まるで虫けらの様に…… ④
「全滅させるって……」
あの黒い怪物達が、まだどれだけ居るのか、何処にいるのか?それすらも分からないと言うのに。
この広いゼジャータでそんな事が可能なのだろうか?
「それはきっと凄惨なものになる。優しい佑弥の心には厳しいかもしれない。だが、それでもやらなければならない。この星の為に力を貸してくれるか?」
「も、勿論!俺に何か出来るなら……」
マテラは遺伝子改良された変異種を全て殲滅すると言った。
変異種、黒い竜の様な姿をした怪物。
略して『黒竜』……
今では俺もこのゼジャータに愛着もできた。
自分の生まれた星では無いにせよ、これからしばらくはこの世界で過ごしていくのだろう。
もしかすると、この先ずっとかもしれない。
ならば出来る事なら何でもしようと思った。
俺を地獄の底から救ってくれたマテラの"願い"でもあった。
例えそれが、どんなに大変な事だとしても。
「黒竜達は繁殖能力も桁違いに強化されている。単体の戦闘力は今の佑弥なら恐るほどのものでは無いが、問題は数だ……」
「どのぐらいの数がいるんだろう?」
「怪物の記憶から相当大規模な群れがある事はわかっている。最低でも数万匹以上はいるだろう。記憶が古いもので、もしそれからもこのペースで増え続けているとすれば、もう見当もつかないな。このまま放置すれば、ゼジャータの生物はあっという間に食い尽くされて、自然な生態系は滅んでしまうだろう」
数万…… まるで害虫みたいな増え方だ。
予想を遥かに超える繁殖速度に驚いてしまった。
「スカード達はこのゼジャータの生物を支配するのが目的なんだろう?全ての生物を滅ぼしてしまう様な怪物を作って、その後どうするつもりなの?」
「スカード達は"その後"の事など微塵も考えてはいない。奴らにとってこの星の生命などは塵芥程度の存在だ。好きなように弄び、従属させて、絶滅してしまえば、また新たに適当な生物を作り出すだけだ」
「無茶苦茶じゃないか……」
「正しく無茶苦茶だ。だから一刻も早く止めねばならんのだ。放っておけば、黒竜は瞬く間に大陸全土を覆い尽くしてしまうだろう」
『戦争には善悪などは無い』と思ってはいたが、ゼジャータにとって、スカードは完全な"災害"だった。
事の深刻さを今更痛感する。
事態は思ってた以上に深刻だったのだ。
このままでは俺の住む場所は黒竜達に埋め尽くされてしまう。
この星で過ごしていくであろう俺としても、何としてもこの星を守る必要があると思わされた。
「でも、数万って……そんな大量の黒竜達をどうやって殲滅するの?いくらマテラが強いと言ったって、俺達たった二人じゃ……」
単体では敵にならぬとはいえ、数万の敵。
更には害虫の様な速度で増え続けている。
俺が死に物狂いで毎日100匹殺し続けたとしても、一体どれだけの時間がかかると言うのか……
「それは多分問題無いだろう。とりあえず、増え過ぎた黒竜の数をある程度間引く所から始める」
「間引くだって?一体何処に奴等がいるかも分からないのに!」
「今が人類の存在しない滅亡した時代だった事が不幸中の"幸い"だった。今ならばそう難しい事では無い」
どう言う意味だろう?疑問に思っている間も無く、マテラが突如"魔法陣"を構成していく。
「……《Голем|за топење》《錬成》」
マテラはブツブツと呟きながら、大量の魔力を練り上げていく。
普段訓練で使っているのとは、桁違いの高密度の魔力が"魔法陣"に注ぎ込まれていった。
「くっ……」
あまりに高密度の魔力に当てられ、息をするのも辛くなってきた。
まるで息苦しいサウナみたいだ。
俺が十人居たとしても使い切れない様な量の魔力を、彼女はたった一人で制御している。
今の俺では想像もつかなかった。
彼女が本気を出せば、これほどの魔力を一人で制御出来ると言うのか。
「《|Повикајте》《顕現せよ》」
マテラの号令と同時に、大地には地を埋め尽くす程の巨大で大量の"魔法陣"が一斉に現れた。
辺り一面が覆い尽くされている。
「うおお、いったいどうなるんだ??」
凄い迫力だった。
これだけの大規模な《魔法》が行使されるのを見るのは勿論初めての事だった。
そして、見た事の無い"魔法陣"の様だ。
この状況に併せた最適な魔法を一から構築したというのか?
興奮で冷や汗が流れる。
「まずは、敵の勢力を把握して、可能であれば間引く!」
大地に描かれた全ての"魔法陣"が次々と発光していく。
激しい稲光を纏いながら、発光する大地から巨大な物体が浮かび上がってきた。
「こ、これは!うおお!なんだこれは!まるでロボットみたいだ!」
"魔法陣"から、見るからに強そうな人造生命体である『ゴーレム』が姿を表したのだ。
その内の五体は、上半身は人型で下半身は牛の様な四脚を持ち、まるで神話の"ケンタウロス"の様な姿をしていた。
全長は二十M程もあり、黒竜の数倍の大きさがある。
全身は銀色に光る金属の様な材質で出来ており、かなりの重厚感のある"巨大な大剣"を二本掲げている。
とてつもない迫力である。
「こっちは、ドラゴン型か!」
残りの五匹は巨大な大蛇の様な"東洋の竜"に似た形状をしており、空中を漂うように浮かんでいる。
体は金色に光る金属の鱗で覆われており、やはり二十M以上はあろうかという"ケンタウロス"と同サイズの化け物だった。
三本の鋭い爪が生えた手には凄まじい"魔力"を感じさせる"不気味な宝珠"を持っており、剣のような牙が並んだ獰猛な顎は、まるで拷問器具のようだ。
あんなものに噛まれでもしたら……
思わず身の毛がよだった。
「ふむ。久しぶりにしてはいい出来だ。よし!行け!」
「あ……」
圧倒的な存在感のゴーレム兵の登場に驚く暇もなく、マテラの合図でゴーレム達は一斉にどこかへ向かって《転移》して行った。
突然現れて、突然消えていく。
物凄く派手に登場した割には、随分とあっさりと居なくなってしまった。
あいつらに何かさせるんじゃなかったのか……?
気持ちの整理がつかないほどの一瞬の出来事に頭がフリーズする。
「ゴーレム達には、黒竜だけを探し出して殺すように"命令"してある。念の為に少し"強め"に作っておいたから、さっきの黒竜程度の相手なら、不覚を取る事は無いはずだ。このまま"半永久的"に黒竜を殺し続けていくだろう」
無駄が無さ過ぎて合理的過ぎる展開に付いて行く事が出来ない。
確かにたった二人でどうにか出来るとは思っていなかったが、それにしてもマテラの行動が迅速過ぎる。
確かにあのゴーレム達ならば、黒竜程度など相手にならない戦闘力を持っている様に見えた。
どれだけの数の黒竜が集まってもアレに勝てるイメージが全く湧かない。
あんなに恐ろしい戦闘ロボットみたいなのに狙われたら、確かにどれだけの数の黒竜が居ようとも、一溜りも無いだろう。
というか、あんなものまで簡単に作成出来るマテラに、俺に何か出来る事などあるのだろうか……?
「これで取り敢えず、大まかな奴らの勢力図を把握出来るだろう。敵の情報が無いまま無闇に突っ込んでも仕方が無い。食事でもして少し様子を見よう」
「あ、うん」
俺は何も出来ないままに、テキパキとマテラは作戦を進めていく。
そこに、いつものやや天然気味の彼女の姿は無かった。
鋭く、そして厳しい女性の姿しか無い。
目鼻立ちの完璧に整った彼女の鋭い表情は、寒気がするほどに美しかったが、やはり彼女には笑顔で居て欲しかった。
異常事態なので仕方無いとはいえ、この事態が収束するまでは、彼女の笑顔も楽しい特訓でのセクシーな姿も見られないのか……と思い、少し寂しい気がした。
そして、そんなどうでもいい気持ちなど一瞬で吹き飛ばす様な、ゴーレム達の"恐ろしさ"を知る事になる。




