黒竜王の瞳 ①
「広範囲に拡散していた黒竜達が全て"南"に集まったようだ。ゴーレム達が上手くやってくれた」
一晩経って続々と上がってくる戦況報告にマテラは満足そうだった。
ゴーレム達は一晩中、黒竜達を狩り続けていたらしい。
流石の黒竜達も、殺戮マシーンそのもののゴーレム達に追い立てられ、アレには適わないとみて戦力を南に結集したのだ。
「だが、まだ約2万体ほどが"南端"に残っているようだ。昨日見付けた強力な個体も複数残っているようだ」
未だに凄まじい数の黒竜が残っているが、昨日の"殲滅"を見た後では、さほど脅威を感じる事は無かった。
彼女とゴーレムさえいれば怖い物など、何も無いと思った。
「佑弥、準備は出来ているか?今日中には終わらせるぞ」
「いつでも!!」
「よし。行くぞ!《転移》!」
流石に《転移》にも慣れてきた。
身体が光に包まれたかと思うと、瞬時に視界が切り替わっていく。
魔法で大陸"南端"に一瞬で到着する。
そこには、見渡す限りの大地に無数の黒竜達が所狭しとひしめき合っている。
否、大地だけでは無かった。
空にも"翼を持つ黒竜"が、ウジャウジャと飛んでいたのだ。
一体のサイズ感が大き過ぎて感覚が狂ってしまうが二万体以上居るように見える。
「うげぇー。あれを全部倒すのか……」
数を数える気も起こらなかった。
凄まじい光景だ。
もしマテラが居なければ、今すぐにでもここから逃げ出したい。
「ゴーレム達にも全く異常は無い。完璧だ。さあ終わらせるぞ……」
その無数にいる黒竜達を囲む様に、一定間隔でゴーレム達が睨みを効かせている。
一晩中、黒竜を狩り続けた筈のゴーレム達は疲れた様子など微塵も感じさせず、傷一つ無いピカピカの体でジッと黒竜達を警戒し続けていた。
一匹も『外には出さぬ』と、強い意志さえ感じられた。
本当に頼りになる奴らだ。
「ゴーレム達、凄いね。一晩中に戦い続けているのに、損傷とか疲労とかしないの?」
「あいつらは私が錬金術で作った生体金属で出来ているからな。簡単には壊れないし、魔力が残っている限り《自己修復》して動き続けるんだ。勿論『疲れる』なんて事は有り得ない」
「良く出来てるね。昨日ガムダンが苦戦したような強敵は、他には居なかったの?」
「ガムダンに対処出来ない敵は、キュベレルに対処させた。キュベレルはガムダンよりも魔力コストを多く使う分、移動性能と戦闘力に優れているんだ」
強すぎるぞキュベレル…… ガムダンが消耗戦に持ち込まれるような相手でも、問題なく完勝してしまうとは……
「それよりも、佑弥。中心部を見てみろ」
訓練によって研ぎ澄まされた"視力"を使い、遥か遠くの中央部分に焦点を当てた。
数えきれない数の黒竜達の中心部に、昨日見たガムダン並のサイズの黒竜が複数確認出来る。
その中には、更に巨大な超大型の個体が複数確認出来た。
「でっか! あの中のどれかが『王』って奴なのか!?流石に、あれは相当苦戦しそうだね」
とてつもなくデカい。
巨大なゴーレム達が小さく見える程に。
全長は軽く50mはありそうだった。
「いや、そっちでは無い。その奥に"人型"の奴らが居るのが見えるか?」
「え!"人型"?」
マテラに言われ、更に注意深く中央部を観察する。
超巨大な黒竜種の陰に隠れ、人間と竜が混ざったような不気味な体型をした"半竜人"とでも言うのか、黒竜達の中でも別段"異質"な雰囲気を持っている奴らが確認出来た。
人間の形をギリギリ保っているが、サイズが人間に比べて遥かにデカい。
3mはあるか……
そして。。
「居た。あれか……」
「間違いなく、あいつが『王』のスザリオだろう。"魔力"量が桁違いだ」
「うん。俺にも分かった。あいつは、何だかヤバい…… まるで初めてマテラを見た時みたいに身体が震えてる……」
全身に鳥肌が立っていた。
無数の半竜人達の中に一人だけ、『ほぼ人間と変わらない見た目』をしている奴がいるのだ。
あの獰猛な黒竜達の中で、ほぼ完全な"人間"の存在が悠然としている光景に異常な違和感を感じた。
今までで見た中で、断トツで一番ヤバい感じがする。
「あいつだけは私が直接やる必要がありそうだな。どれだけ数は多いがやる事は昨日と同じだ。知性の芽生えてそうな奴だけ残して、後は一気に"殲滅"する」
「俺は一体、何をすれば?」
「巻き添えを喰らわぬ様、しばらくそこで見ていてくれ」
彼女はそう言うと、群れの中央上空の位置に《転移》していった。
昨日よりも黒竜達の数が多い分、群れの拡がっている範囲がとても広い。
ざっと見た感じその範囲は数kmに及んでいる。
そんな広大な範囲に及ぶ敵に対し、マテラは一体どんな《殲滅魔法》を使うつもりなのか。
俺は固唾を飲んで行く末を見守っていた。
その時。
「マテラ!危ない!」
突如空中に現れたマテラに対し、翼を持つ黒竜達が一斉に襲いかかっていく。
爪で攻撃したり、噛み付いたり、中には口から"火"を吹く奴まで。
様々な攻撃方法で一斉にマテラに襲いかかっていくが、彼女はそれらを歯牙にもかけず、完全に無視して魔力を練り続けていた。
「危なく……無いのか……」
黒竜達の攻撃など、避ける動作すら必要が無い程に戦力差があったのだろうか。
黒竜の吹いた《炎の息》がまともに直撃した時は、水着が燃えてスッポンポンになるのかと少し期待したが、よく考えたら俺があんなに引っ張っても、魔力を通してあるあの水着はビクともしないのだ。
残念。
「目標、遺伝子操作された黒竜種。特定遺伝子を持つ生命体のみを完全消滅、自動追尾付与、"魔力"設定値プラス77……」
いつもなら、敵に悟られぬように"瞬時展開即発動"の
マテラが、巨大な"魔法陣"を慎重に展開し、珍しく魔力を微調整している。
「あれは、初めて見る"魔法陣"か……」
あんな"魔法陣"は"記録"に無い。
恐らくこの状況に合わせて彼女が一から組み立てている《新魔法》なのだろう。
彼女の練り上げていく魔力が、離れた位置から見ても分かる程に、巨大で高密度になっていくのが分かった。
そして、《新魔法》の構築が終わったのか、マテラが詠唱した。
「《אורורייתה》……」
すると、彼女の前には直径10mほどの脈動する『光球』が現れる。
マテラの周りに群がっていた翼竜達は、発現した『光球』の衝撃だけで、跡形もなく消滅させられた。
「何だ……あの巨大な光の球は。まるで、小さな太陽みたいだ……」
それはまるで"太陽"の如く、辺り一面を完全な『純白』の世界へと変えていった。
余りの眩しさに、『光球』を遠くから見ているだけで目が潰れそうだった。
アレには、一体どれほどの魔力が込められているのか……
『光球』の持つ圧倒的な魔力が、数km以上も離れている俺にまでビリビリと伝わってくる。
『光球』はドクドクと脈動を続け、徐々に巨大化していった。
まるで今すぐにでも爆発しそうな勢いだ。
「これから、一体何が起こるんだ……」
《魔法》のスケールが巨大過ぎて想像もつかない。
俺は何が起こっても驚かないよう、注意しながらも展開をしっかりと見守っていた。
『קִיר!!』
その時、敵の『王』らしき黒竜が何かを叫んだ。
すると、即座に黒竜達の上空に巨大な《障壁》が展開されていく。
「まさか!《魔法》まで、使えるのか!?」
見た目の進化だけでなく、すでに《魔法》まで使う黒竜の進化に驚く。
《障壁》はかなりの範囲をカバーしており、かなりの魔力強度を持っているように感じられた。
だが、マテラは敵の《障壁》など、全く気にする様子も無い。
そして、マテラが動いた……
「《חץ הכחדה》」
「うわっ!」
最大級に膨張した『偽りの太陽』が更に眩く閃く。
"術式構成"が完全に終了した『光球』から、まるでレーザー光線のような筋状の"光"が無数に放たれたのだ。
"光"は、黒竜達を守っていた《障壁》を、何も無かったかのように一方的に貫通し、黒竜達を次々と射抜いていく。
(ピュピュピュピュピュピューン!)
『光球』から放たれる無限の"光の矢"は一瞬も途切れる事無く、まるで太陽の日照りの如く次々と発射され、触れた物を全て即座に消滅させていく。
光の速度で発射されたと思われる"光"を、黒竜達は認識する事すら出来ない。
(ピュピュピュピュピュピュ………)
耳が痛くなるほどの空気を引裂く轟音と共に、大地に"光"が降り注ぎ続けた。
黒竜の張った強力な《障壁》は、マテラの放った"光"に対して何の防御効果を見せる事も無く、穴だらけになってあっという間に霧散していった。
「あ、あ……」
その間たった十数秒。
無限に続くかと思う"光の雨"が収まった後には、あれだけの数の黒竜達に埋め尽くされていた大地が、無人の平野へと変貌を遂げていた。
まるでそこには、最初から"大群など居なかった"かの様に……
中央には、前回と同じ様に、自分に起こった事態が全く把握出来ずにいる数体の黒竜が残されていただけだった……




