逆行 ②
訓練を終えて、マテラは野営の為に準備してくれていた。
何年も岩肌にそのまま寝転んで生活していた二人なので、設備はベッドとあと数点だけ。
本当に必要最低限の物だけだった。
訓練で損傷した身体をベッドで休める。
ベッドで眠る事が出来る様になっただけでも、俺には充分だった。
マテラといる限り怖い物など何も無いし、晴れた日に"満天の星"を二人で眺めながらの就寝ほど素敵な物は無い。
「ヨシッ!」
しばらく横になっていた俺は、身体に力が戻ってきた事を確認する。
あれだけの激しいダメージを受けた後だというのに、身体は既に完全に回復していた。
折れた腕も完全に元に戻っている。
まるで《回復魔法》のように、人間の数百倍の速度で回復する俺の身体は、もはや異常としか言いようが無い。
しかも、その回復速度は日増しに早くなっている様な気がする。
回復速度だけは、マテラを遥かに超えているらしい。
通常であれば、そのような物理法則から外れた異常な治癒能力を使った場合、見た目は回復している様に見えても『精神疲労』や『記憶の喪失』など、危険な副作用が残ってしまう事も有るらしい。
だが、不思議な俺の体質のお陰か、どうやらその心配も無さそうだ。
デメリットは何も無しに、メリットだけを享受する事が出来ている。
「お!もう回復したのか!」
「ありがとう!もうバッチリだよ!」
露出度の高い"戦闘服"を着たマテラが笑顔で迎えてくれる。
俺のリクエストもあって、最近は怪物の姿での戦闘は控えめに、‘人‘の状態のままでの戦闘訓練が主になっていた。
攻撃方法や体捌きなども参考にしたい!という俺の要望だった訳だが、真の理由はだだ一心に『マテラの水着姿』を見たかったから……
ただそれだけだった。
しかし、"水着"のマテラとの戦闘訓練は決して俺が夢見たような物では無かったのだ。
いざ訓練が始まると、マテラの常軌を逸脱した格闘能力に俺は終始圧倒されっぱなしになってしまい、余計な"邪念"を持つ余裕など皆無だった。
「順調に成長はしているが、まだまだ隙が多いぞ。もっと戦闘に集中しろよ」
一瞬の油断が命取りになる……
マテラはその事を大変重要視しており、ほんの少しの隙も見逃してはくれなかった。
マテラの戦闘に対する考え方、戦法はとても厳しい物だった。
常に精神を張り巡らせていないと、一瞬で勝負を決められてしまう。
スポーツとは違い、"死合い"にはルールも制約も無い。
相手は常に『俺にとって最悪の手段』を使ってあらゆる手段を行使して殺しに来る。
本当に怖い敵は情けなど掛けてくれないのだ。
『戦闘とは、常にあらゆる状況を想定し、それに対応出来る様にするか』
そう教わった。
その為にも『集中力を維持し続ける』と言う事がとても大事なのだと……
力が強い。魔力が高い。
戦いの強さを求める以上、それも勿論大切ではあったが、結局はそれを扱うのもまた己自身。
一番大切なのは、あらゆる状況でどんな時でも何があっても『常に必ず生き残る』と言う事らしい。
戦闘は練習とは違い、たった一度の敗北で命を失ってしまうのだ。
たとえ99回勝ったとしても最後に死んでしまえば何の意味も無い。
負けた後に文句を言いたくても、その時には、俺は"死んで"しまっているだろう。
世の中には、どう足掻いても適う事の無い化け物の様な存在がいる。
もし戦闘に負けたとしても、"生きて"いる事こそが重要なのだ。
自分が負けたとしても、守りたい者の命を守れれば、それは俺にとっての勝ちなのだ。
「しかし、魔力の操作は大分上手くなったな。もう少し戦いに慣れれば、佑弥は更に強くなれる」
マテラは常時、魔力で身体を強化する《魔装》という技を使って攻撃してくる為、普通の攻撃や防御は何の意味も成さない。
こちらも常に魔力を身体に纏って戦わなければならないのだ。
その上に彼女の単純な格闘技術とスピードも、常軌を逸するものであり、瞬きする間に全身を殴打されるという有様なのだ。
『揺れる双丘』や『奈落の黒線』に一瞬でも集中力を割かれた瞬間、それが命取りになってしまう。
これがもし敵との殺し合いであったなら、俺は何十回と死んでいる事だろう。
こちらが少しでもマテラの動きに目が慣れて来ると、直ぐにマテラは速度を上げて来るので、いつまで経っても余裕を持って水着を鑑賞する暇など無い。と言うわけだ。
あれだけ水着姿での訓練に期待していたものの、期待外れもいい所だった。
だが、それでも、俺は雷の如き異常な速度で移動し続ける、マテラの揺れる胸やくい込みを、何とかして見たい!と、決して諦めなかった。
そのお陰か、命をかけてマテラの破廉恥な姿を目で追い続けていた俺の動態視力は、結果、恐ろしいまでに成長していた。
もはやそれは【特技】と言って良いレベルにまで昇華していたのだ。
そしてやはり、進化した【黒】の力だろう。
「やはり、佑弥の《重力》の結界は凄い性能だな! 本当は《雷》の魔法でトドメを差すつもりだったのだが、見事に逸らされてしまった!」
「いやいや、手加減無さ過ぎだろう……あれが無ければ今頃丸焦げにされて、まだ行動不能のまんまだったよ……」
マテラの雷ですら防いだ《重力》の結界は、ある日突然に使える様になった。
使えるようになったと言うよりは、元々使えた《重力干渉》の対象範囲が広くなっただけなのだが。
しかし、これがめちゃくちゃ使える技となった。
思考から干渉を経て発生させる通常の《魔法》とは違って俺の先天的な特技である《重力干渉》は『思う』だけで発生させれる為、《魔法》の苦手な俺の弱点を補って余りある性能だったのだ。
《重量》による防御壁は特に純粋な魔力である《魔法》や飛び道具に対してはかなり強力な防御性能を持っていた。
ただし、マテラ並に強力な肉体を拘束する程の力は無いので、先程のようにあっさりと裏をかかれる始末だ。
上手く使えば強力な技だが、あまりそれだけに頼りすぎない様にも気を付けねばならない。
「しかし、佑弥の魔力程度では、私の《魔法》を防御出来るハズが無いんだ。あれは魔力に比例しない凄い効率と性能をもっている。積極的に練習して、長所を活かした方が良いだろう!」
マテラは大きな胸を、ボヨンボヨンと弾ませながら、興奮してこの俺の力にとてつもない可能性を感じてくれている。
俺の方はと言うと、戦闘が終わって気が抜けてしまい、ろくすっぽ話が頭に入らす、ひたすらにマテラの胸を凝視しながら一計を練っていた。
今のままの俺では、防御するのに手一杯で、中々攻撃にまで『手』が回らない。
どうにかしてマテラの攻撃の隙を掻い潜り、あの胸を触りたい。いや……揉んでみたいと思っていたのだ。
どうすれば合法的に自然に胸を揉む事が出来るのか?
攻撃を失敗した素振りをして、あの巨塊に触れる分には怪しまれたりはしないのではないか?
等と、俺は色々な作戦を考えていた。
この100%邪な目的の為に編み出した、戦力差を覆すほどの大戦法は、この先訪れる未来での戦いにおいて、大局を大きく動かす事になるとは、今は知る由もない……
☆。.:*・゜
炉林佑弥 .... 種族不明
HP ... 2600/2900
MP ... 0/450
力 ... 1950
魔力 ... 0
耐久力 ... 3700
敏捷 ... 1870
特技 ... 【重力干渉】【虚空記録】【魔極集中】
【時を遅らせる瞳】
【時を遅らせる瞳】…… 高速移動する物体を少しの間、低速で見る事が出来る。




