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眩い"闇" ⑦

 朝、いつもの様に目を覚ましたものの俺は少し変だった。

 昨日見せて貰った"超爆発"とでも言えるような、凄まじかった《魔法》の事が、一晩過ぎても頭から離れない。

 未だに恐ろしくて鳥肌がたってしまう。

 テレビでしか見た事の無い第二次世界大戦の悲劇の事を考えてしまう。

 こんなとてつもない力を個人が使っても良いのだろうか……


 だが、考えた所で何も変わらない。

 俺には出来る事をやるだけだ。

 難しい事は後で考える事にしよう。


 今日からはついに《魔法》の訓練が始まるのだが、あんな大魔法は今の所必要無いし、俺には使えそうにも無い。

 出来れば、初心者用の"可愛いの"や、他の便利な《魔法》を教わろうと思った。

 衣服が透けて見える《魔法》なんかがあれば最高だが、残念ながら数千種に及ぶマテラの『魔法書』にはそんな物は存在しなかった。

 だが、衣服だけを消し去る《魔法》はあったので、なるべく早く習得したいと思っている。


「まず、《魔法》を使う為には魔力を自由自在に運用出来る様にならないとダメだ!」


 という訳で、簡単に《魔法》を使えるようになる"呪文"の様なものがあれば良かったのだが、残念ながらこの世界には、声に出すだけで発動する様な簡単な《魔法》などは存在しない。


 俺の知っている知識で例えるならば、この世界の《魔法》とは、"超能力"みたいな物なのだ。

 以前も教わった事だが、自分の魔力を燃料にして、イメージで魔力に形や性質に干渉して特性を与える事を《魔法》と言うらしい。

 イメージによって産まれる《魔法》の種類はまさしく多種多様で、明確な想像力さえあれば、あらゆる物を創造する事が出来る。

 あらゆる物を創造出来ると言う事は、あらゆる事象を起こす事が可能になると言う事だ。

 勿論、燃料たる"魔力量"と、詳細までも『イメージ出来る想像力』があっての事なのだが。

 "魔法陣"を使う事である程度は省略出来るとしても、やはり根本的には明確なイメージの力が必要となる。


 それ以前にまず"魔力"を深く感じる。という事ですら俺には厄介な事なのだ。

 魔力とは生命が生きていく上で欠かせないものらしく『魔力を内包していない生物など存在しない』と言われているぐらい、魔力自体はありふれた物らしい。

 最初のキッカケさえあれば、誰でも必ず身体に魔力は流れてくれるらしいのだが……

 残年ながら今の俺には、全く魔力は流れていないらしい。

 大気から呼吸やその他で取り込んでいる筈の魔力が全く見当たらないのだ。

 俺が、異世界人だからだろうか……

 《魔法》を使える様になる前に、まず魔力を身体に流す事から始めないと行けない。


「佑弥の属性は【黒】なんだが、今までそんな属性見た事も無いし、正直な所、私にもよく解らないので、最初は属性魔法には拘らず『魔法の基本的な発動』から覚えて行こう。まずは身体の中にある魔力を少しでも良いから、感じてみてくれ」


「はい!マテラ先生!!」


 テンションが上がっていた俺は、少しだけふざけながら、目を瞑って身体の内面に語りかけていく。


 雑念を払って精神を深く集中していく……


 マテラに会うまでは、一人ぼっちでやる事もなかったので、ひたすら訓練や"瞑想"を続けてたのだ。

 自身の魔力は流れていなくとも、戦いの最中に敵の放つ魔力の流れを感じる事は、既に出来るようになっている。

 後は落ち着いて集中すれば、自分の身体の中に流れている筈の魔力も感じる事が出来る筈だった。


「……」


 精神を集中していく。


「おお、なかなか良い雰囲気じゃないか!魔力を感じられたか?」


「ぐぬぬ……」


 ……筈だったが、これには少々苦戦した。


 身体にどれだけ問い掛けても、全く返事は返ってこなかったのだ。

 敵や大気に流れる魔力は感じられる様になったものの、自分の中にある筈の魔力を感じる事が出来ない。


 俺は地球人で、更には人間では無い。

 もしかして、魔力を運用する為の器官がそもそも存在しないのでは……


 既に心が折れそうになる。

 何度も試行錯誤し、励まされたり、挫けそうになったりしながらひたすら精神を集中するが……


「いいぞ!その調子だ!」

 

 マテラは一生懸命応援してくれている。

 マテラは覚えの悪い俺の為に、何時間も必死で魔法を教えようとしてくれている。

 何とかその期待に応えようと、諦めずに頑張るのだが……


「佑弥、疲れたか?スメーラ人ですら、最初は何年もかかって少しずつ、《魔法》を使えるようになっていくもんなんだ!佑弥の身体にもちゃんと魔力はある。後は流すだけなんだが。焦らなくても良い。心配するな!」


「大丈夫!まだ諦めないよ……」


 心配して近寄って来るマテラの弾む胸元に、うっかり集中を切らしてしまった。

 今ばかりはこの悩ましげな"巨乳"が憎らしい。

 いや、そんな事は思う訳が無いが、慣れないうちは一瞬でも気を抜けない。

 早くこれを覚え無い事には、大好きな胸元を眺める事も出来やしない。


 気を取り直して最初から意識を集中していく……


「むむむむむむ……」


 マテラの感知によれば、俺の中にも魔力は『有る』との事。

 だが、俺にはそれを感じる事が出来ない。

 脂汗を書きながら、身体の中にある筈の俺の魔力を探すのだが、どうしても見付ける事が出来なかった。

 もしかして、本当に俺の身体には魔力が無いのでは無いだろうか?

 マテラは俺を安心させる為に嘘をついているのではないか?

 不安が増大していく。


「最初は仕方がない……」


「!!……」


 マテラは必死で集中する俺を心配して身を乗り出して応援してくれていた。

『ブルンブルン』と突き立てのお餅のように揺れる胸が、俺の集中力をかき乱した。

 集中力を鍛える為にワザとやっているのだろうか?


「くっ……!」


 邪念で心が乱れた俺は、再び気を取り直して集中した。


 身体に流れている筈の魔力……


 大気にはまるで空気のように、普遍的に存在している物だ。

 いまいち自信は無いが、俺にもそれは確実に有るらしい。

 どんどん意識を内面に集中していく……


 集中は次第に深くなっていく。

 そして、奇跡的に俺は"何か"を感じ取ったのだ。


「もしかして、これ……」


 身体の一番奥の『芯』の部分に何かを見つけた。

『流れている』訳では無い…… だが、ほんの少しだけ身体の中心にある"粒"のような"違和感"を見付けたのだ。


「見付けた……」


 吹けば消え入りそうな程に微弱な"粒"だが、やっとの思いでそれを感じる事が出来た。

 きっと、これが俺の魔力だ。


「良いぞ!その調子だ!後はそれを少しずつ身体の外側に持ってくるイメージだ!」


 俺は丁度身体の中心、人間で言う所の『心臓』の辺りに感じられる魔力の『粒』を、必死に表面に動かそうとするが、どれだけ念じても"粒"は1mmも動こうとはしなかった。

 マテラは内包する魔力を動かす為のイメージを色々教えてくれるのだが、どんな方法を持ってしても"粒"は決して動くことは無かった。


「いきなりは無理だよ。普通は何年もかかって慣れて行くものなんだ。諦めないで続けて行けば必ず出来るようになる筈だ!」


「ありがとう……」


 マテラはそう言って慰めてくれた。


 この励ましに対して応えるべく、それからも俺は必死で努力し続けた。

 だが正直な所、俺にはソレが出来るようになる気が全くしていなかった。

 例えるならば、自分の意思の力で心臓や血液を任意に動かす事が出来る様になるだろうか?

 血液どころか髪の毛でさえも、人間は自分の意思で動かす事など出来ない。


 例え俺が人間では無い存在で、生まれ持った不思議な力を持っていたとしても、それに関しては同じ事だった。

 これは、努力した所で出来るようなレベルの話では無い。

 諦める気は更々無いのだが、どうやったって全く出来る気がしないのだ。


 そのぐらい『魔力を動かす』という事は、俺にとって不可能な事に感じてしまったのだ……





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