地獄の出入口 ④
「お疲れ様。今日はこのぐらいにしておくか」
面白いように成長する俺の肉体をおもちゃに訓練は続けられていた。
結局俺達はその日の内に、計8回の"岩潰れ"をされていた。
「そうだね。腹も限界だ」
気付いた時には辺りはすっかり暗くなっており、腹も減っていたので訓練を終える。
再びマテラは昼同様に美味しい料理を振舞ってくれた。
空腹具合と食欲が異常爆発する。
この調子では巨大な怪物でも一瞬で食べ尽くしてしまいそうな勢いだった。
「佑弥の成長が面白過ぎて、頑張り過ぎてしまったな。疲れていないか?」
「うん。大丈夫。痛みにも大分慣れてきた」
身体は更に屈強になっていた。
あんなに辛い訓練でも、目に見えて感じられる成果に夢中になっていた。
俺も今まで越えられないと思っていた"限界"を、信じられない速度で飛び越えた事に感動すらしていた。
そして、この"岩潰れ"による副次的な効果についても気付いた事があった。
身体が『痛み』に慣れるのだ。
「訓練とは面白いだろう?痛みや苦痛は直ぐに慣れてしまうんだ。特に佑弥の身体は特別性らしいしな」
「うん。驚いている」
負荷に耐えられなくなって骨折する激痛や、岩に押し潰されて肉が裂ける激痛に慣れてしまうのだ。
怪我の痛みは10分もすれば無くなるし、30分もすれば傷跡すら完治する。
マテラに《再生魔法》をかけてもらえば、その時間すらなく瞬時に完全回復するのだ。
必ず直ぐに治癒すると分かっている怪我に対しては、俺は、というより"生物"は、恐怖すら感じる事は無いようだ。
最初はマテラの頭を疑った訓練ではあったが、今ではこの"岩潰れ"を考えたスメーラ人を高く評価していた。
不思議なものだ。
「はぁ。だけど、今日はぐっすり眠れそうだよ」
だが、それでもやはり今日は疲れたのだろう。
昨日から今まで驚きの連続だった。
洞窟で無我夢中になって一晩中喋り続け、洞窟の外に出てからは怪物達に襲われ、そして8回も『潰される』……
身体は完全に回復しても、精神の疲れまでは取れない様だ。
押し寄せる眠気に耐えられず、一瞬でも気を抜くと眠ってしまいそうだった。
「今日は本当に良く頑張った。私も佑弥の凄い成長っぷりについつい興奮してしまったよ。今日はもうゆっくりと寝よう。夜はまた獣や怪物が襲って来るかもしれないから私の側に居るといい。ほら、早くこっちにおいで……」
「!!……」
完全に赤ちゃんを呼ぶ時の仕草で、優しく微笑みながら、手招きをしたり、軽くパンパンと手を叩いたりして俺を誘き寄せようとしている。
我が耳を疑ってしまった。
マテラとは、こんなキャラだったのか!?
「あ、いや……それは流石に……」
一体、俺の事を何だと思っているのだろうか?
俺は変態ではあるが、いわゆる"普通の変態"だ。
そんな幼児扱いをされて喜ぶような"外道"ではない。
確かに、戦力や年齢差で言えば俺など彼女にとっては、俺など赤子同然に見えているのかもしれないが、俺はもう立派な大人である。
見た目は高校生程度かも知れないが、中身は既に20を超えているのだ。
綺麗な女性に招かれる事自体はとても嬉しかったのだが、流石に恥ずかしくて自分から近付く事は出来なかった。
もう子供では無い!と、必死に拒否した。
はぁ~い!等と白々しくあの胸に飛び込む事など出来る訳が無い!
のだが、マテラは俺の拒絶を一切聞き入れる気は無かったようで、力ずくで俺を引き寄せた。
「ちょっ、待って」
「暴れるんじゃない!もう寝るぞ!」
問答無用の怪力で、まるで逃げる赤子を捕まえるかのように、俺を強く抱きしめて拘束した。
俺は恥ずかし過ぎてそれに耐えられなかった。
「ぐぅおおりゃああ!!」
昨日までの俺に比べて、遥かに強化されたこの力を持って、柔らかくも強固な彼女の拘束を振りほどこうと全力を出す。
だが、これ程までにパワーアップした俺の全力をもってしてもマテラの細腕はピクリともしなかった。
まるで俺の体温を奪うかのように、マテラは全身を密着させて、足で俺の身体を挟み込んで自由を奪っていく。
まるで万力のような力強さのマテラの四肢は、俺の一切の抵抗を許さなかった。
おいおい。
俺の成長とは一体なんだったのだ?
この剛腕は見かけだけなのか?
こんな細腕の女子に全く敵わないのか?
少し悲しくなったが、本当は抱きしめられたのがめちゃくちゃ嬉しかったので、直ぐに抵抗するのを諦めた。
と言うよりも、背から感じる女性特有の柔らかな感触が、俺の男としてのプライドや反抗心など、一瞬で消し去ってしまったのだ。
「あ~。佑弥は暖かくて気持ちがいいなぁ.……」
「あ……ああ……」
豊かな双丘や柔らかい太腿が、俺の身体に当たっている。
最後に残された身体の力も消え去っていた。
それは、俺の想像を超える柔らかさだった。
もう、好きにされても構わない……
急に訪れた極楽に、俺の心は一瞬で骨抜きにされてしまっていたのだ。
「すぅ……すぅ……」
「えっ!早っ……」
俺が一人で興奮していると言うのに、マテラは俺の少しだけ高い体温が気持ち良かったのか、目を閉じてとても心地よさそうに寝息を立てていた。
人をこんなに興奮させておいて、信じられなかった。
と思ったが、既に限界を超えていた俺も、押し寄せてくる眠気に勝てる気がしない。
意識が急激に刈り取られていく。
この、背にあたっている柔らかな肉塊をこのままずっと味わっていたい……
悔しい……
せっかく、最高の感触を味わえているのに……
ああ、瞼が重い……
意識が消えていく中、薄らと母に抱きしめられていた赤子の時の記憶が蘇ってくる。
人間では無い俺に対し、無条件で無尽蔵とも思える愛情を与えてくれた"母"の記憶だ。
母さん……元気にしているだろうか?




