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眩い"闇" ⑤

 俺の急激な成長も伴って、訓練は日増しに激しくなっていく。

 怪我したぐらいでマテラに怖気付いていた初めての訓練の事を思い出すと、我ながら情けなくなってくる。

 今ではあの時の地獄がぬるま湯に思えるぐらいの"酷い目"に散々会っているおかげで、多少の事では怯む事も無くなった。

 そんな過酷ではあるが有意義な毎日を過ごして居るうちに……


「まただ……なんだこの感覚は……?」


 時々、訓練の最中に"不思議な違和感"を覚える時があった。

 最初は小さな違和感でしか無かったその不思議な感覚は、日増しに強くなってきている。

 それは、シンプルに"気配"の様に感じる事もあれば、敵が攻撃を仕掛けてくる前にくる"予感"の様に感じる事が出来たりする時もあった。


 その感覚に反応して動けば、より的確に相手の攻撃を躱す事が出来るし、効率的に動く事で敵の隙を見付けやすくなったりもした。

 見た目が同じ種族の敵が複数現れても、個体間にある戦力差なども"雰囲気"で分かるようになってきた。


 この"不思議な感覚"について、マテラに聞いてみる事にした。


「それは"魔力"だよ。ついに佑弥も魔力が感じられる様になったと言う事だ。怪物達は《魔法》は使えないけど、体内で生成した魔力を本能的に使って肉体を強化しているんだ。佑弥にはまだ魔力は流れていないけれど、一度でもその感覚を覚える事が出来れば、もっと鮮明に魔力を感じられる様になったり、いずれは魔力を操って《魔法》を使えるようになると思う!」


「やっぱりそうか!そんな気がしてたんだ!」


 嬉しかった。

 やっと俺にも《魔法》が使える可能性が出てきたのだ!

 俺には感じられなかったが、このゼジャータの大気には"魔力"と呼ばれる不思議な『力』が満ち溢れているらしい。

 地球人の俺からはさっぱり理解出来ないが、この"星"で生まれ育った生物は、生まれた時からまるで呼吸するかの様に自然に魔力を体内に循環させ、自分の中で有効利用する事が出来ている。

 一番近い感覚でいうならば"酸素"みたいな物なのだろう。

 この星の生物が自然に魔力を使いこなして生活出来ているのは、生まれたての赤ちゃんがいきなり空気中から酸素を取り出して有効利用する"呼吸"が出来るのと一緒なのだそうだ。

 異世界人である俺の身体には、未だに"魔力"を体内で有効利用する為の機能が存在しない。

 または、魔力自体が身体に流れない。との事だった。


 だが、コツさえ掴んで魔力を循環させる感覚さえつかむ事が出来れば、誰にだって《魔法》を使う事が出来る筈なのだ。


 とは言うものの"感覚"と言うものを新しく覚える事は本当に難しい。

 元来備わって無かった感覚や神経を開くのには、ひたすらに訓練し続ける事しか方法が無い。

 例えるならば、耳の聞こえない人に『音楽』を説明するようなものだった。


 だけど、今まで空気中の酸素を意識した事など無かった俺が、やっと魔力という未知なる感覚に目覚めつつあったのも事実。

 やっとの思いで掴む事が出来たこの感覚を、忘れない内に磨いて行こうと思う。


「しかし……いったい祐弥の身体はどうなっているんだろうな? 魔力も使えないのに《重力魔法》を操るなんて、常識では考えられないぞ」


 "重力"という物は"星"が姿を保つ限り、永久無限に発生させ続けている不思議な力だ。

 その力はこの"星"の全ての万物に"平等"に干渉している。

 それに、一切の例外は存在しない。


 その現象が"有る"事自体は疑いようもないが、地球の科学を持ってしても、未だにその正体は完全には解明されていないらしい。

 だが俺は、そんな摩訶不思議な力を"不平等"に使う事が出来るのだ。

 そんな馬鹿げた奇跡を魔力も使わずに、どうやって起こしているのかは、マテラにすら理解不能らしかった。


「それは、俺も分かんないよ。気付いた時には普通に使えた能力だから。そんな大それた物だとも思わなかったし。確かに考えれば考える程に不思議だけど……」


 物心が付いた時には、この力は当たり前の様に使う事が出来ていた。

 それこそ俺にとっての呼吸と大差ない程に。

 幼い時は力の"干渉幅"が少な過ぎた事が幸いして、運良くバレる事が無かったのだと思う。

 この力は年齢と共に強くなっていたが、どれだけ調べても、何故俺がこの力を産まれながらに持っていたのかは解らなかった。

 似たような力を持つ人物の情報も、勿論見付かっていない。

 俺が『人間では無い』という事が関係しているのは間違いないが、それ以外には全く何も分からないのだ。


「すまん、脱線してしまったな。佑弥が感じられるようになった魔力の事だが……」


「うん……」


「いいかい?おさらいをしよう。魔力には大雑把に言うと、ニ種類の使い方があって内包した"魔力"を、ステータス補正に使う《内魔法》と、体の外側に放出する《外魔法》に分けられる。例えば《炎魔法》は何も無い所に、自分の"魔力"を燃料にして炎を発生させる《外魔法》の一種だ!」


 その辺の事は抜かりなく記録していた。

 スメーラで見せてもらった情報が役にたった。

 いよいよ俺も《魔法》を使えるようになるのかと、期待で胸がいっぱいになって、マテラの説明がちゃんと頭に入らなかった。


「実際にやって見せてみよう。ちょっと干渉する対象を細かくイメージして、電子と陽電子はそれぞれの静止エネルギーとそれらのもつ運動エネルギーの和に等しいエネルギーをもつ光子に変換、ナトリウムの放射性同位体生成、原子核崩壊、放出する陽電子と原子核の周囲に存在する電子が対消滅…… 対消滅が起こるイメージを範囲限定………」


 マテラが空間に"魔法陣"を浮かべ、魔力を練り上げていった。のだが……


「マテラ!ちょっと待って!その《魔法》はたしか!」


 嫌な予感がする!

 俺の記録によると、今マテラが発動しようとしている"魔法陣"は、シャレでは済まないヤバい《魔法》の展開式かもしれない。

 というか、間違いない。


「行くぞ! 耳を塞いで!」


 慌てて耳を塞ぐ。

 既にマテラの"魔法陣"は完成し、異常な雰囲気を醸し出していた。

 あれ程難解で複雑な"魔法陣"をたったこれだけの時間で描き上げたマテラの力量にも驚いたが、今はもうそれに驚いているどころでは無かったのだ。


(ヒィィィン……)


 空気を切り裂くような不気味な音が木霊する。

 そして、俺は自分の考えていた事が間違いでは無かった事を確信し、慌てて防御体制を取った!


 数瞬後に確実に訪れるであろう"未曾有"の災害に対して……




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