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異世界都市 ③

「おはよう佑弥。もう朝だぞ……」


「ふぁあ~ おはようマテラ」


 マテラがいつもの様に、笑顔で俺を起こしてくれる。

 既に日はすっかり昇っており、頭はスッキリしている。

 いつもの事ながら、何があろうと大抵の怪我や疲れは一晩も寝れば完全に回復する。

 昨日のショックの事など綺麗に忘れさって、いつも通り良く眠れたようだ。

 出会って依頼、マテラはいつも俺を後ろから抱き締めるようにして眠る。

 最初の頃は『暖かくて気持ち良い』と密着抱してくるマテラに興奮し、俺の心は激しい妄想に囚われて悶々とし、朝まで"ろく"に眠る事が出来なかった。

 それは思春期の俺にとって"ヘビの生殺し"以外の何ものでも無かったからだ。


 だが、今ではそれにもすっかり慣れてしまっていた。

 今では、この最高の『抱かれ枕』が無いと眠れない程になってしまっている。

 つい最近まで、たった一人で激しい孤独に耐えながら、朝を待ち続けていた事を考えれば正しく"天国"だった。


「いよいよ出発だね!」


「ああ。楽しみだ」


 今日は、ついに念願の"旅立ち"の日だ。


 生きていくのを諦めかけていたこの"ゼジャータ"だったが、マテラと言う最良の相棒に出会えた事で、今では全く違う"世界"に見えていた。


 これから何をするのか?

 どうやって"方法"を探すのか?

 全く見当も付かないが、この世界に明るいマテラに任せておけばきっと間違いないだろう。


「"帰還する方法"って、一体どうやって探すつもりなの?」


 俺は、早る気持ちを抑えきれなかった。


「うん。最初に私の故郷に行こうと思っている。私の知る限り、ゼジャータで最も古い文明だし、もしかしたら私の知らない『異世界人』に関する情報が何か残っているかも知れないからな……」


 何故かマテラの表情は渋かった。


「他の『異世界人』の情報か! もしかしたら"帰り方"も分かるかもしれないね。そのマテラの故郷って場所はここから遠いの?」


「急げは直ぐに到着するが、今回は()()()()と空を飛んで行こうと思っている」


()()!?の?」


 翼竜に変身して空を飛んでいく。というマテラの発言に、俺は身を乗り出すほど興奮してしまった。

 何故なら『空を飛ぶ』という行為は、俺の子供の頃からの、いや……人類全ての夢と言っても良いからだ!


「《転移魔法》を使えば一瞬で行けるんだが、私が洞窟に篭っている間に起こったこの星の変化をチェックしておきたい。何事も無いとは思うがのんびりと空から世界を眺めていくのだ。佑弥もこの世界の事を知れるし悪くないだろう?」


「わかった!めっちゃ楽しみだ!」


 マテラによると、『異世界人』の情報に過度な期待は出来ない。との事だったが、それを抜きにしても、初めて異世界の文明都市に行くのだ!嫌でも期待せずにはいられなかった。

 一体異世界都市とはどんな所なのだろうか?

 想像もつかない世界に期待で胸が一杯になる。

 更に、マテラの故郷へ行くと言う事は、俺と出会う前の、昔のマテラの事をもっと良く知るチャンスでもあった。


 それに何よりも、子供の頃から憧れていた"生物に乗って空を飛ぶ"という事が楽しみで仕方なかった。

『空を飛ぶ』と言う行為だが、生身であるか無いか、というのは俺の中では『天と地』程に持つ意味が違っていたのだ。

 飛行機などの巨大な鉄の塊に完全に覆われた状態で空を"飛ぶ"感覚などが味わえるだろうか? 否!鳥のように風を感じながら生身で空を翔ける事を"飛ぶ"と言うのだ!


「さあ佑弥。私の背に乗れ!」


 マテラが大型の"翼竜"の姿に変身していく。

 いつもの戦闘用の"邪竜"ではなく、飛行に特化していそうな、ややスマートで美しい姿の竜だった。

 硬質な鱗では無く柔らかそうな羽毛の様な毛に覆われている。

 俺は期待に胸を膨らませ、そのフカフカなマテラの背に飛び乗った!


「うおっ!気持ちいいっ!」


「フフフ。じゃあ行くぞ。落ちないようにしっかりと掴まっていろよ!」


「はい!」


 マテラは俺が乗ったた事確認すると僅かに微笑み、勢い良く大空に飛び上がった!!


(ギュイーーーンー!)


「ぐぅわあわわー!」


 全身をとてつもない"G"が襲う。

 思わず後ろにスっ転びそうになったが、慌てて体勢を建て直した。

 まるでジェット機に乗っているかの様な、もの凄い勢いで地面が遠ざかっていった。

 視界の端に映っていた獣が、どんどん豆粒のように小さくなっていき、すぐに見えなくなった。

 マテラはおよそ生命体の飛行とは思えないような恐ろしい速度で、空を滑るように飛んでいく。


「ぐぅううう……」


 生身の身体での飛行は、想像を絶する空気抵抗で、息が出来ずに顔面が風圧で潰されそうになった。

 背中から振り落とされないように、《加重》の力を使って、必死でマテラの背中にしがみついた。

 それでもなお少しでも気を抜くとスっ飛ばされそうになる。

 訓練で鍛えていなかったら、とてもじゃないが、このような移動手段は使えなかっただろう。


「……!!」


 マテラの速度が更に加速した。

 両手の握力はどんどん失われていき、息をするのも精一杯で、身体を起こす事すら出来ずにマテラの背に不格好にへばりつく。

 ()()()()景色を眺めている余裕など微塵も無い。

 凄まじい風圧に耐えきれずこのままではスッ飛ばされてしまう。

 

「ちょ、マテ、ラ、速、過ぎ、る……」

 

 顔面を激しい風圧に無茶苦茶にされながら、絞り出す様に助けを求めた。

 思い描いていた"飛ぶ"という行為は決して夢の様な甘いものでは無かった。

 

「ああ、すまん。佑弥……」


 マテラの声と同時に辺りが光に包まれたかと思うと、台風のようだった風圧が急に消え去っていった。

 一転して心地良い微風が俺の頬に当たっている。

 何とか、助かったようだ……


「これで大丈夫かい?」


「ああ!全然風圧を感じなくなったよ!ありがとう」


 マテラが魔法で《防御壁(バリアー)》を展開してくれたようだ。

 助かったが、こんなに便利な《魔法》があるならば最初から掛けておいて欲しかった。


「すまんな。これならもっと速度を出しても大丈夫か?」


「うん。これなら大丈夫」


 俺が元気になった事を確認すると、マテラは更にスピードを上げた!

 ドヒュッ!っと周りの景色が見た事も無い速度で流れていく。

 遥か遠くに山脈が見えるかと思った瞬間には、自分の遥か後方へと通り過ぎていった。


《防御壁》を忘れたりとか、少しばかりそそっかしい所もあるが、あれでも一応俺に遠慮して飛んでくれていたらしい。


 ✩.*˚


 相変わらず凄まじい速度で飛び続けているが、《防御壁》のおかげで少しだけ心に余裕が出来ていた。

 せっかくなので、恐る恐る下を覗いて見た。


「俺は……ずっとこんな美しい世界にいたのか……」


 震える程に感動してしまう。

 遥か上空の高みから見る事が出来たゼジャータの"景色"は圧巻の一言だった。

 時が止まったかのように、ずっと眼下の美しい景色を眺め続けた。

 人の手が全く入っていない、本来の自然そのものだけで作られた世界。

 眼下に広がっていたのは、あんなに過酷で地獄だった世界と同じ物とは思えない程に、雄大で幻想的な美しい世界だったのだ。


 ずっと夢見ていた『空を飛ぶ』と言う事は、やはりとても素晴らしい体験だった。





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