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【寄り道】竜の闘着

 ある日の訓練の後……


 俺は意を決してマテラと向かい合う。

 極度の緊張から、まるで人間の様に掌から汗が滴り落ちていた。


 今から行う事は、俺にとって決して譲る事の出来ない最大の"戦い"だった。

 この戦いの成果如何で、俺のこれからのやる気が大きく変わる程の事だったのだ。


「実はこれからの訓練に関して、マテラに相談があるんだけど……」


 今まで見せた事の無いような真剣な表情を作り、今から話す内容が如何に重要な事かというアピールする。

 脇から汗が噴き出していた。


「!!一体どうしたんだ……?佑弥……」


 彼女も俺のただならぬ雰囲気を察知してくれたのか、真剣な表情で正対してくれた。


「実は、マテラが身体に巻いている布がヒラヒラして気になってしまって、どうにも上手く集中出来ないんだ。訓練中は、日本で皆が着ている『水着』と言う戦闘服に着替えてくれないだろうか?そうすれば俺も訓練に集中出来ると思うんだ……」


 勇気を振り絞って大嘘をついた。

 そんな訳の分からない理屈が通る訳が無い。

 自分でも、とてつもなく無茶苦茶過ぎる事を言い出している事は承知している。

 だが、もう引く事は出来ない。

 真剣な表情を崩す事無く耐えた。

 余りにも意味不明な大嘘に少しでもニヤついてしまったり、変な違和感を勘づかれてしまうと、この計画は白紙に戻ってしまうのだ。


 とはいえ、いくら長生きしてはいても『俺を疑う』という概念が皆無のマテラだ。

 たとえ訳の分からない大嘘だとしても、間違いなく"ここまで"の話は信じてくれると思っていた。


「なんだ!何を言うのかと思えばそんな事か!こちらこそ配慮が足りなかったようで済まなかった。その水着?そんな良い物があるなら早く言えば良かったのに!早速それの制作に掛かろう!」


 我、勝機を得たり!

 俺は自ずと拳を握り締めていた。

 第一段階は楽々突破できたようだ。

 勇気を振り絞った甲斐があった!


「本当かい!ありがとう!実は、スメーラに行った時に、使えそうな"素材"を見つけたので、もう用意してあるんだ!」


 俺はそう言ってコツコツと隙を見ては作っていた『ビキニタイプの水着』を取り出した。

 取り出す時に、俺の全身の毛穴からは大量の汗が吹き出していた。


「き、気に入って、も、貰えると良いんだけど……」


 手は震えていないだろうか?

 余りの白白しさに、俺の顔は歪んでいないだろうか?

 いくらマテラでもこれは流石におかしいと気付くだろうか?

 例えようも無い恐怖が俺を襲っていた。

 顔を上げるのが怖かった。

 だが、勇気を振り絞って視線を上げる。


 運命の瞬間だった……


「おおお!!これは素敵な戦闘服だな!身体にピッタリフィットして動きやすそうだ!ありがとう佑弥!」


 全身から張り詰めていた恐怖と緊張が抜けて行く。

 俺は、この戦いに勝利したのだ。


「良かった。俺の手作りだから、もしかしたら着心地とか良くないかもしれないけど……」


「私の為に……わざわざ作ってくれたのか…… ありがとう……」


 ごめん。マテラ……


 彼女には俺を疑う様子など微塵も感じられなかった……

 逆にこちらが深い"罪悪感"を抱いてしまう程の、弾けそうな笑顔で喜んでいる。

 思えば、今まで散々お世話になっていたというのに、俺から何かプレゼントを渡すのはこれが初めてだったのだ。


 すまない、マテラ…… だけど俺にはもう、これ以上我慢できなかったんだ……


 海よりも深く、心の底から"懺悔"した。

 だが、毎日毎日、目の前で揺れ動く"魔性"の如き魅力を持つ巨大な胸に、俺の理性は崩壊寸前だったのだ。

 せめて水着姿を拝むぐらいの嘘は許して欲しい…… と、自分で自分自身を『赦した』。


「早く着てみて!感想を聞きたいから!」


 だが、勿論"罪悪感"を感じていたのは"嘘"では無かったというものの、それ以上の欲望と期待で"罪悪感"などは一瞬の内に掻き消えていた。

 弾けそうな程に俺の胸は一杯になっている。


「よし、早速来てみよう。これは……ここに腕を、通せばいいのか?」


「!!」

 

 なんと、マテラは纏っていた布切れをおもむろに脱ぎ捨て、俺の目の前で躊躇も無く"全裸"で着替え始めたのだ!

 それは"裸"を見られる事など、なんの恥じらいすらも感じていないような、堂々とした脱ぎっぷりだった。


 ちょっと待て!それはいきなり過ぎる!そこまでの心の準備はまだ出来てはいない!


 俺は心の中で叫んだ。

 だが、その仮初の慟哭は勿論届く事などない。

 必死で声が出るのを、我慢したのだから……


「すまん、佑弥。この部分はどうすればいいんだ?」


「そんなっ………!」

 

 マテラは全裸のままで『ボヨンボヨン』と豊かな胸を弾ませながら、ブラジャーの使い方が分からないと、助けを求めて俺に近付いてきたのだ。


 眩し過ぎて直視出来なかった。


 初めて明るい所で見た"マテラの裸体"は、凄まじい破壊力を持っており、思春期の俺が直視するには危険過ぎたのだ。

 集めた全"魔力"を鼻に集中し、鼻血が溢れ出すのを防ごうとするが、そもそも集中する事すら出来ない。


「ちょっ、ちょっと待って……」


 流石にマテラが『水着の着方を知らない』とは、思いもしなかった。

 水着が初めてだとしても、スメーラには下着という物が存在していないのとでも言うのか?

 確かに、今思えばそんな単語が無かった事に気付く。


「くっ!」


 無防備過ぎる程に無防備に、超至近距離まで近づく彼女の裸体を直視する事が出来ない。

 その弾けるような裸体は、もはや一種の《精神崩壊魔法》の様であった。


 ポタリポタリと鼻血が漏れ出していく。

 血を見られないように、慌てて顔を隠した。

 

「佑弥!無視しないで、これの着方を教えてくれないか? 複雑過ぎてさっぱりわからん!ここに腕を通せばいいのか?」

 

 ガッ!グハッ!

 マテラは何とか自分なりに工夫して水着を着ようとしているが、大切な所はまったく隠さずに、"オリジナリティー溢れる方法"で水着を装着しようとしていた。

 見たい。もっとハッキリと直視したい。

 だが、流石の俺も丸出しになってしまったソレを直視する事など、到底出来なかった。


「いや……マテラ、その頭に被っている部分は、ふ、二つ穴が空いているだろう? それは足を通す部分だ……」


 耐えきれずに鼻血が溢れ出していた。

 初めて生で女性の裸体を見た。

 しかも、人間では無いとはいえ、それ以上のとんでもない美女の……


「なんだ、頭の防具では無いのか……いい感じにツノ通しが着いていると思ったんだが…… 大丈夫か!?鼻から血が出ているぞ!」


「だ、大丈夫。少しのぼせただけだから…… そして、それを、胸に被せるんだ……」


「これは、心臓を守る為の物か?なるほど……いや……戦闘の際に乳房が揺れて邪魔なのを防ぐ為のものか!! なるほど!よく考えられているな!」


「だ、だろう? 気に入って貰えて良かった」


 何とかマテラは一人で納得してくれたようだ。

 流石に俺も、先程の【丸出し】のままでは、まともにマテラを直視出来なくなってしまうし、罪悪感に押し潰されていただろう。


「これは、最高に動きやすそうだ。ありがとう佑弥……」


 どうやら、"スメーラ人"には俺達"地球人"の様に、『裸を見られるのは恥ずかしい』という羞恥心と言うような感覚は無かったらしい。


「喜んでもらえて、良かった……」


 こんな事ならもっと早くに提案するべきだったと、後悔した。

 むしろ正直に『裸を見せてくれ』と言っても見せてくれそうなぐらいでもあったが、流石にそこまで"悪"には徹しきれなかった。

 だが、俺は結果的に『全裸着替えシーン』という棚ぼた的な大ボーナスもあり、期待以上の成果を勝ち取ったのだ……


 これでいつでも記録した彼女の美しい着替えシーンをいつでも脳内再生出来る。

 俺は生まれつき備わったこの『力』に、今日ほど感謝した事は無かった。

 そして、その夜は、瞼を閉じる度に現れる美しい彼女の裸体を心往くまで堪能し、結果一睡も出来なかった。


 だが、少し寝れなかった程度で死ぬ様なヤワな身体はしていない。

 それよりも明日からの訓練では、常に彼女の悩ましい水着姿を堪能出来るのだ。

 これ程明日が来るのが待ち遠しいと思ったのは初めての体験だった。


 俺の心は、雲ひとつ無い晴天のように晴れやかだった。







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