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まるで虫けらの様に…… ①

 太陽が、大分下に降りてきた。

 もう少しすれば美しい夕日が姿を現し、辺り一面を真っ赤に染め上げていくのだろう。


「今日は、このぐらいにしとこうか……」


 マテラが微笑みながら近寄ってくる。

 俺の身体は既にボロボロで、立っているのがやっとの状態だったが、何とか気絶せずに訓練を終える事が出来たようだ。


「はぁ…… ありがとうございました……」


 張り詰めていた緊張の糸が切れて大地にへたり込む。

 今日は久しぶりに、彼女の背に乗せてもらって夕日を見に行く事になっている。

 こうやって、天気のいい日の夕暮れには二人で時々『サンセットデート』をする。

 それは最高に楽しみだった。

 夕日も確かに楽しみではあったけれど、それ以上に夕日を見て嬉しそうにするマテラの姿を見る事が、俺はとても大好きだったのだ。


「佑弥も大分強くなったな。《重力》の操作にも慣れてきた様だし、自分でも強くなったのを実感出来ているだろう? あの力をもっと上手く使えれば、佑弥は更に強くなれる」


 あの突然の不可視の黒い影が溢れ出した【謎の現象】から、数ヶ月が経っていたが、あれ以来【謎の現象】は起こっていない。

 俺の身体にも異変は無かった。

 強いていえば《重力干渉》を多用し過ぎた為か、目の色が"黒く"変化しやすくなってきた事ぐらいか。

 一時はあの制御不能の『力』を恐れ心配していたのだが、俺のただの思い過ごしだったようだ。


 マテラとの関係にも特に進展は無いものの、訓練の成果は着々と現れている。

 《重力》の効果や範囲、その特性を生かした戦闘法も少しずつだが確実に幅が増えてきていた。

 今では半径10m程の範囲なら、ある程度好きに操作出来るようになっている。

 今更だが、その力の事や、その力を使った技を単純に《黒》と呼ぶ事にした。

 理由は、少しカッコイイからだ。

 厨二気質のある俺は、いつも少し『ダーク』な雰囲気のあるヒーローに憧れていたのだ。


 だが《魔法》の方は相変わらずさっぱりだった。

 彼女のように長い期間『魔法に慣れしたんだ』者ならばともかく、激しい戦闘中に"魔力"を練り、イメージを物質化させ、対象に干渉して効果を得る。

 それらを全て瞬時に行うというのは、かなり難易度が高い。

 出来なくは無い。が、やはり難しい。

 彼女が気軽に使うただの"雷"の《魔法》ですら『空気中の水分をある程度個体化させ集めて雲にして、静電気を発生させ、大気の磁場やプラス電子とマイナス電子を操作して』等々、恐ろしい程に多くの工程と精密な操作が必要になっている。

 その為に"魔法陣"を使ってある程度扱い易くする方法もあるのだが、それもまた簡単とは言えなかった。

 "カンペ"があるとは言え、戦闘中に練り上げた"魔力"で図形を描くなんて大変過ぎるのだ。

 マテラはそれらを積み重ねた経験と知能で、まるで『息を吸うかの如く』簡単に日常化していたが、最近になってそれがとても異常な事だと言う事を理解出来ていた。


 その点、《黒》は魔力を練る事すら必要無く、自分の想像した通りの形や効果を持ってくれるので、遥かにスムーズに扱う事が出来ると言う訳だ。

 いずれは《魔法》も彼女の様に使いこなせるようになりたいとは思っているが、そもそも適正が薄いので、取り敢えず今は長所を伸ばす事になっている。


 純粋な肉体や体術の成長も凄まじく、マテラとの組手もかなりのレベルにまで成長していた。

 相変わらず彼女からは一本も取ることは出来ていないが、最近は気絶する事も大分少なくなった。

 それとも……彼女が手加減の具合に慣れて来たのだろうか?


「本当に、俺が一番驚いているよ。全部マテラ先生のお陰だよ!」


「いやいや、佑弥の努力の成果だよ!」


 彼女は否定していたが、自分の指導力を褒められた事をとても喜んでいた。

 薄々気付いてはいたが、マテラには『俺の事を疑う』と言った感覚が一切無い。

 大抵の、少しHな変なリクエストにも喜んで応えてくれるし(俺の事など男だと思われていない)、本気だろうがお世辞だろうが、褒めると素直に満面の笑みで喜んでくれる。

 彼女は数千年も生きてる割に、とても感情表現が豊かで、そしてなにより優しかったのだ。


 気付いた時には、俺は完全にマテラの事が"大好き"になっていたのだ。

 もはや、この感覚は好きと言うよりも"愛"と言う感覚に近い物なのかもしれない。

 もはや、彼女無しの人生など想像も出来ない。

 例え今すぐに地球に帰る為の手立てが見付かったとして、素直に帰る事すら出来そうにも無い。

 そのぐらい俺は楽しかったのだ。


 そして、そんな彼女の笑顔を見る為に、あの手この手の話題や作戦を遂行した。

 本当は、少しHな事もしてみたい"誘惑"に負けそうな時もあったけれど、この笑顔が見れなくなり『全てを失ってしまう』危険性は決して犯せなかった。

 出来ることなら永遠を彼女と共に生きて行きたい。

 その時は、心の底からそう思っていた……


 以前、親父がよく口癖にしていた、『おっぱいが大きい女性は心も大きい』という、全ての女性を敵に回してもおかしく無いような最低の発言が、今ではあながち『間違ってもいないかもしれない……』と、少しだけあの変態親父を見直している。

 親父は普通の人間だし、血が繋がっているかすら疑わしいが、あの変態性だけは確実に俺に受け継がれていたようだ。


 そんな事を考えながら、マテラと共に絶景ポイントに向かう為、拠点より少し南に進路を取っていた。

 しばらく変態的な妄想にふけっていると、何やら見慣れぬ怪物達を発見した。


「ん?」


 違和感を覚えた。

 遠目に見た所、爬虫類種の一種のようではあったのだが、怪物達の体表が全て"黒"かったのだ。

 今まで、数多くの怪物を相手にしてきたが、黒い爬虫類種には初めて遭遇する。


「なんだ?あいつら……」


 今の成長した俺にとって、怪物など特に危機感を感じる程の相手では無い筈であったが、その時は何故かとても嫌な予感がしたのだ。

 以前、マテラがいつになく警戒していた時の事を思い出した。


 最初は違和感でしか無かったこの嫌な感覚の正体を、俺は直後に知る事になる……






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