逆行 ⑥
時の流れが一定では無い黒の世界。
"私"は再びこの世界に居る。
相変わらず、ここには何も無い。
だが、この場所がただの【無】では無い事だけは理解出来る。
私がこの世界に存在くる理由すらも分からないのに、何故かその事だけは実感出来るのだ。
まあ、それも夢だからだろう……
理由など、夢の中では意味を成さない。
ここは本当に不思議な世界だ。
この世界では、一秒が一日のようにも感じる事もあれば、一日が一秒のようにも感じる事もある。
そして、いつもの様に時間の感覚が消えてしまって全てが分からなくなった頃に、この夢は覚めるのだろう。
そしていつもの様に、目が覚めるとこの世界の"記録"は全て忘れているのだ。
一度感じた事を、決して忘れる事など出来ない筈の"私"が……
そしてまたすぐに、この世界へと帰って来るのだろう……
………………
…………
……
•*¨*•.¸¸☆*・゜
「佑弥!大丈夫か!?佑弥!」
「うぅ~~」
頭が痛い。
どうやら、また意識を失ってしまっていた様だ。
いつの間にかあの『黒い影』の様な物は消えてくれたらしい。
痣も綺麗に収まっている。
「急に力を抜くから、勢い余って突き飛ばしちゃったじゃないか!一体どうしたんだ?」
マテラはとても慌ていた。
俺が久しぶりに気絶してしまったからだ。
あんなにモロに攻撃を食らったのは久しぶりの事だった。
「いや、あの"黒い影"にビックリしちゃって……」
「"黒い影"? なんの事だ?いつそんな物があったんだ?」
「え!?」
マテラに、あの黒い影の事が通じない。
あれほどの量の"黒い影"が俺から吹き出したと言うのに、彼女はそれを見ていないと言うのだ。
影というよりは、あれは辺り一面を黒く塗り潰した"漆黒"そのものだった。
あれに気付かない筈など有り得ないのだが。
「私はそんな物見ていないぞ?気の所為じゃないのか?」
だが、マテラが嘘を付いている様には見えない。
理解が出来ない。
まさか、俺の見間違い?
いや…… 俺に限って"それ"は有り得ない。
今でもあの時の"不気味な光景と感覚"をハッキリと覚えている。
だが、マテラ程の達人が"それ"に気付かない事も有り得ない。
どう言う事だ……?
「突然俺の身体が真っ黒になって、凄い量の"黒い影"みたいな物が噴き出したのが、見えなかったの?」
「夢でも見たんじゃないのか?そんな物は何も見えなかった。それは本当に黒い色だったのか?目に見えない黒?不可視の黒?この私が見逃す事など有り得ないと思うが…… いや、だが確かに佑弥が見間違う事など有り得ないし……」
マテラは真剣に考え込んでいた……
やはり、とても嘘を付いている様には見え無かった。
「間違いない、と思う。俺も意識して出した訳じゃないから、それでビックリしちゃって、気を抜いてしまったんだ」
「そうか…… 無意識に発動する不可視の黒か…… よく分からんが、謎の属性の件もあるし、少しそれについて調べてみる必要があるかもしれんな。もしかすると、佑弥の『固有ユニーク属性』なのかもしれん」
初めて聞く単語だった。
何となく響きから意味は推測出来るが。
「『固有ユニーク属性』?」
「一般的な属性とは違って佑弥だけが持つ特別な【属性】や【特技】の事だな。ユニークはとても珍しい上に、一人一人が持つ固有の物だから、情報が少な過ぎて未だに完全には解明されていないんだ。私の持つ特技の一部なんかも『固有ユニーク特技』だな」
なるほど。
だけど、あれが、俺の『力』だって?
俺の妄想が極限に達した時に生まれた"何か"だとでも言うのだろうか?
いや、それでも先程の"黒い影"が俺の『力』だとはとても思えなかった。
マテラは俺の『ユニーク』だと言うが、あの制御の出来無さは、普通とは何かが違っていた気がしたのだ。
まるで俺の身体の中に、俺じゃない何かが住み着いているみたいだ。
「いや、本当にビックリしたよ。止めようと思ったのに全く制御出来なくて、凄い勢いで溢れ出てきたんだ。本当にあれが俺の力なんだろうか……」
俺の力どころか、まるで誰かに俺の身体を操られていたみたいな気分だった。
俺にはどうしても違和感が払拭出来なかった。
やっと垣間見えた属性【黒】の片鱗に近づいていると言うのに、素直に喜ぶ事が出来なかった。
いつもであれば、新たな『力』に手放しで喜んでいる筈だ。
だけど、この力の事は素直に喜ぶ事が出来ない。
自分でまったく制御の効かない余りにも意味不明の力を容認出来ない。
どうやっても、あれが自分の力だと思いたく無かった。
「もう少し調べて、次回からは、ちゃんと自分でコントロール出来る様に……!?」
マテラは話している途中で、急に何かに気付いた様な素振りで、南の方向を睨みつけた。
激しい表情だった。
「どうしたの??」
「ただの怪物……のようだ。何か初めて感じる感覚だったのだが…… 佑弥のユニークに私も動揺してたからかな?」
それだったら良いのだが……
マテラは自分の直感が、タダの『気の所為』だったと微笑んだ。
だが…… 本当にそれだけなのか?
こんなに動揺するマテラを初めて見た。
先ほどの『黒い影』に今も同様しているのだろうか。
少し昔の俺ならいざ知らず、今の俺やマテラにとって怪物や獣などスライムと同義だ。
わざわざ警戒する程でも無いのに、一体何をあんなに動揺したと言うのか……
やはり、マテラ同様、俺も少し過敏になっているのだろうか?
そうであると思いたい……
「わかった。じゃあ、ちょっと追い払ってくるね……」
「ああ、頃合だ。それで今日の訓練はお終いにしよう」
*・゜
少し南に行くと、"拠点"の方向へ向かってくる、何の変哲の無い数匹の怪物達がいた。
難なく処理すると、残りは逃げていった。
やはり俺も、動揺して過敏になっていただけだったらしい。
戦っている間に『黒い影』の事はすっかり忘れてしまい、その後、何事も無かったかのように、マテラの手料理を楽しんだ……
炉林佑弥.... 種族不明
HP ... 2600/3200
MP ... 0/510
力 ... 2180
魔力 ... 0
耐久力 ... 4010
敏捷 ... 2050
特技 ... 【重力干渉】【虚空記録】【魔極集中】
【時を遅らせる瞳】【黒い影】
【黒い影】 ある条件下で身体から黒色の影が吹き出す。佑弥以外には視認不可。制御不能。効果不明。




