内に詰められている。
速過ぎる。
「ほらほら!攻撃だけじゃなくて、防御も忘れちゃだめだぞ!」
「くっ……」
マテラの攻撃は、まるで至近距離から放たれる"雷"の様であった。
理合いもへったくれも無い、純粋な身体能力任せの攻撃ですら、さっき俺が放った攻撃とは、全てが段違い。
速く、重く、そして馬鹿げた魔力による理不尽な破壊力。
「そらっ!そらっ!気を抜くと死ぬぞ!」
一撃で気絶しそうな破壊力が込められたパンチの嵐を、何とか凌ぎきってカウンター気味にマテラの首に斬撃を放つ。
「馬鹿者!!バレバレだ!」
マテラは俺のカウンターをあっさりとしゃがんで躱しながら、更にカウンター返しで足払いを放ってくる。
必死の思いで繰り出した今の技も、完全に"誘い"に引っかかってしまっていたようだ。
「ぐわっ!」
隙をつかれモロに足を払われてしまった俺は受身を取る事も出来ず、派手に転倒し背中を強打した。
鬼の様な形相で彼女が迫ってくる。




