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地獄の出入口 ⑤

 俺の凄まじい成長が面白くて調子に乗ってしまった俺達は、次の日も"岩潰れ"をやる事にした。

 どれ程成長出来るか楽しみで仕方が無い。


「ぐぅおお!」


 散々潰された所で、成長の速度が大体理解出来てきた。

 20秒しか支える事が出来ない重さの岩を、限界まで持ち続けて潰された場合、次回の復活時には平均して約1秒ほど支えられる時間が伸びる。

 たった1秒だ。だが、元々20秒程しか支えられない巨岩を21秒支えられるようになる。

 約5%成長するのだ。

 それを8セット行えば、岩を28秒支えられる事になる。

 元の力を100とすれば、なんと俺は、初日だけで筋力が40%も成長する事に成功していたのだ。


 2日目からは、最初から岩を重たくして、1日で計20セットの"岩潰れ"をおこなった。

 すると、なんと250%も成長する事が出来た。

 たった一日で、力が2.5倍になったのだ。

 異常だった。


 3日目、まだ成長に限界を感じない。

 順調に5%ずつ成長していく。

 この成長がこのまま続くと、計算によればとんでもない事になってしまうのでは……

 俺達は、際限なく成長を続けていくこの身体に激しい期待を持ちつつも若干の恐怖を感じていた。

 だが、取り敢えず続けてみる事にする。


 4日目、岩の重さで俺の身体が地面に埋まるようになってきた。

 足元の土を《魔法》でガチガチに固めて更に訓練を続ける。

 そのおかげで潰れた時のダメージがデカい。


 5日目、岩の比重はとっくに『金』の重さを超えてしまったので仕方なく《風魔法》で重さを強化する。

 途中から俺の身体の見た目は変化しなくなったが、強度は順調に伸びていった。

 ムキムキゴリラにならなくて済んだのは幸いだった。


「むう。一体どこまで成長していくのか分からなくなってきたな……」


 恐怖を感じつつも、そのまま一週間ほど訓練を続けた結果…… 成長は止まる事無く順調に伸びていき、有り得ない事に、俺の筋力は元の数十倍にまで成長していたのだ。

 もう、笑うしかなかった。

 今では数トンもある重さの物だって軽々と持ち上げる事が出来る。

 流石のマテラも、予想以上の訓練の成果に驚きを隠せない様だった。

 地獄の訓練の成果は……『大成功』という言葉が陳腐に思える程の凄まじいものだったのだ。


 だが、予想外の弊害もあった。

 それは、手に触れる全ての物が『軽く感じてしまう』不思議な状態になってしまい、うっかり色んな物を破壊してしまうようになってしまったのだ。

 肉体の成長に、感覚が追い付いていないのだ。


「む、調子に乗り過ぎて、やり過ぎてしまったようだ……」


「そう……だね……」


 周りにはうっかり握り潰してしまった食器類が散乱している。

 食器などいくらでも作れるらしいが、やはりこのままでは日常生活が定まらない。


「一旦感覚が元に戻るまでは、この訓練は終わりにしよう……」


「うん」


 初日にはあんなに重いと思っていた巨岩を片手で軽く持ち上げて片付けた。

 既に手で掴める物ならば持てないものは、この世に存在しないような気さえする。


 そうして、予想以上の成果と予想外のアクシデントにより、俺の基礎体力訓練は終わりを告げたのだ……


 ✩.*˚



「体力作りはもう良いだろう。そろそろ実際に佑弥がどのぐらい戦えるか、見せて貰う事にしよう」


「よし!お願いします!」


 やっと本格的な戦闘訓練を始める事になった。


 際限なく腕力が強くなる感覚は面白かったが、流石に"岩潰れ"は飽き飽きしていたので、期待に胸が膨らんでいた。

 遂に念願の"美女との肉弾戦"である。

 毎日俺を苦しめている"煩悩"に直接"手"で触れる事が出来るチャンスが訪れたのだ。

 期待しない訳が無い。


「まずは私からは手を出さないので、好きなだけ攻撃してみろ」


 マテラはそう言うと、俺の正面に立った。

 俺はこの数年の間、記憶を頼りに様々な武術を練習していたし、怪物との戦闘経験も半端では無い。

 全て書籍や映像から独学で学んだ"戦闘法"とはいえ、その知識には自信がある。

 更に、今の俺には信じられない程の"怪力"も備わっているのだ。

 いくらマテラとはいえ、女子に簡単に負ける俺では無い!と、思っていた。

 マテラがめちゃくちゃ強いのは解ってはいるものの、パッと見た目はただの美しいお姉さんだ。

 体重差もあるので、そこまで一方的な戦いなどにはならないとは思う。

 好機(チャンス)さえあれば、どさくさに紛れて抱きつくぐらいのハプニングも有るかも知れない。

 俺は邪な妄想に浸り、自然に頬が緩むのを感じていた。


「よし!行くぞ!」


「よし!来い!」


(グググググ……)


 期待してたのとはまるで違う状況に、俺の血の気が凍りついてゆく。

 肉が膨張する不気味な音と共に、美しかった彼女の姿が急激に巨大化していったのだ。


「おい、ちょっと待て。そんなの反則だろう! 勝てる訳が無いだろうが!」


 目の前には美女の面影など何も残っていない、凶悪な面構えの巨大竜が現れていた。

 期待していた美女とのスキンシップが完全に消え去った激しい怒りと、目の前に立ちはだかった怪物への恐怖が入り混じって思わず突っ込んでしまった。


「この世界では、人型と戦う事は無いだろう?この姿の方がより"実戦"に近い筈だ」


「いや、ちょ、それだと俺の計画が……」


「訳の分からん事言っていないで、良いから早くかかって来い!」


「くっ……」


 想像していた楽しい展開と違う……

 期待していた美女との肉弾戦がおじゃんになってしまった事は猛烈に残念だったが、そんな事を彼女に言える訳が無い。

 渋々諦めて竜に挑む事にした。


「仕方ないか…… じゃあ行くよ」


「来い!」


 マテラが『さあ打ってこい』と諸手をあげて俺を迎えていた。

 だけど、本当に良いのだろうか……

 今の俺の怪力は、既に訳が分からないレベルにまで上昇している。

 好きに攻めろと言われても、マテラを怪我させてしまう訳には行かなかった。


 力加減の仕方も全く分からない。

 まずはなるべく軽く殴ってみよう……


 俺はマテラ竜の腹に、控えめに正拳突きを放つ事にした。


 ズシィ~ン!


「うわっ!ごめん!」


 軽く叩いたつもりの俺の攻撃は、凄まじい破壊力を持ってマテラの腹に直撃した。

 やり過ぎたか?

 そう思ってしまったのだが……


「馬鹿者!本気でやれ!本気で!私に遠慮など無用だ」


 マテラには全く効いていなかったのだ。

 一体どんな身体をしているのか……


「ちっ!本気で行くぞ!後から怒らないでよ!」


 どうやらマテラに対して余計な遠慮は必要無いようだ。

 気を取り直して、俺はマテラに対して全力の正拳突きを放とうと、力を溜めて大地を強く蹴った。


 ビュッ!と顔面に感じた事の無い風圧を感じた。

 マテラの身体が凄まじい速度で俺の顔面に急接近してくる。


 ドカァン!


 そして、正拳突きを放つ暇も無く、全力で顔面からマテラに向かってダイブしてしまったのだ。


「こら!何をやっているんだ!?」


「あ痛てて……」


 まさか、自分の移動速度がここまで早くなっているとは思ってもみなかった。

 短期間で超怪力を得てしまった弊害がこんな事にまで……


 ちょっと、この身体を思い通りに使いこなすのは、思っているよりも時間がかかりそうだ……










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