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"邪"と戦う ③

「大丈夫か?目の下が真っ黒だぞ?」


 昨夜は結局、殆ど寝る事が出来なかった……

 一度起きれば大抵の事では目覚めないし、ノビ〇君並に寝付きの良い俺は、家族に『人間離れしている』と良く言われていた俺だったが、昨夜の"敵"だけは特別過ぎた。

 その"敵"はすぐ目の前に居るのだが、そんな事などまったく無自覚な表情で、こちらを心配そうに眺めている。


 この人は、一体俺の事を何だと思っているのだろうか?

 性欲の欠片も持たない"人畜無害"な"聖人"だとでも思っているのだろうか?


 だが、全く無自覚に色気を撒き散らしているだけのこの人の事を責めるつもりなど1mmも無いのだが。

 たかが寝不足程度と、あの『昨夜の思い出』を天秤にかけると言うのなら、考えるまでも無い。

 たとえ、我が身が睡眠不足で死ぬ事になったとしても、後悔などしない。


 だが、俺とていつまでもウブな少年の心を持ち続けている訳では無い。

 いつの日か、一緒にお風呂に入り、あの柔らかな"物体"に顔面から飛び込んでやる!と心に誓ったのだ。


 ¸¸☆*・゜


「ご馳走様でした!」


 簡単に、とは言え"量"は相当だったが、朝食を済ませて腹ごしらえをする。

 今日はいよいよ、城の【情報庫】とやらに『異世界人』の痕跡が残っていないかを調べに行くのだ。

 だが。。


「この規模のお城だ。きっともの凄い量の文献があるんだろうね。一体、見つかるまでに何日かかるんだろう……」


 俺は数千数万の蔵書を誇っていた学校の図書館をイメージしていた。

 大量にある本の『海』から、目当ての一冊を探し出すだめに片っ端から調べて行くなど、いくら記憶力に優れた俺でも、とてつもなく大変な作業になる。

 更にその中から、あるかどうかも分からない異世界人の情報など見付ける事など出来るのだろうか……


 だが、不安そうな俺とは違い、マテラは余裕な表情をしていた。


「探すとは言ってもそんなに難しい事では無い。城の【情報庫データバンク】にアクセスして、必要な情報を検索するだけだからな。とは言え関連した情報も含めて数時間はかかると思うが……」


「え、どういう事??」


「説明するよりも見た方が、早いな……」


 言われるがままに、早速【情報庫】を()()()もらった。

 そして【情報庫】とやらの正体を知って驚いた。


 中世ヨーロッパのような建築物が並ぶスメーラの文明ではあったが、大気に普遍的に存在する"魔力"を、まるで電気のように利用する不思議な科学技術が確立しており、分野によっては日本よりも遥か進んだ科学が存在していたのだ。

 理論を説明してもらっても今の俺にはサッパリ分からないが、その中でも魔力を応用した"空間"に対する研究や人工知能的な疑似生命体を使った分野に関しては、日本よりも圧倒的に進歩していた。


פועל(電源ON)


「すげぇ……」


 マテラがスメーラ語で端末に話しかけると、何も無かった空間に操作盤と投影モニターの様な物が浮かび上がる。

 マテラは慣れた手つきで操作盤を操り、必要な情報を検索していった。

 その慣れた手つきはまるで一流プログラマーがコンピューターを操る姿の様だった。

【情報庫】とやらは、その古臭い名前とは裏腹に、日本でいう"巨大サーバー室"のようなものであり"端末"さえ繋がれば好きな情報を簡単に閲覧する事が出来るらしい。

 完全にパソコンやスマートフォンの"超上位互換版"である。


 何やら凄そうな情報が表示されてそうだったが、理解不能な文字や音声ばかりで、今の俺にはまったく何も理解出来ない。

 ただ見ているだけなのも退屈だったので、俺はマテラに少しお願いをする事にした。


「マテラ、待っている間に《魔法》関連の情報を見せて貰いたいのだけど……」


「勿論構わないが、『スメーラ語』は読めないだろう?」


「あっ。そうだ『スメーラ語』の辞典みたいな物もあれば……」


「……構わないが。だが、どっちにしても膨大な量だぞ?何から見せればいいんだ?」


「出来ればあるだけ見せて欲しいんだ。今は使えないけど、いつか役に経つかも知れないから……」


 今は《魔法》を使う事は出来ないが、いずれ使える様になるかも知れない。

 その時に必要な知識を思い出せるように、記憶しておきたかったのだ。


「そんなに簡単に調べきれるような量の物では無いのだが…… まあいい。こっちの操作盤に『魔法書』関連の資料を表示しておこう。こちらはまだ時間がかかる。それまで気が済むまで見ればいい……」


「ありがとう!」


 マテラに簡単な操作方法だけ説明してもらう。

 彼女が『異世界人』について調べている間、俺は大急ぎで《魔法》の知識を記憶していった。



 ¸¸☆*・゜



 数時間かけて、マテラは検索結果を全て調べ終わったようだ。

 "人工知能"がかなり最適化してくれている情報とはいえ、数千年に渡るスメーラの全資料を調べるのは、やはり簡単とは行かなかったらしい。

 その結果……


「すまない。やはり以前に話した『異世界人』の話の他には、有益な情報は何も見付からなかった……」


 マテラは申し訳無さそうな顔をしていた。

 こちらとしても、そこまでの期待するな。と念を押されていたので、逆に申し訳無く思ってしまった。


「以前にマテラを救ってくれたという『異世界人』の話? その人の話をもう一度詳しく聞いてみたい」


「いいだろう……『彼』の事なら、私もよく覚えている。何かの糸口になるかも知れない。知っている限りの事を話そう……」


 そして、マテラは語り始めた。

 スメーラを救った英雄だった『彼』の話を……


「『彼』は、とても不思議でとても力のある者だった。ある日突然この地にフラリと現れ、当時敵対勢力であった【スカード王国】の襲撃から、この国を救ってくれたのだ。その力はとても人の力とは思えない程の凄まじい物だったらしい」


 マテラは語り続けた……


「漆黒の不思議な形をした"刀"を持っていて、スメーラの知らない不思議な超能力を使い、莫大な魔力で大規模な自然災害まで操っていたそうだ。たった一人で戦争を終わらせて、スメーラに平和をもたらした後はしばらく城で生活していたのだが…… いつの間にか、『彼』は私達の前から姿を消してしまったんだ。その後の彼の消息については何も分からない。元いた場所に帰ったのか、何処かで死んでしまったのか…… 残念ながら何も記録は残っていないんだ。『彼』は写真や、名前など、痕跡を残す全ての事を嫌っていて、普段から分厚いローブを羽織り、顔も"面"で隠していたので姿形に関する情報は何も残っていない。『彼』の事をずっと『彼』と言っているのは『彼』が名前を決して名乗らなかったからなんだ」


「正体を隠していたって事なのか……? 一体、どんな見た目だったんだろう……」


「そうだな……」


 俺はその異世界人が人間だったのか? 日本人だったのか? その点がとても気になった。

 "不思議な形の刀"とは俺がマテラに託された刀と同じ形の事だ。

 日本人の俺からすれば逆に見慣れた形だったが、確かに地球の歴史から見ても、その形はかなり"異質"の部類に入る。

 西洋の文化に近いスメーラの中では尚更異質に感じられのだろう。

 ほぼ間違いなく、この刀は"日本刀"だ。

 もし『彼』が日本人だとしたら、俺と同じ方法でここへ飛ばされて来た可能性が高い。

 日本人では無かったとしても、こんな物を持っているぐらいだから、間違いなく『日本』という知識を持っている人物だ。

 きっとそこに、帰還する為のヒントがあるのだと思った。

 

「当時スカードはゼジャータで一番の超軍事国家だった。それを単騎で撃破する戦力はこの世界の常識では考えられない。彼が異世界人から来たと言える証拠がある訳では無いが…… 間違い無く彼は『異世界』から来たのだと思う……」


 話をしながら、マテラはいつもとは違う、何か悩んでいるような真剣な目をしていた。


 何故だ……?




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