結ぶもの ①
『私は、彼の刀になりたいと思う……』
「「え!?」」
『私の"魂"を、炉林佑弥の持つその"刀"の中に、移して欲しい。と言ったのだ』
スザリオは、ハッキリと言い直した。
俺のややこしいフルネームを、一字一句間違わず、もはや聞き間違えようも無いほどに、スザリオは『俺の刀になりたい』と言ったのだ。
俺がこの世で一番大切にしている、たった一つの"宝物"に。
「そ、それは……」
『可能な筈だ。その刀は生命体では無いだろう?』
「か、可能だとは思うが……」
マテラは簡単に折れてしまった。
ここは現所有者である俺が頑張るしかない。
「でも、なんで俺の刀なんだ!?他にも色々あるだろう?」
『一番面白そうで最適な物を選んだつもりなのだが……』
「面白そうって!」
『それとも、私にその辺にある『石』や『木』に宿って、長い一生を過ごせとでも言うのか?』
「そ、それは……」
俺は何も言い返せずに言葉に詰まってしまった。
確かに、スザリオの言い分はもっともだ。
俺とて、訳の分からないその辺の石コロなんかには移りたくない。
だが、この刀はマテラとの"思い"が詰められた、俺にとって世界で一番大切な宝物だ。
出来る事なら他の誰にも触らせたく無い。
ましてや、そんな大切な刀に別の魂が宿ってしまうなど、考えられなかった。
『見て、すぐに分かったぞ。その刀の事をお前がどれ程大切にしているのかを。だが、私も一生がかかっているのだ。納得のいかない物に宿って、無意味に意識だけ長らえるのならば、素直にここで"消滅"するのを受け入れよう……』
「ぐぬぬぬぬぬ……」
何も言い返す事が出来ない悔しさに唇を噛み締めた。
それを言われてしまうと、俺には何も言え無くなってしまう。
先程、スザリオを悪では無いと認め、殺さない様にとマテラに懇願したばかりなのだ。
産まれたばかりの筈なのに、なんと弁の立つ野郎なのだと思った。
「だ、だが私は、お前の仲間をあれほど殺したのだ!お前は私の事を恨んでいるだろう!いつかこの事を思い出し、私達の事を襲う可能性だってある!」
マテラが復活し参戦してくれた。
マテラにとってもこの刀は、この世に二つと無い、思い出のある大切な物の筈なのだ。
移りたいと言われてホイホイと気軽に移せるような代物では無い。
俺だからこそ、託してくれた大切な物だったのだ。
『確かに、大切な子供達を殺された事を気持ち良くは思っていない。だが、お前が子供達を殺さなければ、いずれ私自らの手で子供達を殺さねばならなかったかもしれん。それに、お前の気持ちもわかっている。立場が違えば私も同じ事をしただろう。故に、私はもうお前達に敵意は無い。マテライン。私と話した貴方ならば、私がお前達を恨んだり逆恨みする事など有り得ないと、もう理解出来ている筈だ』
「「ぐぬぬぬぬぬ……」」
『万が一にも、私が不信な行動をとれば、いや……もう身体は無くなるのだ。つまり思念だけでの話だが……その時こそ、私を躊躇いなく消滅させれば良い。貴方ならばそんな事、造作も無いだろう?そもそも思念だけの私が、お前達を襲う事など出来る訳が無いだろう?』
参戦したマテラは、すでにKO寸前だった。
こと論争に関しては、どうやら彼女は全く頼りにならないらしい。
確かに、スザリオは俺達に対して一度も敵対行動も取っていない。
子供達を殺されて怒り狂ってもいてもおかしくは無い筈なのに、逆に黒竜達を止めてすらいた。
恨むどころか、慈悲の心を持って使命に赴いたマテラに"感謝の言葉"さえ出した男だ。
感情に左右される事なく、通常では考えられない程巧みに精神状態をコントロール出来ている。
俺ならばどんな理由があれ、たとえ演技だとしても家族を殺した相手にあんな寛容な態度が取れるとは思えなかった。
スザリオが『恨む事など無い』と言えば、本当にそうなのだろう。
『私はまだ自我が目覚めて一年も経っていない"赤子"の様なものだ。お前達と共に歩む事で成長出来るのなら、きっと悪い様にはならんだろう。何より、佑弥の様な訳の分からん"存在"にも強い興味がある』
「どう言う事だ!?」
訳の分からん。とは一体どう言う事だ。
自覚はしているが、心外だった。
少なくとも俺はまだスザリオの前で変な体質や力は見せていないし、俺からすればたった一年足らずで言葉や《魔法》を独学で習得したスザリオの方が、よっぽど訳が解らない存在なのだが。
『まあ、そう怒るな。ああだこうだと理由づけたが、本当の所は、お前達の事が好きになってしまっただけなのだ。あれだけ獰猛で野蛮な黒竜達の王である私を、殺す事を躊躇ってしまうような優しいお前達の事がな……だからこそ、お前達と共に生きて行きたいと思っただけなのだ。これでも納得が行かぬと言うなら、私も諦めよう。直ぐに私も、皆の様に消滅させるがいい……』
「う…」
「スザリオ……」
もうマテラは完全に心折れていた。
もはや抵抗する気力すら残ってはいないだろう。
戦闘になるとあれほど頼りになるマテラも、お涙頂戴の説得には、からっきし耐性が無い事がよく分かった。
俺もこれ以上、コイツと論争出来る自信は無い。
だが俺は、どうしても譲れない点がある。
何があろうとも、それだけは伝えねばならなかった。
「わかった!お前の勝ちだ。この刀に魂を移す事を認める!だが忘れるな!マテラだけは決して譲らない!何があろうとも、マテラだけは決して他の誰にも渡さないからな!」
言葉にすると顔が沸騰しそうな程に恥ずかしい台詞だったが、今までの二人っきりの最高過ぎる生活を絶対に壊したくなかった。
二人の中は少しいい感じになってきている。と思っているのだ。
この権利だけは、何があろうと譲る事は出来ないのだ!
『何を言っているのか分からんが……これからお前の刀になろうと言う男に、何をそんなに危機感を感じているのだ?私は身体を失い"思念"だけの存在になろうと言うのだぞ……?』
「いいから誓え!!」
『承知した。それでお前の気が済むと言うのならそれも誓おう……』
もはや彼が"王"であった事の敬意など吹き飛んでしまって、敬語を使う事も忘れていた。
結局、いつの間にかスザリオにすっかりと言いくるめられる様に、俺の刀に魂を移す事を認めさせられてしまったのだった。




