結ぶもの ②
「では始めるぞ。スザリオ、覚悟はいいか?」
『いつでも……』
スザリオの"魂"を俺の刀に移す事を了承した。
否、正確には渋々了承する事になった俺達は、スザリオの魂たる『竜核』を取り出す為の《魔法》準備を行なっていた。
今回の作業には禁断の《転生魔法》を応用して行われる。
《転生魔法》……それは魂の上書き。
元々あった魂を新たな魂で塗り潰して消滅させてしまうこの《魔法》は悪用すれば倫理観的に大変危険である為に《禁忌魔法》とされているらしいが、今回の転生先は、命の無いただの『物体』なので問題は無い。との事だ。
「改めて念を押すが、100%成功する保証は無い。成功した所で、お前の意識が残るかどうかもわからん。大丈夫か?」
『他に選択肢も無い。どうなろうと覚悟は出来ている……』
意を決して、スザリオの横に刀を並べた。
ただの物体とはいえ、俺にとっては生きてるのと同等ぐらいに大切な物だ。
既に承知した事とはいえ、手が震える。
そして、マテラは詠唱を開始した。
「《|גִלגוּל נְשָׁמוֹת《転生》》……」
スザリオの身体が光の膜に包まれていく。
そして、まるで糸が切れたかのように、突然バタリと倒れた。
「え!?大丈夫?」
「問題無い。もうあれは、ただの抜け殻だ」
倒れた体から、光る"珠"みたいなエネルギー体が浮かび上がってきた。
それは、まさに魂の輝きとでも言うのか、言葉に出来ない程に、優しくて美しい光を放ち、柔らかく脈動している。
これが魂たる『竜核』という物なのか?
「めっちゃ綺麗……」
見ているだけで心が洗われる。
この美しく輝く発光体がスザリオの魂なのだとしたら、やはりスザリオが"悪"などではなく"純粋"な魂の持ち主だったのだと認めざるを得ない。
そして、光る竜核は少しずつ俺の刀に近づき、そして、スゥと吸い込まれていった。
「あっ!刀が!」
美しい翡翠色の髪を編み込んだ柄が、深緑に変化していく。
刀身にいたっては、元々が鉛色だったので完全な"黒"に変色してしまった。
「ああ……俺の刀が……マテラの髪の色みたいで、好きだったのに……」
全体的に黒い墨汁を染み込ませていったような感じだ。
あんなに美しかった俺の大切な刀が、まるで呪われた『魔剣』みたいな色合いになってしまった。
「黒竜王であるスザリオの"魂"が入ったからな。まあ、一時的な物だろう。そのうち元に戻るとは思う」
移るのは"魂"だけだと聞いていたのに、外見までも変わってしまった事がショックだった。
柄に触れているだけで、いつもマテラと共に居れたような気がして嬉しかったのだが……
「うお!眩しい!」
完全に《転生》が終わったのか、刀が強く発光した。
「うん。無事に成功した」
マテラは満足そうに頷いた。
光はすぐに収まり《転生》の全てがあっさりと終る。
あれだけ勿体ぶった割には物凄くシンプルだった。
《転生》とは言え、正確には"生"の概念が無い意識体だけを移しただけなので、刀には"色"以外の変化は無かったようだ。
「これだけは、残す訳にはいかんな……」
《転生魔法》の成功と同時に、スザリオだった抜け殻をこの世から完全に消滅させた。
これで"黒竜問題"の全てが終了した。
これで無事に、スカードの遺伝子はこの世界から無くなり、スザリオの"魂"だけが刀に残る事になる。
命を失った"魂"だけの存在とは言え『意識はある』との事。
けれど、そんな『概念的な問題』は俺には良く分からない。
だけど、八百万の神様がいる日本で産まれた俺からすれば、ありとあらゆる物には神が宿っているという気持ちは持っている。
ただのデカい石っころや、ただの大きな木にでも『神様』として、大切に扱って生きていくのが、自然と身についている。
だったら、魂があり意識もあると言うだけで、俺の中では『スザリオは今も生きている』のと同じ事なのだ。
翡翠色で美しかった刀が黒く変色してしまった事は予想外のショックではあったが、人一人を救ったのだ。
刀が黒くなってしまった事ぐらいは目を瞑ろう。と思った。
「今まで以上に、大切に扱わねばならないね……」
「そうだな……」
その事を、改めて確認し、生まれ変わった刀を大切に拾い上げた。
『二人とも、今後共よろしくな……』
「うわぁ!! 喋った!」
思わず慌てて、大切な刀を落としそうになってしまった。
なんと、刀が喋ったのだ。
正確には『念』の様なものが頭に直接語りかけて来た感じだ。
『良かった。私の『声』も無事に届いている様だな。驚かせたのは悪いが、私を落とさないでくれよ』
「え!あ、いや……え!?」
思っていたのと違う事態に戸惑う。
残るのは意識だけって言ってなかったっけ?
めちゃくちゃ俺の脳内に干渉してくるんだが!?
慌ててマテラへと説明を求めたが、マテラは(あちゃー)とでも言わんばかりに頭を抑え込んでいた。
「マテラ!?どう言う事?こうなるって分かってたの?」
「僅かにではあるが、可能性はあると思っていた。その刀はただの刀ではない。生命は無いとはいえ、この私の身体が素材になっているから、金属と生命体のどちらとも言えない中間のような物質なんだ。そして"魔力"伝導率がとても高い……」
つまり、馬鹿みたいな魔力の持ち主である超生命体のマテラから生み出した素材ゆえに、今も尚、摩訶不思議な力を持っている。みたいな感じだそうだ。
マテラはその可能性がある事には気づいていたが、あの場面でそれを理由にスザリオを止める事など出来なかった。
いくら素材として、とてつもない可能性があるとは言っても、魂だけの存在が魔力を運用して外の世界まで干渉を起こせるなどとは、可能性として有り得ない程に低かった。
それをもし可能とするならば、莫大な魔力とその魔力の緻密な運用が出来、且つ素材との親和性が最高である刀の製作者マテラぐらいだろうと思っていたのだ。
スザリオの凄まじい知能と成長速度は、マテラの予想を超えてしまったのだ。
『ふむ。私の推測どおり、無事に転生後も"魔力"の行使と意志の疎通が可能になった』
「まさか!それを知って俺の刀を選んだのか!?」
全てがスザリオの計画だったのかと、焦って問いただした。
『知っている訳は無いだろう。あくまで推測だ。私にしても掛けだった。ただ、かなり確信を持ってはいたがな。それほどに、この刀に内包されている魔力と伝導率は凄まじいものだったのだ』
「うおお! 騙された!直ぐに俺の刀から出て行け!」
スザリオを追い出そうと、俺は悪あがき、刀を強く振り回した。
『おいおい。そう邪険にしないでくれ。私が、お前達と共に生きて行きたい。と思った気持ちに一切の偽りは無い。必ずや、佑弥の力になる事を誓おう』
「ぐぬぬぬぬ……邪魔だけはするなよ!」
『勿論だとも。私は本来ならば既に二度消滅していた所なのだ。スカードに改造された時と、マテラに出会ってしまった今日だ。それを、二人が繋いでくれた。この繋いだ魂は、二人の為のみに使うと誓う。私の魂が消滅するその時まで、二人の為だけに"生きる"と誓おう。それに、私はどうやら知能と魔力がとても高いようだ。私はきっと役に立つ男、いや刀だぞ?ハハハ……』
「ちょ、調子に乗りやがって!!約束したからな!マテラにだけは手を出すなよ!」
もはや、王に対する敬意など微塵も感じていなかった。
「はぁ……」
もうどうしようも無いと、俺達のやり取りを見てマテラは大きなため息を付いた。
なってしまった物は、もうどうしようも無い。
まあ、悪さをする事も無さそうだし、既に肉体の遺伝子は完全に消滅させて残ってはいない。
万が一の場合は"魂"を消滅させればいい。
マテラは、そう楽観視して諦めたのであった……
俺は、凄まじい程に『してやられた感』を感じていたが、スザリオがきっとその誓いを守ってくれる事だけは信じられた。
言葉通りに、生涯をかけて俺達を見守って"生きて"いってくれるのだろうと、思えたのだ。
これだけ煮え湯を飲まされ、悔しくて邪険な態度を取ってはいたが、何故かその事だけは魂で理解出来ていたのだ。
炉林佑弥.... 種族不明
HP ... 3950/3950
MP ... 0/1900
魔力 ... 0
力 ... 3300
耐久力 ... 6800
敏捷 ... 3550
属性 ... 黒
特技 …【重力干渉】【虚空記録の卵?】
【一極集中】【動体視力】【黒い物?】
【new!】
スザリオ …… 刀とそれに宿りし黒竜王の魂
攻撃力 …… 9999
魔力 …… 6700
マテラの鱗と牙を使って作った刀。
マテラの素材に込められた魔力とスザリオの魂に残った魔力の二人分の魔力を内包しており、非常に強力。
刀単体でも世界最強の切れ味と魔力伝導率を持つが、後述のスザリオの能力と合わさって、唯一無二の無双の武器となる。
鉱物と生物の両方の利点を併せ持っている為、魔力伝導率が異常に高い。
中に宿った『黒竜王スザリオ』の魔力をそのまま上乗せして攻撃可能。
スザリオの持つ魔力を佑弥に譲渡する事が可能。
だが、佑弥が集めた魔力をスザリオに譲渡する事は何故か不可能。




