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"邪"と戦う ④

「う~ん……」


 マテラが何か煮え切らない表情をしている。

 何か俺に言えない秘密でも有るのだろうか?


「マテラも一緒に戦っていたの?」


「私はまだ少女だったので、あの時の戦争には参加出来なかった。だが、まだ子供だった私は戦争の後、英雄である『彼』に興味を持ち、よく付きまとっていたのだ。実はその時に少しだけ彼の"ローブの中"を見た事がある……」


「え!?どんな感じだったの!?」


 俺は思わず身を乗り出していた。


「私もまだ子供だったからかあまり警戒心を持たれなかったのかも知れない。『彼』は慌てて顔を隠したので、ハッキリと姿を見た訳では無いが、少なくとも普通の人間では無かった。浅黒い肌で、強さ通りのとても恐ろしい悪魔の様な凶悪な顔をしていた。子供の私は思わず怖がってしまったが、その時に慌てて私をあやしてくれた時に垣間見えた、慈愛に満ちたあの『優しい瞳』は一生忘れられない。そして、決して"彼の姿を見た事"を他言しないように言われたんだ。佑弥だから、特別に話した……」


「そうだったんだ…… ありがとう。そんなに怖い見た目をしていたんだ。俺とは違うみたいだね……」


 大切な秘密を共有して貰えた事は嬉しかったが、『彼』の見た目が人間とは違ったという事は少しだけガッカリしてしまった。

『彼』が本当に俺と同じ種族なのだったら、俺の正体を知る事が出来たかも知れないし、もし同じ日本人であるとすれば、帰還の手がかりになると思ったのだ。

 もし『彼』が俺とは違う世界の『異世界人』だったとしたら『彼』を見付けたとして日本に帰る方法は解らないだろう……

 だが、ならば何故"日本刀"を持っていたのか?


「私は、民を守る使命を持った"王族"の末席にありながら、あの戦争では何も守る事が出来なかった。そればかりか『異世界人』の助け無くしては確実に命を失っていただろう。故に、私はひたすらに力を求めたのだ。"他人"の力を借りずとも、自分の大切な者を守り抜く事が出来るように……」


 マテラが昔を思い出したのか、辛そうな表情をしていた。

 拳は固く握られていた。


「済まない。私もまだ少女だった為、それ以上の事は分からない。王であった父上や姉上ならば、他にも何かを知っていたのかも知れないが……」


「いや、充分だよ。話してくれてありがとう」


 当時少女だった彼女に、政治や戦争に関係するような情報が伝わっていたとは思えない。

 にもかかわらず、マテラに申し訳無さそうな顔をさせてしまった事を悔やんだ。


 しかし、何故『彼』はそこまでスメーラに肩入れしておきながら、何も言わずに去ったのだろうか?

 不気味な見た目を人目に晒すのを恐れていたのだろうか?

 それとも、かつての俺のように"正体"がバレるのを恐れていた?

 いや…… 竜族がいるこの世界で、それは無いか……


 不可思議な行動と秘密の多い過去にここを訪れた『異世界人』の事が、気になる。

 貴重な『異世界人』の話を詳しく聞けたのは非常に有難かったが、残念ながら直接"帰還の方法"に結び付きそうな情報は、何一つ得られなかった。

 振り出しに戻る所か、謎は更に深まっていく。


「所で、『魔法書』はもう諦めが付いたか?そんなに簡単な量では無かっただろう?」


「あ、ありがとう。何とか全部覚えたから、もう大丈夫だよ。けど、スメーラ語はまだ覚えられていないから、まだ意味は全く理解出来ないんだけどね……」


「覚えた?何を言っているんだ?」


 俺の記憶力の事はまだ言っていなかった。

 流石のマテラもそれには驚いていた

 取り敢えず、一度でも目を通したり聞いたりした物は全て覚えられる事だけ説明した。


「"完全映像記憶能力者"と言うやつか…… 信じられない能力だな……」


 厳密にはそれとは違う気もするが、完璧超人のマテラに認められたのが嬉しかった。


 しかし、"スメーラ語の教本"は記憶したものの、当然"日本語訳の教本"がある筈も無く、すぐに理解するのは不可能だった。

 まあ、解らない事はおいおいマテラに教えてもらっていけば、そのうちに覚えられるだろう。


「残念だが、もうここで調べられる事は無い。だが帰る前にあと1箇所だけ付き合ってくれないか?」


「もちろん。何処へ行くの?」


 名残は惜しかったが、俺達は情報庫にあった『異世界人』の情報を調べ終えて、端末機のある部屋を後にする。

 そのまましばらくマテラの後を付いて行くと、大きくて一際立派な部屋に辿り着いた。

 全ての調度品やスケールが何ランクも上がっている。

 まるで、この城の中で一番偉い人が居る場所のようだった。


「ここは……!」


 間違いない。

 ここは…… 王が座す【謁見の間】だ。


「そこだ……『彼』はそこに立って、当時王であった"父"と話していた」


 マテラは玉座の前で振り返り、今俺が立っている場所を指差した。

 足元にはスメーラの至る所で見る事が出来る『竜と太陽の印』がある。

 恐らく"国章"だろう。


「初めて『彼』がスメーラに現れ、王に謁見した日、スカード軍による奇襲が行われたのだ。『彼』は王と私を奇襲から守り抜き、スカード軍を撃退してくれた。運良く『彼』がここに居なければ、ここでスメーラは王を失い、スメーラという歴史は完全に消滅させられていた。無論、私の命など無かった筈だ……」


 マテラはその時の様子を思い浮かべていた。

 突然の悲劇の告白に驚き、マテラの真剣な眼差しに圧倒される。

 結果的に勝利したとは言え、激しい戦争だったのだろう。

『彼』が運良くここに居合わせたお陰で、"最悪"は免れたとはいえ、ここで起こった戦闘が如何に凄惨なものだったのか、勝利の為に支払った代償がどれだけ大きかったのか、既に修復されている為この部屋の現状からはそれを知る事は出来ないが、マテラの悲痛な表情だけがその凄惨さを物語っていた。

 勝利の為に、一体いくつの命が犠牲になったのだろうか?

 戦争とは"勝ったから全て良し"という訳には行かないのだ。


「昔の話だ…… さて、"異世界人の消息"については当てが外れてしまったが、仕方がない。一旦『異世界人』探しは諦めて、他の地域で何か変わった事象でも起きてないか探してみる事にしよう。もしかしたら、私が篭っている間に見逃している"事変"が有るかもしれん」


「そうだね。まだまだ行っていない場所も沢山あるしね」


 次なる目標を設定する。

 だが、俺には少し気になる点があった。

 俺達の他に誰も居なくなってしまったこの街の事だ。


「ねえ、マテラ。戦争にも勝利して、これだけ文明が発達していたスメーラは、何故滅びてしまったの?」


「……この『異世界人』が去った後ぐらいから、スメーラには子供が産まれなくなってしまったのだ。私達の世代を最後に、それ以降誰一人として新たな子供が産まれることは無かった」


「え、どうして?」


「理由は今となっても分からない。私達の『祖』が"竜"だと言う話はしただろう?竜が長い年月を経て魔力を持ち、進化して今の私達のようなスメーラ人となった。【始まりの種】であるスメーラ人には、長い時間の繁栄の間に多様の亜種が生まれた。多様な亜種を生んだ"種"としての役割を終えた"種"としての寿命だったのかも知れないし、他に原因があるのかも知れん。長い間研究を続けていたが、結局原因は未だに分からないんだ……」


「そうだったのか…… 悲しいね」


「そうだな。だが、それもまた"もう終わった話"だ」


 種としての寿命……

 人間の種である類人猿や新生人類等も確かに滅亡してしまっている。

 人間もいつの日か、進化の果てに滅亡する時が来るのだろうか……


 マテラには悲しい記憶を思い出させてしまったが、マテラが既に吹っ切れていると言うのに、俺が悩んでいても仕方がない。

 俺にはスケールが大き過ぎる話だったし、もう終わってしまった過去の出来事に、今更俺なんかに何かが出来る訳でもない。

 

 淀んだ気持ちを切り替える事にする。

 元気を出して他の方法を探そう。


「では行くか…… 思ったよりも長く居過ぎたようだ」


「そうだね……」


 俺達は【玉座の間】を後にし、名残惜しくもスメーラを去る事にした。


 しかし…… こんなにも真剣に過去と向き合って、自分の為に心血を注いでくれる彼女に対し、昨夜の自分が抱いていた"邪な思い"の事を酷く恥じた。

 かつて戦争があったその場所で、仲間を失った悲しみを俺に気取らせないよう、明るく振舞ってくれていた彼女に対し、俺は『豊かな双塊(ボイン)』の事で、頭がいっぱいだったのだ。

 

 こんな大切な場所で俺は一体何を考えていたのか……


「マテラ……ごめんね……」


「ん?何がだ?」


 だが、それでも尚、当分マテラを正面から直視する事は出来そうにも無かった。

 あの豊満で悪魔的な魅力を持つ胸を見る度に、昨夜の事が頭をよぎる。

 やはり、いつの日かもう一度チャンスが訪れたその時は勇気を出そうと、心に誓った。


 ✩.*˚


 因みに、お風呂とベッドは、何時でも携帯倉庫から取り出せるとの事だった。

 マテラは余りに長い間、竜の姿で居たせいで、"人"としての生活様式をすっかり忘れていたらしい……



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