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異世界都市 ⑤

 かつて、スメーラ王国だったという跡地に降りたった。

 だが、周囲には都市を感じさせる物など何も残っていない。

 これが、かつてたった一人で探し続けていた異世界の"文明"だった。

 こんな物を見付けた所で、一体何が出来ると言うのか……


「あれは……」


 元々は、立派な建造物だったのだろう。

 きっと目を引く程に美しい街並みがあったのかもしれない。

 だが、ここに残されていたのは、すっかり風化してしまって殆ど原型を留めていない建物の残骸らしき瓦礫ばかりだった……


 時間は全てを"風化"させてしまう。


 これが、探し求め、憧れていた異世界文明。

 口にこそ出せなかったが、ここに何かしらの有益な情報が残っているとは思えなかった。

 保存再生技術の発達した"地球"ですら、数百年も経てば、建造物など風化してしまって原型を保つ事など困難なのだ。

 数千年も昔の建造物や資料など、到底残っている筈も無かった。

 もし俺が、マテラに出会う前にこの廃墟を訪れてしまって居たなら……


 けれど、それをマテラに言っても悲しませるだけになる。

 何も思っていないフリをしながら、ただマテラと共に朽ち果てた廃墟を歩き続けた。


「……」


 マテラは何も語らなかった。

 ただ廃墟の中を、黙々と歩いているように見えた。

 そして、不意にマテラが立ち止まった。


「あそこだ。あそこの下に、私たちの街が眠っている」


「え!?」


 指差された方向を見てみると、一際巨大な建造物の残骸が見えた。

 他の残骸よりは巨大ではあるが、やはり俺にはただの残骸にしか見えない。

 あれが都市だとでも言うのか?

 俺は、何も言えなかった。


 だが、彼女が残骸の近くまで行って手を払う様な仕草すると、残骸を埋めていた土砂や岩が綺麗に吹き飛ばさていく。

 その下から、他の瓦礫とは全く違う研磨されたかのような光沢のある何やら硬い石扉の様なものが現れた。


「え!?なにこれ!?」


 石扉には何かの"模様"の様な物が描かれている。


「ふふ、まあ見てろ。《ការបើកទ្វា(開門)》……」


 彼女の国の言語だろうか?

 マテラが謎の言語を呟くと、石扉は一瞬発光し、音も無く消え去っていった。


「さあ、いくぞ!」


「おおお……!」


 消えた扉の奥には、横幅10mはあろうかという巨大な階段が現れ、かなり下の方まで繋がっていた。

 マテラの後を追い、階段を降りていく。


「なんだ……これは……!?」


 長い階段の先には、地下だと言うのに煌々と夕日に照らされ、光り輝く街並み姿を現したのだ。

 さらに、不思議な事にまったく老朽化もしていない。美しく、立派な街だった。

 それは、まるで映画に出てきそうな古い石造りのヨーロッパ風の建築物と、所々にある未来の科学技術みたいな物が合わさったような不思議な近代都市だった。

 都市の中には運河や高層ビル、何かは分からないがまるで娯楽施設かのような楽しそうな建物まで見える。


「うおおっ!」


  そしてその中心には、ここが王都であると威風を放つかの如く、巨大で荘厳な城がそびえ立っていた。


「どうだ? 美しいだろう! これが私の自慢の故郷スメーラ王国だ!」


「いや、めちゃくちゃ驚いたよ! てっきりボロボロの廃墟だとばかり思っていたよ!あっ!」


「ふふふ。気にするな。佑弥を驚かせたくて黙っていたんだ」


「なっ……!」


 ガッカリと気を使って言葉に詰まっていた俺の気持ちを返せ。と言いたくなった……

 時々彼女はこうやって、イタズラみたいな事をするのだ。


 しかし、本当に驚いた。

 この全てが滅亡してしまっているゼジャータで、これほど近代化された都市文明が今も当時の姿のまま残っていたとは。


 なにやら都市全体に状態を保つ"保存魔法"がかけられていて、マテラの生きている限り、この美しい状態を保つ事が出来るのだという。

 初見とは全く異なった、失われた異世界古代文明の科学力に驚くばかりだ。


「さっそく目的地の資料室に行きたいのだが、私も随分と久しぶりの帰郷だ。"日"もそろそろ落ちるし、今日の所は私の家でゆっくりと休んで、本格的な調査は明日にしようと思う」


「わかった!」


 マテラはそう言うと、テクテクと街の中心に向かって歩き出していく。

 俺も慌てて後を付いて行った。


「懐かしいな。昔ここの店主と魔道具の品質の事で大喧嘩してな……」


 マテラは時折立ち止まっては、場所にまつわった思い出話を語ってくれた。

 俺の知らないマテラの日常を知れる事が楽しかった。


「しかし、これまた…… 《保存魔法》って凄いね」


 この都市が一体どのぐらい昔に滅んだのかは知らない。

 だが、実は今でも建物の奥で人々が生活している。と言われても驚かない程に手入れが行き届いていた"街並み"の状態に驚いてしまう。


 確かに美しい街並みである。

 だが、歩いているのは、俺とマテラとの二人だけ。

 この広い街並みで俺達二人の声だけが木霊する。

 静寂に包まれた街は、美しくもあるものの、例えようの無い寂しさに包まれていて、思っていたような、楽しい冒険を期待していた自分の浅はかさを恥じた。

 どんなに美しい姿を保っていたとしても、やはりここは"廃墟"なのだ。

 これだけ美しい建造物が当時のまま残っていたとしても、全く人が居ないという不思議な街並みは、やはり言い様のない寂しさと、少しの恐怖を感じさせた。


 マテラも、長い間ここには『帰って無かった』と言っていた。

 せっかく故郷にたどり着いたとは思えない程に、マテラの口数は少なかった。

 俺にとっては少し薄気味悪い程度でも、マテラにとっては今も尚、ここは自分の故郷なのだ。

 大勢の人の活気に満ち溢れた以前の栄えた時代を知っているマテラには、この不気味さは堪えがたいものが有るのかもしれない。


 自然と口数が減る。


 様々な思いに耽りながら、粛々と街を歩き続けていると、いつの間にか都市の中央エリアまで辿り着いていた。

 この辺りは商店などの姿は殆ど見かける事は無く、立派な豪邸が所狭しと立ち並んでいる。

 元々は貴族などの"身分の高い者"が住むエリアだったらしい。


 その中を、マテラはどんどんと突き進んで行く。

 比例して豪邸の規模が上がっていく。

 マテラは、どれ程偉い貴族だったのだろうか?


「さあ着いたぞ。今となってはこんなだが、あれでも一応、私の"城"だ。自分の家だと思って、ゆっくりくつろいでくれ!」


「そう言う事か……」


 マテラの指し示した先には、先程から異常に目立っていた中央にそびえ立つ、大きな城があった。

 今までの言動から、マテラが国の中でも有数の権力者である事は容易に想像がついていたが……


 まさか『王族』だったとは……



 

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