この手に掴むもの ②
「それは、とても有難いんだけど……所で、スザリオには俺達が見えているのかい?」
何となく、今までに聞きそびれていた質問をする。
確かに、スザリオの発言から、何となく"視覚的な物が有る"のであろう事は感じてはいた。
だが、言うまでもなく彼は『刀』であり目など存在しない。
と言うか生物以外には『目』は無いのだ。
どれだけ知性に優れていたとしても、彼はあくまでただの精神体であり、生物では無い筈なのだ。
『ん?今更そんな事を?この刀に転生してからの数日間で、私は既に色々な事が出来るようになっている。視覚こそ無いが魔力を張り巡らせて周囲を感知する事によって視覚以上に物事を【見る】事が可能だ。むしろ物理的な感覚器官に頼らなくなった今、全ての感覚は以前よりも鋭くなっているよ』
毎回こいつの優秀さには度肝を抜かれてしまう。
そして、とてつもなく嫌な予感がしてしまった。
「そうなの?もしかして俺がマテラと相撲していた時の事も!?」
『当たり前だろう。それがどうかしたか?』
「うおお、先に言ってくれよ!」
俺があほ面でニヤついてる顔を見られていたと言うのか!?
流石にそれは恥ずかし過ぎるだろう!
俺がニヤつきながら雄叫びを上げている光景を、スザリオは、一体どんな目で見ていたのだろうか!?
とはいえ、あの"至福の時間"を、恥ずかしいぐらいで辞めたりする気など、更々無かったのだが……
「佑弥?相撲がどうかしたのか?」
「いや! 全然問題ないよ!」
純粋に疑問をぶつけてきたマテラを慌てて制した。
広大な海の様に大らかな心を持つマテラが、俺の下心になど何も気付いて無さそうだった事が救いだった。
『五感だけでは無く、力や魔力の流れも昔よりも遥かに良く見えるようになったのだ。そのお陰で佑弥の弱点や欠点も良く見える。少しのアドバイスで今より遥かに強くなれる筈だ』
ナイス!良いタイミングで話を元に戻してくれた。
この空気の読めない感じが俺を救ってくれた。
『佑弥が私を使っている時は、より鮮明にソレを感じられる。例えば、佑弥の魔力運用に関しても同じ事が言える。私を持った状態で魔力を指先に集めてみてくれ……』
言われた通り、刀を持った状態で魔力を指先に集中させる。
昔よりはいくらかマシになったとは言え、相変わらず俺の魔力効率はとても悪い。
集めた膨大な魔力の割には、大した魔法は使えない。
だが、ただ集めるだけなら問題無い筈だ。
『ふむ。佑弥は意識を集中し過ぎる余り、呼吸が40%も低下している。呼吸とは大気に流れる魔力を効率的に操作する為にとても重要な要素の一つだ。《黒》を発動させる時のように、出来て当たり前だと思って、自然体で《火》を発動させてみろ』
なるほど……言われて見れば、確かに魔力を練る時は息が止まっていた。
魔力を運用すると言われると、そっちに意識を取られてしまって息をするのを忘れてしまっていたのだ。
言われた通り、なるべく自然体に呼吸を整える。
『ダメだ。今度は呼吸に意識が割かれ過ぎている。呼吸が130%まで上がり過ぎてしまった。一度深呼吸してやり直せ』
「ふぅ~~難しいな……」
落ち着いて呼吸を整えた。
出来て当たり前のように、自然体に指先に集まった魔力が形を変えていくように……
何も余計な事は考えない。
やり方はもう、身体が知っている筈なのだ。
「……」
カチン!と、身体の中でパズルが組み上がったような感覚を感じた。
集めた"魔力"から、いつも違う力の勢いを持っているのを感じたのだ!
その勢いのまま、俺は《火魔法》をイメージした!
(ボゥ……)
指先には、俺がイメージした通りの炎が灯る!
相変わらず弱々しい炎なのは変わらないが、今までに無かったほどに安定していた!
「おお!出来た!出来たよ!」
『むう……これで、その程度なのか……集めた魔力に比べると効率が低過ぎるが、だがさっきよりは楽になっただろう?体内に魔力は流れていなくても、佑弥の魔力操作はかなりの段階まで来ている。最低でもこの位は出来て当然なのだ』
「なんか、ごめん……」
俺としては驚きの成果だったのだが、スザリオからすれば、満足の行く物では無かったらしい……
しかし、その解析能力の凄さには驚かされた。
俺が気付いていなかった呼吸の事や、特殊な魔力の流れまで、かなり詳細に理解しているようだ。
弱々しいとはいえ、今までに感じた事のない程にスムーズに発動された《魔法》がそれを証明していた。
「凄いじゃないか!佑弥!スザリオも凄い解析能力だな!私も見てくれ!どうなんだ?」
『いや、マテラは既に、考えられる理想的な限界値の100%以上の効率を引き出せている。むしろ私が聞きたいぐらいだ。どうすればそこまで強くなれるのか……』
どうやらマテラは天然で天才的過ぎて、既に論理では説明の付かない所にいるようだった。
何となく納得してしまう。
どうやら、技術的な事を具体的に分かりやすく教える事は、スザリオの方が得意らしい。
マテラも最高の師匠ではあるが、どうにも彼女は"天才肌"過ぎるのだ。
『とまあ、こんな感じに、刀の使い方にも幾つか気付いた事がある。きっと今までよりも、遥かに強くなれる筈だ』
「よ、よろしくお願いします!」
そうして俺は、、
現時点で史上最強の生命体であるマテラとの実戦訓練に、"異常"な分析能力を持ったスザリオの補助指導。
信じられない程に贅沢な、考えうる最高の師匠達に、二人がかりで鍛えて貰える事になったのだ。




