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滅んだ異世界で ③

長過ぎたので分割しました。

(ギュルルる……)


 腹の虫が豪快に『何かを食わせろ!』と鳴り響いている。

 腹が減り過ぎて死にそうだ。

 もう丸二日間、何も口に入れていなかった。

 喉も乾いてカラカラだ。

 本当に餓死寸前だった。

 何かするにしても、取り敢えず何かを腹に入れないと空腹で倒れてしまいそうだった。


 肩の痛みよりも、訳の分からない場所に放り出されたショックよりも、この襲い掛かってくる飢餓感の方が耐えられなかった。


(ドギュルルる!)


 腹の中の猛獣が咆哮している……

 腹が減って堪らない。

 俺の身体は人間よりも遥かに燃費が悪い。

 空腹には弱いのだ。

 我慢出来ずに草を少し食べてみたが、不味過ぎて吐きそうだった。

 いくら腹がへっても流石にこれは食べられない。

 それに、こんな物をいくら食べても空腹は収まるどころか、返って空腹感が増した。

 取り敢えず、草以外で口に入れられる物だったら何でも良い。

 他に何か食べられる物は無いだろうか?

 いや、水。

 取り敢えず水が欲しい。

 喉が焼け付いて痛くなってきた。

 唇がひび割れて血が…… 血は出ていなかったが、乾燥でパリパリだ。


「み、ず……」


 無心で水を探してひたすらに歩き続けた。


 ✩.*˚


「あ、あった……」


 更に数時間は歩いたであろうか、何とか果物のような黄色い物体を見つけた。

 嬉し過ぎて涙、すら枯れ果てて流れなかった。


 果物には動物に齧られたような後がある。

 見た事が無い果物だったが、きっと食べられるのだろう。

 いや、もはや多少毒があろうと何だろうと腹に入るのであれば構わない。

 一心不乱に果実をもぎ取って分厚い皮に齧り付いた。


「ぐっぬぬぬ……」


 硬い!そして苦い!

 だが、この強靭な皮の先にはきっと……

 歯が折れそうな程に硬い皮だったが、諦めずに必死で齧り続けた。

 まるで鉱物かと思う程に硬かった皮を、何とか齧りとった。


「美味い……」


 感動のあまり思わず声が漏れた。


 固い皮を必死で齧り取って、やっとの思いで到達した果肉は、堪らない程に甘く感じた。

 それは物に溢れた東京にいた時であれば、見向きもしないような不味い渋柿のような味の果物だったのかも知れないが、丸二日の間、草しか食べて無かった俺からすれば、人生で一番美味かった食べ物だったのだ。


(ガツガツ…… ムシャムシャ……)


 一心不乱に全身で甘味を堪能した。

 気付いた時には人間の頭ほどある巨大な果物を10個も平らげていた。

 果物はまだ沢山残っている。

 何とかこれで数日は"飢え"から解放されそうだ。


 何とか乾きを癒す事が出来て心が満たされたのか、安心して二日ぶりに眠る事が出来た。


 襲いかかる眠気に耐えきれず、こんな危険な場所で寝る事の危険性など、考えられなかった。


 ✩.*˚


「やっと見つけた食料が……」


 次の日の朝、目が覚めると果物は一つ残らず無くなっていた。

 きっと俺が寝ている間に、他の動物に食べられてしまったのだ。


 鳥肌が立った。


 食べられたのは果物だけで済んだが、もしここを通りかかったのが凶暴な怪物だったなら……


 飢餓感から冷静な判断が出来なくなっていた事を反省した。

 これからは周りを確認してから眠る事にしよう。

 最低でも何かあった時に目を覚ませるように工夫しなければ……


 しかし、命があった事は幸いだったが、せっかく見付けた食料も無くなってしまった。

 このままでは再び『飢え』に苦しめられてしまう。

 あんなに辛い思いは二度としたくない。


 だが、途方に暮れた所で果物はすぐに実ったりはしない。

 気を取り直して、新たな果物を探しに行く事にする。

 いつの間にか、肩の傷は塞がっていた。

 まだ若干痛みは残っているが、取り敢えず動かす分には支障無さそうだ。

 人生初の大怪我だったが、何でもかんでも治してくれるこの"黒モヤ"に感謝しよう……


 ✩.*˚


 丸一日探し回って、また果物のなっている木を見つけた。

 が、既に馬みたいな見た目の怪物達が果物に群がっていた。


「ああ!遅かったか……」


 いや待て……もしかすると……


 初日に遭遇したあの巨大な怪物にはとても敵わないとしても、あの馬の怪物程度ならば何とか倒せるかも知れない。


 馬肉…… 好きでは無かったけど親父は良く食べていたな。

 贅沢言っている場合じゃない。

 肉だ。肉を食えるかもしれないのだ。


 一度思ってしまえば、怒涛の様に食欲が湧き上がってくる。

 あの不気味な馬怪物が『食べ物』にしか見えなくなってきたのだ。


 そして、近くにあった石を握りしめた。

 多分、500gぐらいか。

 軽くは無い。

 だが、このぐらいなら非力な俺でも何とか遠くまで投げる事が出来そうだ。

 これで、あの馬怪物を倒す事にする。


「う~おおりゃああ!!」


 全力で怪物に向かって投げた石をタイミングよく《加重》する。

 これでいくらか破壊力は増している筈だ。


『ギャン!』


 怪物の身体に、見た目よりも重くて破壊力のある石礫が直撃した。

 野球部員でも無いのによく一撃で命中したものだ。

 きっと腹が減り過ぎて集中力が研ぎ澄まされていたのだ


「やった!か……?」


 怪物は少しよろめいたが、気絶させる程では無かった。

 むしろ攻撃されて怒り狂い、俺に向かって突進してきた。

 反撃されそうになり、即座に怪物に『力』を使った。


(グシャ……)


 怪物は耐えきれずに地面に倒れ込んだ。

 この位のサイズならば『力』は充分に通用するようだ。


「今だ!うおりゃあ!!死ねぇ!」


 倒れた怪物にありったけの力を込めて攻撃する!

 肉を!肉を食らうのだ!



「はぁはぁ……」


 だが、どれだけやっても怪物は死ななかった。

 怪物の頑丈さを侮っていた事を思い知らされた。

 馬程度とは言え、十倍程の体重差がある怪物に対して、殴ろうが蹴ろうが、近くにあった石をぶつけようが、俺の力では何をしても致命傷を与える事は出来なかったのだ。

 多少はダメージを与えられたとは思うが、殺すには全く足りない。

 むしろ俺がスタミナ切れでもう攻撃する事か出来なかった。


 今の俺ではどうにもならない獲物にこれ以上『力』を使い続けても意味が無い。

 せっかく見つけた獲物だが、諦めて《加重》を解いた。

 馬怪物は俺の不思議な『力』を恐れて一目散に逃げていった。

 惜しかったが、仕方ない。


「次こそは必ず仕留めてやる……」


 この圧倒的な体格差を埋める為には、非力な俺には何か武器が必要だと思った。

 いくら便利な『力』があっても、貧弱な俺が"止め"を刺す為には石などの"鈍器"では無く、ナイフの様な"刃物"が必要だったのだ。

 しかし、この大自然の中にはナイフなどある訳がない。

 何か代わりになる物を手に入れなければ……


 そして、俺は近くにあった太い枝におもむろに噛み付いた。

 木の枝をひたすらに噛みちぎって先を尖らせていったのだ。






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