眩い"闇" ③
______闇夜に浮かぶ真球の月。
それは地球が誕生する以前よりも昔から存在していただとか……
これは外宇宙から来た宇宙人の"巨大な宇宙船"なのだとか……
噂や都市伝説の類は数多くあれど、勿論何一つとして証明された物は無い。
進んだ地球の科学力でも、未だに殆ど解明されていない謎に包まれた衛星である。
このゼジャータにある月もまた、地球と同じように様々な"謎"に包まれた存在だった。
違うのは、地球では都市伝説とされている噂の大半がこのゼジャータでは"事実"または、それ以上であると言うこと。
このゼジャータにある謎だらけの『月』という衛星は、内部が巨大な空洞を有しており、違う"宇宙"で生まれた種族が、滅びゆく外宇宙からこの"星系"に来る為に乗ってきた巨大な『宇宙船』だったのだ。
そしてたった今、月内部の奥深く最も深い闇の奥で長い眠りから目覚めつつある"男"が居た。
今よりも遥かに大昔、ゼジャータに根ざしていた"月の一族"と呼ばれる者達がいた。
男とその同胞達である。
月の一族は、ある一族との激しい戦争によって既に滅んでしまっていたが、その中でも唯一、特殊な能力を持ったこの男だけは、たった一人で生き伸び、復活の為の長い眠りに付いていたのだ。
男は正真正銘の"不死者"であったが、肉体はかつて行われた激しい戦闘で、完全に滅せられていた。
何とか思念体だけは母船である月へと逃げ延びたものの、蘇生するまでには長い時を必要としたのだ。
完膚無きまでに消滅させられた肉体を元の状態にまで蘇生させるのは、男と言えども途轍もない時間を要する。
「ふぅぅ……」
神話やホラー映画に出てくる【悪魔】のような外見のその男は、ゆっくりと目を開くと、辺りを舐める様に見回した。
「……?」
まだ意識が目覚めたばかりで頭は朦朧としている。自分が何故こんな場所にいるのか、正常に判断する事が出来ない。
男はとても高い知性を持つ同種の中でも、更に飛び抜けて高い知性と、凶悪で強靭な肉体を併せ持っており、皮膚は"闇"を練りこんだように"ドス黒い"色をしていた。
「……」
男は覚束無い手つきでゆっくりと『魔法具』のような物を起動させ、今の自分の状況を確認する。
男が完全に消滅した肉体を蘇生するまでに、既に数え切れぬ程の長い年月が経っていた。
共に戦った全ての仲間達、及びその子孫達は既にこの世から居なくなっている。
意識の覚醒と共に、逃れようの無い孤独が男を包み込んでいく。
「おおおぉぉ……」
男は闇の様に真っ黒な涙を流した。
復活する為に支払った、あまりにも長い『時間』という代償に絶望する。
更には、これだけの年月を『蘇生』する為だけに使ったというのに、やっと肉体の『蘇生』に成功したと言うだけで、かつて持っていた"莫大な魔力"が男の手に戻るには、まだまだ長い時間が必要だった。
これだけの時間を費やしてそれでも尚、"完全体"には程遠かったのだ。
「ぐぅうう!」
肉体が蘇生し、久しぶりに意識が戻った男は、滅せられた直前の記憶を思い起こしていた。
周りにあるものを手当り次第に破壊し尽くした後で、やっと少し平常心を取り戻していく。
男は《禁忌魔法》により『生死の輪廻』から外れた完全な"不死者"である為、何が起ころうが死ぬ事など有り得ない……
恐らく宇宙が消滅するその時まで永遠に生き続けていくのだろう。
だが、かつて男を滅した『異世界人』の『力』は、不死で類稀なる魔法師である男からしても、想像出来ぬ程に凄まじい物であった。
"不死者"であるこの男ですら『死を覚悟する』程に……
「ぐぅぅ!」
男は自分を滅した『異世界人』に何としても復讐したかったが、既に『異世界人』は寿命で死んでいるだろう。
自分以外に『数千、数万もの"時"を生きる者など、存在するわけが無い』のだ。
男は復讐する相手が、もうこの世には居ない事を心の底から嘆き悔しみ、再び『黒い涙』を流した。
男の同胞達は、もうたった一人として生き残ってはいない。
唯一の救いは、自分達を滅ぼしたスメーラ族もまた、長い時の中で滅亡してしまっている事か……
復讐すべき相手はもはや存在しない。
男が近い将来、かつての力を取り戻し、完全復活した際には、その力はこの星で、いやこの宇宙で一番の物になるだろう。
だがその時に、男の周りには最強であるという称号の他に何が残されているのか……
考え抜いた末に、男は自分に出来る唯一の復讐、唯一の救いとして『この"星"全ての生命体を我が支配下に置く』事を誓う。
その為に、男は近い未来の事を考え、既に滅亡してしまった同胞達の"代わり"を作る事にした。
自分と一番近い遺伝子情報を持つ生物の遺伝子を"改良操作"して、自分達に似た"知性"を持つ生命体を創造しようとしたのだ。
新たなる生命体の創造、改良の手段は幾度となくおこなっているので男にとっては難しい事では無い。
だが、"遺伝子改良"された生物が種として確立し、ある程度の文明を築くまでは相当の時間を要する。
普通であれば、早くても何世代もの時間がかかるだろう。
せっかく"星"を支配出来たとしても、その時に未熟な知性しか持たない仲間では面白くない。
なので今回は、男の遺伝子をそのまま適合する生物に埋め込む事にした。
本来ならば時間がかかる知的生命体の創造も、この方法ならば短期間で誕生させる事が出来るし、外見も限りなく男に似た存在になるだろう。
そして男は、自分の遺伝子の【種】を特別な装置で"星"へと送り込んだ。
リスクはある。
眠りに付いている間は【種】がどうなろうとも、見守る事も、修正する事も出来ない。
だが、同胞達のいなくなったこの星の在来生物の事などどうでも良い。
仮に全てが絶滅したとしても、新たに一から生命を創造すれば良いだけの話。
「ククク。次に目覚めるのが楽しみだ……」
そして再び、暗い月の内側で完全に復活するまでの間、眠りに付くのだった……




