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滅んだ異世界で ②

『グアア!!』


 怪物が咆哮する。

 巨大な顎から聞いた事ない程の大音量と、大量の唾液が撒き散らされた。

 その威圧は圧倒的弱者である俺を萎縮させた。

 信じられないぐらいに怖かった。

 戦闘経験など一度も無い俺は、固まったまま動けなくなってしまう。


 こんなデッカい牙で噛まれでもしたら、俺の身体はどうなってしまうのか……

 一体どのぐらいの痛みなのか……


 まるで想像も出来なかった。

 だが、間違いなく死んでしまう事だけはハッキリと解る。

 目の前に起こっている出来事が、余りにも非現実的過ぎて、まるで夢でも見ているかのように感じた。

 恐怖で意識が支配されて現実味を感じる事が出来なかったのだ。


『グギャアア!』


「うわっ。く、臭っ!」


 だが、残り数10センチの距離まで近付いた時に感じた凄まじく血なまぐさいい怪物の口臭で、惚けていた俺の意識が無理矢理現実へと引き戻された。

 しかし、気付いた時にはもう遅い。

 怪物の牙との距離は、もう数センチも残されて無いのだ。


(ザクり……)


 諦めずに必死で身体を翻す。

 だが、完全に躱しきる事が出来ずに肩を牙が削りとっていった。

 一瞬、俺の腕から先が無くなってしまったかと思う程の痛みだった。

 見た事無い程に大量の血が噴き出している。


 だが、何とか腕はまだ残っていた。

 良かった。

 だが、痛い。

 気が狂いそうに痛い。

 肩を一部削り取られただけでこの痛み。

 耐えられない。


 もう噛まれたくない。

 食われたくない。

 飲み込まれたくない。

 この場所から早く逃げ出したい。

 俺はまだこんな所で死にたくない。


 俺の人間風の紛い物の瞳に、再び活力の火が灯る。


 感情が、痛みが、本能が、肉体が、全ての俺が『死』を拒否した。


『グギャアア!!』


 だが、どれだけ俺が拒否した所で怪物は止まってくれない。

 今にも二撃目を放とうとしている。


 俺は今になってやっと気付いた。

 状況は待っていても変わらない。

 この状況を変えるには、自分が動くしか無いのだ。

 

 震えてまともに動かない足を、両手でバンバンと叩いて気合いを入れ、何とか立ち上がった。

 

「お前なんかに!食われてたまるか!」


 自分に気合いを入れる為に大声で叫んだ。

 諦める前に、俺には『力』がある。

 ここでは誰にも見られない。

 誰にもバレないよう、自分以外の生命体に使う事を封印していた秘密の『力』を使う事を決意する。

 こんな訳の分からない場所で『力』を出し惜しみして死んでしまう意味など無いのだ。


「俺はまだ、可愛い彼女を作っていない!」


 可愛い彼女を作って、あんな事やこんな事や、色々やってみたい事が沢山残っている。

 自身の中で、最も強い感情である女体への憧れで、恐怖に怯え固まって動かない身体に活を入れた!!

 狙う対象は言うまでもない。目の前に迫り来る訳の分からない怪物だ。

 

「うおおおりゃあああ!!!」


 掛け声と共に『力』を発動する。

 子供の時、犬に襲われた時も『力』を使って逃げ延びる事が出来た。

 こんな巨大な怪物に通じるかはわからなかったが、何もやらずに死ぬなんて絶対に嫌だった。


「沈めぇぇ!!」


 まずは怪物の動きを止める。

 だが、ここまで巨大な相手だと狙う"対象"が大き過ぎた。

 まず、怪物の脚を限界まで《加重》する。


『ギャア?』


 怪物がバランスを崩した。

 怪物の右脚に、数百kgにも及ぶ"重り"をのしかけたのだ。

 俺の『力』とは、狙った"対象物"の重さを変える事である。

 その能力は、認識出来る"対象"であれば生物であろうが、その辺の石であろうが、全ての"モノの重さ"をある程度増減させる事が出来る。


 今回は自由に動けなくなるように、怪物の右脚を増加させたのだ。


「つ、通じたか!?」


 他の動物のように、重さで完全に動けなくする事は出来なかった様だが、何とか怪物の動きを鈍くする事には成功したようだ。

 バランスを取る事が出来ずに走りにくそうにしているる。

 これで、何とか時間稼ぎは出来る筈だ。


「うおお!」


 怪物の動きが鈍くなっている間に、恐怖で固まっていた足を、無理やり地面から引きはがした。

 最初は1cm前に動けた。次は2cm。今度は4cm。

 少しずつ身体が、自由を取り戻していく。


「ぐおうりゃあ!」


 身体が重い。

 まるで自分の身体とは思えない程に自由が効かなかった。

 シンプルな恐怖とは、これほどまでに身体の自由を奪うものだったのか。


 ならば…… 今度はこっちだ!


 自分の体重を浮かないギリギリまで《減重》させた。

 うっかり浮いてしまわないように、地を足で踏ん張れるギリギリの体重まで低下させる。

 こうする事で、身体は風のように速く走る事が出来るし、凄い高さまでジャンプする事だって出来るのだ。


 こんな巨大な怪物に戦いを挑んだ所で、絶対に勝てる訳が無い。

 だけど、逃げるだけならば!!


「うわああ!」


 かろうじて動くようになった足で、取り柄である逃げ足の速さを活かして全速力で走り出した!!


(ドシーン! ドシーン!!)


 数百kgは《加重》してやったというのに、怪物は足を引き摺りながらもまだ俺を追い掛けてきた。

 だが、先程に比べて明らかに走る速度が低下している。

 あんなに走りにくそうなのに、絶対に"餌"を逃がすまいと、諦めないのだ。


 しかし、何せあのサイズ感だ。

 動きはとても緩慢に見えるが、歩幅に圧倒的不利があった。

 俺の一歩と怪物の一歩では距離が違い過ぎるのだ。

 だが、もう諦めなかった。


「ならば!これでどうだ!堕ちろぉ!」


 ドシィ~ン! 地震の様な地響きを響きわたらせて、怪物が前のめりに転倒した。


 今度は頭部の重さを《加重》したのだ。

 突然巨大な頭部の重さを増やされた怪物は、その重さを首の筋力で支える事が出来ず、全力で地面に顔面からダイブした。

 流石の怪物も、この衝撃は相当キツかったであろう。

 牙が数本かけてしまって血を流している。


「今の内に!」


 怪物が転倒している隙に全力で逃走した。

 驚く程の速度で俺は走り続けた。

 何が何でも止まる訳には行かない。

 並の人間ならとっくにスタミナが切れていたろうが、俺の体力は普通の人間に比べて遥かに優れている。

 更には地面を蹴る為に必要な自重を残し、体重を限界まで減少させている。

 対して怪物は、顔面を地面に強打し、頭に重い重りを背負わされて、まともに走る事など出来なくなっている。

 俺は全力で走り続けた。


 ✩.*˚


 数分も走り続けていると、怪物の姿はもう見えなくなっていた。

 流石に怪物も諦めたのだろう。

 取り敢えず、絶体絶命の危機は去ったようだ。


「何だったんだあれは!?あんな巨大な怪物、テレビでも見た事無いぞ!何なんだこの世界は!?」


 絶体絶命のピンチを切り抜けて、今起こった出来事を思い返し、再び蘇った恐怖に襲われる。

 これが夢であって欲しいと心から願った。

 だが、肉が削り取られ生々しい肩部がしっかりと見えている。

 血は止まっていたが、痛みはまだ全然収まっていない。

 残念ながら、これは夢では無く現実なのだ。


「まあ、ここに居たらまた襲われるかもしれない。取り敢えず、安全な場所を探そう……」


 取り敢えず、ここで立ち尽くしていても状況が変わるとは思えなかった。

 もしかすれば、運良く人の居るエリアに出られる可能性もある事に賭けて、この場から移動する事にした。


 俺は、この見渡す限りのとてつもなく広い荒野に向かって歩み出したのだ。



 炉林佑弥(いろりばやしゆうや) .... ??

 HP ... 人間以上

 MP ... 無し

 力 ... 虚弱

 魔力 ... 無し

 耐久力 ... 見た目よりかなり頑丈

 敏捷 ... 素早い

 属性 ... 青白いが健康

 特技 ... 【体重操作】【?】


 特技【体重操作】

 認識出来る全ての"対象物"の重さを増減する事が出来る。

 増減幅は自分の体重を減らす分には"無"まで、増やす分には2倍ぐらいまで。

 ただし自分以外の重さを操作する場合は増減幅が減る。



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