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逆行 ①

(ドヒュ!!)

 

 まるで速射砲の様な音を立てて、マテラの右拳が俺の顔面を襲う。

 回避する暇など無い。

 何とか両腕をクロスさせ直撃するのだけは防いだが、まるで巨大な"丸太"がぶつかったかの様に数メートルも激しく弾き飛ばされてしまう。


「ぐっ!痛っ……」


 たった一発で左腕は骨折させられていた。

 回復するのに暫くかかる。

 だが、腕を折られ弾き飛ばされながらも、ほんの少しでもマテラと距離が取れた事を喜んだ。

 折れた腕はしばらく使い物にならないだろうが、マテラの怒涛の連続攻撃から、一瞬でも"息継ぎ"が出来たのは有難かったからだ。


(バリバリバリッ!)


 そんなほんの一瞬の休息の間に、彼女の頭上からは激しい雷鳴が鳴り響いていた。

 即座に俺の脳裏に緊張感が走った。

 ヤバい……


「気を抜いている暇があるのか!?行くぞ!」


 既にマテラの頭上には《魔法》によって作られた巨大な雷雲が展開されている。

 ゴロゴロと不気味な音が、今にも落雷しようと鳴り響いている。


「ほんの一瞬も、休めないのかよっ!」


 雷雲はまるで地獄からの響声の様な不吉な音を出しながら、更に膨れ上がっている。

 これから起こるであろう恐怖を想像し、額から汗が吹き出した。


 あれだけは喰らいたくない……

 そんな事を思っている刹那、激しい轟音と共に、巨大な雷が俺を貫いた。


「ギャイヤアァ~!!」


「甘いぞ! 敵から距離が取れたからって安心するな! 敵にとっても同じように《魔法》を放つチャンスなんだぞ!!」


 肌は落雷の熱で融解し、身体は感電で痺れて動かない。

 マテラの得意技である、《סופת רעמים(雷雲) 》と《מכת ברק(落雷)》の複合魔法の威力と汎用性は恐ろしく、敵目掛けて自動で方向転換しながら光速で発射される稲妻は、もはや自動追尾レーザーの様な厄介さだ。

 しかもそれがマテラの魔力が続く限り"延々"と発射され続けるのだ。

 つまり、発動させてしまった時点で『回避不可能』なデタラメ過ぎる彼女の得意技であった。


「次は喰らわないよ!」


 痺れに怯む暇も無く、すぐに二撃目の稲妻が発射された。

 俺は痺れてまともに働かない頭を、何とか気合いで動かして《重力干渉》を発動させる。

 俺の身体を放射状に包み込むように、周囲一帯の空間の"重力"が増した。


「出たな! ならばこれを防ぎきって見せろ!」


 《重力干渉》によって作った"超重力場"に、無数の稲妻が轟音と共に容赦なく降り注ぐ。

 永遠に続くような落雷の嵐が、止まること無く俺に発射され続けた。

 だが、"超重力場"の中では如何にマテラの雷とて直進する事は叶わず、全て地面へと吸い込まれていった。

 あれ程あった無数の雷が、全て俺の目前で消失していき、やがて雷雲ごと消えていく。


「ふぅ。何とか耐えきったか……」


 あれだけの"範囲"を"重力場"で包み込むのはかなりの集中力と精神力を使う。

 いくら"思う"だけで発動出来る便利な能力とはいえ、疲弊した精神ではその効率が極端に低下してしまうのだ。

 だが、俺の精神力は空っぽになってしまったとはいえ、厄介過ぎる《落雷魔法》をやり過ごす為には仕方が無かったのだ。


「あ……」


 さっきまでの場所に彼女が居ない。

 絶体絶命の《雷魔法》を防ぎきって安心したのも束の間、気付けばマテラの姿を見失ってしまっていた。

 ヤバい!あれだけ言われてたのに、また油断して彼女から目を離してしまったのだ。


「甘いぞ!」


 背後から聞こえた声に気付いた時には既に遅い。

 声と同時にマテラの蹴りが背中に直撃し激しい衝撃が俺を襲った。


「かはっ……!」


 モロに直撃した蹴りの衝撃で、呼吸が出来なくなる。

 "雷"の防御に全神経を集中させている間に、マテラはとっくに"俺の死角"へと回り込んでいたのだ。

 俺は再び数mほど弾き飛ばされ、蹴りの衝撃と地面に激突した衝撃とで、完全に身体が麻痺してしまった。

 強烈なダメージで一時的に身体が言う事を聞かず、立ち上がる事が出来なくなってしまった。


 ヤバい! 早く体勢を立て直さないと!


 たった一秒。

 戦闘中では、たった一秒の間、身体の自由が奪われる事は死を意味する。

 ましてや音速の様な速度で動くマテラを相手にしての一秒とは、命が幾つ合っても足りない程の意味を持つ。


「トドメだ!!サンダーキッーク!」


 上空からふざけた必殺技を叫びながら、恐ろしい速度で急降下してくるマテラ。

 名称は陳腐なくせに、超高温の"熱"と数億ボルトの"雷"を纏った"物理と魔法"を兼ね備えた究極の飛び蹴りが、俺に向かって一直線に突き進んで来た。


「やめてぇ!それは流石の俺でも死ぬ~っ!」


 まだ先程の衝撃で"頭"が痺れて《力》が最大限に発動出来ない。

 ましてや回避など以ての外。

 少しでもダメージを減らす為に、辛うじて少しだけ動いた身体を"亀"の様に丸く固めて、出来うる限りの防御体制をとった。

 数瞬後に訪れるであろう恐ろしい衝撃に備え、覚悟を決める。


「………!!」


 歯を食いしばって衝撃に備えた。

 しかし、覚悟していた衝撃はいつまで経っても訪れる様子は無かった。


 俺は恐る恐る、目を開ける……


「どんな時でも目を瞑るな!って言っただろう!」


 眼の前には仁王立ちで睨むマテラが立っていた。

 そして"必殺"の飛び蹴りの代わりに、強烈な"デコピン"を食らう。

 ドコーン!と"デコピン"とは思えない程の衝撃音と共に、俺の身体は弾き飛ばされた。


 完全に動かなくなった身体で空を仰ぐ。

 もし、あの蹴りをマテラが本気で放っていたしたら文字通りに俺の身体など分子レベルにまで"分解"されてしまう程の破壊力を持っていた。

 手加減されていたとしても確実に気絶は免れなかった。


 だが、今日はなんとかトドメを刺される事無く、デコピンで許して貰えたようだ。


「ぐっ!き、気を付けます!」


 最後のデコピン。

 それはトドメの代わりに戦闘訓練の終わりを告げる"合図"であった。

 身体は既にボロボロだったが、これでやっと張り詰めていた"集中力"を解放出来る。

 

 今日の戦闘訓練が終了になった事を安心して、今度こそ本当に身体中の力が抜けた。

 大きく手を広げ、大地の上に"大の字"になって天を見上げた。


 今日の訓練もまた激烈だった……

 本当に人間じゃなくて良かったと思う。


「よーし! お疲れ様!また一段と《黒》を使いこなしてきたな!」


 戦闘終了の言葉と共に、マテラが満面の笑みで手を差し述べてくれた。

 何とか手だけ持ち上げて立ち上がった。


「まだまだだけどね……」


 訓練は日々更に激しい物になっていた。

 もう使える力も《体重操作》だけでは無い。

 俺の《黒》も順調に成長していた。


 







ここまで読んで頂きまして誠にありがとうございました。

二人の主人公が長い時間をかけて旅をする物語を少しでも興味を持って頂けましたら、是非ブックマークとこの下にあります評価欄に☆でご評価頂けますと、私のモチベーションになりますので、何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m


皆さんに最後まで読んで頂く為に何度も何度も修正を重ねて更新が遅れる事も御座いますが、是非最後までお付き合い下さい。


花枕

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