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眩い"闇" ④

『グギャオアァァ!』


 獰猛な悪魔のような怪物の顎が、俺を噛み砕こうと迫る。

 だが、どんなに見た目が恐ろしいこの怪物達でも、今の俺がこいつらに怯える事は無い。

 それ程に俺は強くなっていた。

 こいつらの攻撃方法は至極単純だ。

 人間の様にフェイントを掛けてくる事も無ければ、《魔法》を使ってくる事も無い。

 巨大で歪つなだけで、地球の肉食獣と大差は無い。

 一度でも見れば、その軌道、範囲、破壊力、全ての行動パターンを俺は"記録"出来ているので、100%それを回避する事が出来る。


 敵の攻撃を、無駄の無い"最小限の動き"で躱す。

 怪物からしてみれば、まるで俺の身体は"蜃気楼"の様に通り過ぎてしまった。と感じただろう。

 "餌"に食いつけない事に怒り狂った怪物は、そのまま巨大な顎を闇雲に振り回して攻撃してくる。


「うおっ!」


 油断していて、予想外のパターン化されていない怪物の行動パターンに面食らう。

 偉そうな事を言っておきながら、これには少しだけ慌ててしまった。

 かっこ悪い。

 多分また『慢心していた!』などとマテラに怒られるんだろう。

 迫り来る巨大な顎を、とっさに跳躍して回避するが、空中で身動きが取れなくなった所を別の怪物に襲いかかられる。


「ヤバい!」


 空中で自由に動けなくなり、今の回避行動が完全に悪手だった事に気付いたが、もう回避は間に合わない。

 何とか身体を捻って直撃を避けようとしたものの、左半身を豪快に噛みつかれてしまった。

 噛みつかれて身体の動きが封じられた瞬間、もう一匹の怪物に反対側の右半身を食いつかれた。


「し、しまった!」


 左右から怪物に噛み付かれ、完全に身動きが取れなくなってしまった。

 この程度の怪物など、今の俺には"雑魚"だと舐めてかかって慢心していた結果だ。

 二頭の怪物は"餌"の取り合いとばかりに、俺の身体を両側から二つに食い千切ろうと首をけたたましく振り乱す。


 このエリアの中で最も獰猛な爬虫類型の大型怪物……

 恐竜のような外見をした怪物の顎は、目ため通りの恐ろしい殺傷力を持っており、不幸にも噛まれた者は問答無用で身体を八つ裂きにされてしまう"天然の殺人兵器"である。

 一度でも噛み付かれてしまったら、人間などとても生き残る事など出来ない。

 戦闘中の、瞬きの間の油断や判断ミスは、即座に【死】が直結する。


 俺がもし、普通の人間だったなら……


「あ痛たたた! うわー離せっ!!」


 多少の痛みはあるものの、今の俺の身体を引き裂くには、怪物と言えども力不足だった。

 俺は怪物を《加重》する。

 急激に数倍の重力をかけられた怪物は、自重に耐えきれずに地面に倒れ込んだ。


「よし!外れた!食らえ!!」


 なんとか片方の顎から脱出すると、空いた手を反対の怪物の"目"に突き刺した。


『ギャアアア!』


 そして、そのまま目玉を握り潰す!

 片目を潰された怪物は、堪らずに俺を解放した。

 生物にとって最大の急所である目を潰された激痛により、怪物は狂ったように暴れ回り俺の事を鬼の様な形相で睨みつけていた。

 小さな俺の事を、ただの"餌"から完全な"敵"として認識しなおしたようだ。


「う…… 必死だったとはいえ、少しやり過ぎたか。ちょっと惨い事をしてしまったが、だけど、それはお互い様だ!」


 怪物の片目から夥しい量の血が噴出していた。

 いくら生死をかけた"死合い"とはいえ、無駄に惨い事をしてしまったようだ。


「だから、前も言ったろう!!戦闘中は、目前の相手の攻撃だけでは無くて、周りの状況もちゃんと把握していないとダメだ!」


 マテラが空中にフワフワと浮遊して、俺に激しい激を飛ばす。


「"試合"じゃないんだから、相手が一体だけだと思うな!」


 少しでも未熟な点があれば、直ぐに厳しい指導が飛んで来る。

 戦闘に対して彼女には一切の妥協が無い。


「目に映る武器だけが脅威とは限らないぞ!!常に考えうる最悪の状況を想定して戦わないとダメだ!!」


「物理攻撃だけに意識を集中し過ぎだ!!《魔法》を使ってくる奴もいるんだぞ!!」


「普通の人間だったらもう100回は死んでるぞ!!」


「今のが《隕石魔法》だったら、腰から上は蒸発して消えてしまっていたぞ!!」


「いま、《反物質魔法》でも使われていたら、流石の佑弥でも分子レベルまで分解してしまうぞ!」


「わ、わかってます!」


 次々とマテラの指導が飛んでくる中、なんとか怪物に止めを刺した。

 油断さえしなければ、もはやこの世界の怪物になど遅れは取らない。

 だが、強敵との戦いに於いてはその一瞬の油断すらも命取りになる。との事だった。


「佑弥は直ぐに油断する悪い癖があるな。どんな時でも絶対に"集中"を切らしちゃだめだ」


「すみません!気をつけます!」


 格下の怪物にダメージを与えられてしまうなど、マテラから言わせれば今の"死合い"は『完全に失格点』だった。

 今の失敗が同格、もしくは格上の相手であれば、俺は今頃自分の足では立ってはいられない。

 しかし……『隕石魔法』やら『反物質魔法』やら、一体どんな強敵を想定しているんだ?

 そんなマテラ級の魔法使いをベースに物事を考えられても、そのような強敵がポンポン現れるとは到底思えなかったが、戦闘に関して絶対的な信頼の置けるマテラの言う事を素直に信じて、言われるままに行動する。


 そのおかげか俺は、たった一週間で恐るべき成長を遂げていた。

 スメーラの都市から出てこの一週間、マテラとの過激な組手の他にも、旅を続けながら手頃な敵を見つけては戦闘訓練を繰り返していたのだ。


 俺はもはや日課のようになっていたステータスチェックをした。

 開く度に、目に見えて成長するステータスが嬉しくて、仕方が無かったのだ。

 基礎訓練をしっかりやった事により、実践での戦闘もかなりの速度で成長していた。


   炉林佑弥 種族不明

 HP ... 1790/1800

 MP ... 0/0

 力 ... 950

 魔力 ... 0

 耐久力 ... 2200

 敏捷 ... 1070

 特技 ... 【重力干渉】【虚空記録】


 生来すばしっこかった俺は、敏捷が大きく上昇していた。

 更に《減重》で能力を変化出来るので実際の数値は更に上だろう。

 耐久力についても異常な上昇率を見せているが、元々この世界で俺に大きなダメージを与えられる存在はマテラ以外にはいないので、いまいち実感が出来なかった。

 耐久が上がってもマテラはその分だけ攻撃を強くしてくるので、マテラとの組手はひたすらにイタチごっこだ。

 複数の怪物を素手で圧倒する程に成長したのに、いつまで経っても追い付ける気がしないマテラの戦闘力には寒気すら覚える。


 成長する事で、やっと見えてくる事もある。

 先は遠いが、いつかはマテラのステータスに追いついて見せる。と、俺は夢の様な決意を固めるのであった……



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