異世界都市 ④
素晴らしい優雅な空の旅は続く。
最初こそ驚かされたものの、この"超高速飛行"にも慣れてきた。
今では手を離して柔らかな風を受けて楽しむぐらいの余裕も出来ている。
心地よい風に吹かれ、眼下に見える雄大な世界を独り占めにしたような優越感に浸りながら、叶った夢を満喫する。
子供の頃に、走行中の車の窓から手を出すと風圧を受けた手の感触が『まるでおっぱいの様』なんて噂話を信じて遊んでいた事を思い出した。
親にこっぴどく怒られた思い出も、今となっては良い思い出だ。
両親や妹は元気だろうか?
突然訪れた"余りにも過酷な異世界での生活"に翻弄され、自分が家族にどれだけ心配を掛けているかまで思いが回らなかったが、ある日突然に息子が消息不明になってしまったのだ。
間違い無く、心配しているに違いない。
厳しくはあったが、これ以上無いほどの愛情を俺に与えてくれた母。
変態で馬鹿な事ばかりしていても、イザと言う時はとても頼りになった父。
まとわりついて来て時には鬱陶しい事もあったけれど、常に俺の事を慕っていてくれた可愛い妹。
既に他界してしまっているが、どんな時でも俺の味方だった優しい祖父母。
人間では無い俺の事を、疑いもせずに最大限の愛で育ててくれた家族だったというのに、俺はそんな事すら分からず、『自分だけが不幸で苦しんでいる』と心に壁を作ってしまっていた。
『離れてみて、初めて大切だった者の存在に気付く……』とは良く言ったものだ。
気付いた時にはもう遅いのだ。
あんなに優しかった家族に感謝の言葉一つも言った記憶は無い。
再びみんなに会う事が出来たなら、直ぐに『ありがとう』の言葉を伝えようと思った。
こんな風に生き別れになってしまうのならば、素直に"悩み"を打ち明けておくべきだった。
間違いなく、家族のみんななら、俺を受け入れてくれただろう。
「……」
家族の事を思い出すと、目頭が少し熱くなってしまった。
だが、こんな滅びた世界でも、マテラのおかげで何とか楽しく生きていられるのだ。
気持ちを切り替えて行く事にする。
「マテラの家族や友達は何処にいるか分からないのかい?あっ……」
何も考えずにマテラに話しかけた後『しまった……』と即座に後悔した。
以前に『もうみんな死んでしまった』と聞いていたのだ。
軽率な失言にどれだけ反省しても、吐き出した言葉はもう二度と戻らない。
感傷に浸って何も考えずに出してしまった言葉を悔やんだ。
「ん……」
マテラは一瞬だけ寂しそうな顔をして、こちらへ振り向いた。
「……もうとっくの昔に死んでしまったよ。長命なのは"特殊な個体"である私だけで、後はみんな寿命を迎えて死んでしまった」
「うん……」
俺は何も言えなかった。
何を言っても軽い言葉になってしまいそうだったからだ。
言わずとも良い事を二度も言わせてしまった。
せっかく何でも記憶出来る便利な力を持っているというのに、肝心な事を忘れていた自分に腹が立つ。
「けれども皆、最後に私に力を託してくれた。今でも、目を閉じればまるで昨日の事のように鮮明に思い出せる。彼らとの思い出や記憶が無ければ、とっくの昔に私も孤独に耐えられなくなって狂っていたか、ただ息をするだけの何も考えない石の様になってしまって居ただろう……私が一人で過ごした時間とは、そのぐらい永くて、とても辛いものだったんだよ……」
マテラも昔の事を思い出したようで、瞳が少し潤んでいた。
強く自分を責めた。
「なんか、ごめんね……」
「何を言っている!私が幾つだと思っているんだ?佑弥が生まれてもいない大昔の話だ。それに佑弥にも出会えたからね。今はもう全然寂しく無いよ。それどころか佑弥に出会えた事で久しぶりに生きているのが嬉しくて堪らないぐらいだ」
「……ありがとう」
俺に罪悪感を感じさせないように、気遣ってくれたマテラの優しさに素直に甘えて、気持ちを切り替えた。
しかし、吸収するっていうのは、食べたり捕食するような少し怖いイメージだったのだが、どうやら思っていたのとは少し違うように感じた。
仲間達は、マテラの中で永遠に生き続けていく。
永遠の命を共有する。
という意味合いすらあるのだろうか?
今度、機会があれば聞いてみよう。
「おい佑弥!あれを見てみろ」
「………!」
息を飲んだ。
真っ赤な太陽が地平線に沈み、ゆっくりと全てを赤く染め上げていく。
時を忘れた様に呆然とする。
喉がカラカラに乾いて、自分の口が開きっぱなしだった事に気付いた。
無限の言葉を覚えていても、この美しさを形容する言葉が浮かばない。
夕日など、今までに何度も見た光景であったが、ここまで壮大で荘厳な風景を見るのは初めての経験だったのだ。
「凄い……驚いた……」
この"ゼジャータ"で見る夕日が、"地球"で見る夕日とこれ程までに違いが有ったとは……
その輝きに神々しさすら感じる程だった。
公害などが全く存在しないこの世界は空気が澄んでいるからだろうか?
目に映る美しい夕日の原因を考えてみたが、直ぐに美しさの原因を探る事など"無意味"だと気付いた。
そんな事など知らなくても、体全体でこの夕日が美しいと本能で理解出来ているからだ。
「綺麗だね……」
「うん……」
しばらくの間、無言で夕日を眺めながら考えた……
夕日に染まったお姉さんモードのマテラも見てみたいな……
マテラの美しい翡翠色の髪に夕日が混ざってさぞかし綺麗だったろうに……
怪物が殺し合うだけの地獄だと思っていたこのゼジャータにも、僅かにだが、幾つかとても素晴らしい物を見付ける事が出来た。
人間とは異なる俺だが、美しいモノを人間以上に美しいと感じる"心"は持ち合わせているのだ。
「この世界で、私が一番好きな物の一つだ。この美しさだけは、何万回見ても決して飽きる事はない。佑弥の世界にも"夕日"はあるのか?」
美しいマテラの妄想に耽っていた俺は、慌ててマテラの問に答えた。
「も、勿論、あるけど、こんなに美しい夕日は初めて見たよ。"地球"は空気が汚れているから、こんなに綺麗には見えなかったんだ……」
「そうか……」
沈黙が流れた。
マテラは何とも言えないような、哀しそうな表情をした。
恐らく、このゼジャータの長い歴史の中には俺のいた地球のように、大気が濁っていた時代もあったのかもしれない。
地球は便利さと引き換えに、この美しさを捨てしまった。
どちらが良いとか悪いとか、矮小な俺に判断出来る事ではなかったが、この美しい夕日を捨ててまで人間が得られる物などあるのだろうか?と、深く深く心に刻み込んだ。
「……」
どんなに綺麗な夕日を見たとしても、何故か少しだけ『寂しさが混ざる』ような気がする。
だけど、その僅かな寂しさが、夕日を更に美しく見せるのではないか? と俺は思った……
✩.*˚
「あっ!」
眼下に見えていた雑多な植物の中に、ちらほらと人工物の残骸の様な物が現れた。
とても、かつてここに町があったとは思えない程に荒廃し尽くしていたが……
だが、既に大昔に滅亡している文明と聞いていたので、今でもその残骸が残っているだけでも凄い事なのだ。
「やっと見えてきたな。あれが私の故郷【スメーラ王国】だ……」
とは言うものの、眼下にはただの瓦礫しか映っていない。
ここに何を求めると言うのか……
ここまで読んで頂きまして誠にありがとうございました。
二人の主人公が長い時間をかけて旅をする物語を少しでも興味を持って頂けましたら、是非ブックマークとこの下にあります評価欄に☆でご評価頂けますと、私のモチベーションになりますので、何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m
皆さんに最後まで読んで頂く為に何度も何度も修正を重ねて更新が遅れる事も御座いますが、是非最後までお付き合い下さい。
花枕




