まるで虫けらの様に…… ②
「何だあれは?見た事無い色だ……」
眼下に見える正体不明の黒い怪物達が気になる。
この世界に来て既に何年も経っていると言うのに、黒い体皮を持った怪物など、今までに見た事が無かった。
「ただの変異種だと思うが、念の為に調べておこう。日が落ちるまで少し時間もある。ついでに今日覚えた新技をあいつらに試してくるといい」
「わかった!見てて!」
変異種との戦いは初めての事で、若干の不安は有りつつも、所詮は怪物だ。
変異種だろうが何だろうが、今の俺にとっては怪物など脅威を感じる事は無い。
そのまま一直線に急降下して、怪物達の前に降り立った。
「うわ!あいつら、手みたいな物がある!」
間近で見ると体皮だけで無く、他にも何か所か『普段の怪物』とは異なっていた。
通常ならばこのタイプの爬虫類種の手は飾り物の様に退化してしまっているか、もしくは移動の為だけの"前脚"になっている。
だが、この変異種達は何と独立した"手"の様に進化した腕を持っていたのだ。
蜥蜴の様な爬虫類種である事は間違いない。
だが、どちらかと言うとマテラが変身する『竜』に近い形態なのだ。
「……ああ」
マテラは、先程までの明るく楽観的な様子が一変し、少し真剣な表情で怪物達を観察している様に見えた。
「マテラ。大丈夫?あいつら何か変だよね?」
「うむ。佑弥、油断だけはするな。それと、一匹だけ殺さずに生け捕りにしてくれ……」
マテラは俺の邪魔にならぬ様、いつもの様に少し上空で俺を見守っていた。
俺が戦いに専念出来るようにだ。
変異種はとっくに臨戦態勢を取っており、直ぐにでも飛び掛って来そうだった。
俺は刀を抜き、ゆっくりと身構えた。
言われた通りに少し慎重に行く事にする。
「来い!」
通じる筈も無いのに怪物に向かって吠える。
怪物も、それに応える様に迫って来ていた。
しかし、珍しい事を言われた事が気にかかる。
『一匹残せ……』
今まで一度も無かったことだ。
『グワアアー!』
何も考えずに黒い怪物達が突っ込んでくる。
見た目はともかく、性質は普通の怪物達と変わらないようだ。
俺は慌てずに先頭にいる一匹目の頭部分に《重力場》を発生させた。
瞬間、怪物の頭部はまるで見えない何かに押し潰されたかのように破壊される。
発生させた《重力場》を中心に向かって急激に圧縮させる事により、対象物を削り取る。
これは重力で空間その物を圧縮させる現象を飛び道具として使えないかと思案し発案した技だった。
鉄球のように物理的な破壊力がある訳では無いものの、狙った対象物を高重力で圧縮され破壊する事が出来る。
威力がそこまで高い訳では無いが、射程内ならある程度思うように操作出来るし、重力は【あらゆる物に干渉を受けない】特性を持っている為、盾や防御壁等も関係無く対象物を攻撃出来る。
しかも、重力自体は透明な為、かなり"避けづらい"
発生した《重力場》に即座に反応して瞬間的に避ける事が出来るマテラには通じないものの、一般的な怪物には防ぐ事はほぼ不可能の便利な技となっていた。
「おりゃあ!」
二匹目、《黒》で身体を覆い、瞬時に敵の懐まで飛び込み、刀を真一文字に振り切った。
《黒》を纏った身体は俺の頑丈な身体を、更に頑丈な物へと変え、重力の働く方向を部分的に操作する事で、推進力的な使い方も出来た。
それを上手く使えば今のように少ないモーションでの高速移動が可能になるし、体勢が崩れた場合でも強引な移動や回避が可能となる。
更に高速の体重移動と重力を乗せた刀の斬撃は、通常の斬撃よりも遥かに威力が増す。
その力で怪物を見事に真っ二つにした。のだが……
「固い?」
一瞬、刀にほんの僅かにだが、抵抗を感じたような気がした。
無類の切れ味を誇るこの刀を使って、初めて感じた違和感だった。
三匹目、横から迫って来て大きな顎で噛み付こうとするが、先程身体に纏った《黒》で弾き飛ばした。
磁石の【斥力】みたいな感じだ。
自分とは逆方向に重力を働かせる。
進行方向とは逆方向に重力で引っ張られた怪物は、訳も分からず後方に【落下】する。
これにより、敵の攻撃は俺とは反対方向へ引っ張られるので半端な攻撃は届かないし、届いたとしてもかなり攻撃力を低下させられる。
「おりゃあ!」
俺は、地面とは逆の上空へ落下して、今度は普通に大地へと落下する勢いに重力を乗せて加速する。
そのまま、倒れ込んでいた三匹目の怪物を、唐竹割りにした。
「やっぱり、少し固い!」
気の所為なんかでは無かった。
こいつらは他の怪物種に比べて遥かに頑丈なのだ。
今の俺の力と、この刀の斬れ味であれば、怪物程度なら『豆腐を切り裂くが如く』簡単に両断出来る様になっている。
この刀を使う様になって、初めて感じた僅かな抵抗に、不気味な違和感を覚えた。
更に……
『グググ……』
「襲って来ない……?」
不思議な事が起こった。
怪物はたった二体殺されただけで俺の戦闘力を即座に理解し、何時のように突っ込んで来ずに警戒しだしたのだ。
今迄も、怪物が俺やマテラの戦闘力に本能的に恐れて逃げ出す事はあった。
だが、この目の前の怪物は、それとはまた違ったのだ。
まるで無闇に俺に飛び掛った所で無駄な事を理解した上で、まるで俺がマテラと相対する時の様に対策を考えているかのような素振りを見せたのだ。
「どう言う事だ?まさか、知恵まで?だが……」
ここで睨めっこをするつもりは無い。
四匹目の警戒している怪物に《黒》を伸ばして包み込んで動きを鈍らせる。
警戒されていようが何をしようが、怪物の戦闘力では、俺の攻撃を防ぐ事は出来ない。
そのまま伸ばした《黒》をバネのように縮めて高速移動する勢いのまま、一撃で首を跳ねた。
《黒》黒の濃度や形も変えられる様になった。
密度を高めた《黒》は、視認性が上がってしまい攻撃を躱されやすいが、その分頑丈で強く『干渉』する事が出来る。
拘束された敵は"重力"に自由を奪われて、自由に動く事は出来ない。
強い"重力場"の中でも俺だけは"重力"に干渉されず移動出来るどころか、逆にそれを利用して素早く移動する事が出来る。
《黒》を使った新しい戦闘法で瞬く間に四匹の怪物を仕留めた。
変異種とはいえ、やはり今の俺の敵では無かった様だ。
「マテラ!残したよ!」
「ああ……」
マテラは約束通り残され一匹の前に無防備に降り立った。
やはり表情は真剣なままであった。
「すまんな。特に恨みがあるわけでも無いのだが……」
『ギャア!』
マテラの言葉が勿論通じる訳も無く、残された変異種は諦めてマテラに襲い掛かっていくが、彼女はそよ風の如く腕一本で怪物の攻撃を受け止めた。
「吸収させてもらう……」
(ズルズルズル……キュポン!)
怪物が死を意識する暇も無く、情けない音を出しながら瞬く間にマテラの掌から吸い込まれてしまった。
「うおっ!」
初めてマテラが敵を吸収するのを見た。
【吸収】などと、聞こえは可愛いが、恐ろしい能力だった。
パッと見は"掃除機"みたいな感じだが、攻撃に使えばどれだけ硬い防御でも関係無い、防御力無視の絶対技じゃないか……
「……」
間の抜けた"吸収音"とは裏腹に、マテラの顔が真剣な表情のままだった。
マテラは吸収した者の記憶や情報をかなりの部分まで受け継ぐ事が出来るらしい。
何か気になる"点"でも見付かったのだろうか?
しばしの沈黙の後、マテラが滅多に見せない表情でこちらへと振り向いた……
「……佑弥、すまんが夕日はまた今度にしよう」
「どうしたの?」
「こいつらには、遺伝子を改良された痕跡がある。もしかしたら、スカードの生き残りが現れたのかもしれん……」
二人のほのぼのとした、平和な日常の終わりを告げる合図だった……
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炉林佑弥.... 種族不明
HP ... 3950/3950
MP ... 0/1900
魔力 ... 0
力 ... 3300
耐久力 ... 6800
敏捷 ... 3550
属性 ... 黒
特技 …【重力干渉】【虚空記録の卵?】
【一極集中】【動体視力】【黒い物?】
《黒球》......空間を重力で無理やり圧縮させる技。圧縮に巻き込んだ部位を縮小圧縮して破壊出来る。発生時は透明で不可視。発生場所は佑弥の任意の場所に発生させられる為、ほぼ回避不可能。但し威力はそこまで高くない。
《重力場》......黒を好きな形や方向性に変化させる事が出来る。対象を上下左右に"落下"させる為、動きを鈍らせたり、逆に鋭くする事も出来る。特に炎や雷のような非物理エネルギーに対して強い効果を発揮する。
重力場の内部では佑弥のみ自由に重力を操作し高速移動が可能。他にも様々な非常に強力な凡庸性を持っている。




