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地獄の出入口 ②

「ぐぅあっあ~……」


 "黒モヤ"が激しく噴き出して、傷付いた身体が修復されていく。

 即座に救い出されたお陰で、命に別状は無かったと言うものの、岩に押し潰されてしまった身体は大量の出血に複数の骨折。

 身体中が真っ黒な痣だらけになっていた。

 こんなに激しく"黒モヤ"が噴き出しているのを見たのは初めての事だった。

 マテラは本気で俺を殺すつもりなのか……?


「何だこれは!?何もしていないのに怪我が勝手に自己修復を初めている!」


 マテラが《自己修復》を始めて、みるみる内に薄くなっていく俺の身体を見て驚いている。

 どうやらマテラにも、この"黒モヤ"は見えないらしい。

 こいつのお陰で辛うじて俺の命は繋げているが……

 一体、これは何なのだろうか?


「痛ったた。はぁ死ぬかと思った。ああ、俺の身体は怪我の治りが早いんだよ。潰れた時には死ぬかと思ったけど……」


「早いって…… そんな簡単な事か? この速さは初級の《回復魔法》以上だぞ?」


「うん。元々怪我の治りは早いんだけど、この【世界ゼジャータ】に来てからはもっと早くなっている気がする」


「確かに《自動回復魔法》を使っている形跡は無い。と言うより"魔力"すら感じられない。信じられない身体してるな……」


 マテラでさえこの"現象"は見た事が無いらしく、俺の身体をベタベタと触ってチェックされてしまった。

 確かに便利な体質だとは思う。

 岩に潰されてからまだ10分程度しか経っていないが、既に痣は殆ど見えなくなっている。

 生々しい裂傷などはとっくに塞がっていた。

 しかし、今のダメージはかなりヤバかった。

 この体質が無かったらと思うと、大切な部分が縮み上がってしまう。


「あっ!そんな所を!?」


 触られるのにも興奮してしまったが、どうせなら俺が触りたい……

 と、そんな妄想を膨らませている間にも身体は完全に修復されたようだ。

 気の所為か、更に治りが早くなっている様な気さえしてしまう。


「はぁぁ!よし!治った!しかし、本当に死ぬかと思ったよ……」


 30分もすると、身体は完全に回復していた。

 無事に治ったから良かったものの、巨岩に押し潰されて身体中の骨が砕ける痛みと言うのは俺の想像を遥かに超えていた。

 一歩間違えば死んでいたかも知れない。


「馬鹿者!私が佑弥を死なせる様な事をする訳ないじゃないか。ちゃんと限界ギリギリの重さを見極めて、潰れない様に寸前で岩を止めただろう!」


 マテラが少しだけむくれた様な表情をしていた。

 止めた?

 完全に潰された様な気しか、しなかったのだが……


「いやいや。『力』を使わなかったら本当に危なかったんだって!」


 いくら俺が鍛えていると言っても常識的に考えて、あんな巨岩を支えられる訳が無いのだ。

 もし『力』を使わなかったとしたら、本当に死んでいたかもしれないのだ。

 まあ確かに、俺なら"半死"ぐらいで済んでいたかもしれないが……


「『力』? 佑弥は《魔法》が使えないんじゃないのか?」


 俺はまだマテラにこの特殊な『力』の事を話して無かった事を思い出す。


「ああごめん。言うのを忘れていたけど、俺は"物"の重さをある程度変える事が出来るんだ」


「は!?」


 マテラに話して無かった俺の特技?を説明した。

 マテラの前で『特技』と言うのも恥ずかしくなる程の"微弱"な力しか持たない力だが、それでも今迄散々俺を助けてくれた、掛け替えの無い『力』なのだ。

 今回地獄を味わったお陰で、全力で"対象"の重さを軽くするのは10秒程と言う事がわかった。

 対象が自分の身体ならばもっと軽く出来るし、力を使い続けても大丈夫なのだが、やはり自分以外の物は効果と継続時間が極端に落ちるようだ。


「"重量操作"だと?…… それは《重力魔法》の一種なのか? もしそうなのだとしたら、それは【星】そのものに干渉する程の、かなり高難度の《魔法》だぞ?とても"魔法陣"無しで発動出来る様なものでは無い!」


「いや、これは《魔法》じゃ無くて、ただの俺の『体質』だと思う……」


 マテラに説明しながら、自分の言葉に詰まってしまった。

 産まれた時から何の違和感も持たずに使っていた『力』だったので、当たり前のように使っているが、これが何なのか俺にもよく解らないのだ。

 自分では『重力を操る』なんて、大それたものでは無いと思っているのだが。


「信じられん…… 確かに"魔力"を使った形跡も何も感じないが…… 佑弥は気付いてないかも知れないが、そんな大規模の事象を操るなど、とてつもない事なんだぞ!?」


「そう、かい……?」


「むぅ…… やはりよく解っていないようだな……」


 あのめちゃくちゃに強いマテラに、余りにも驚かれて思わず微笑んでしまった。

 ほんのついさっきまで、身体を潰されて気分は最悪だったのだが、『力』を褒められた事は初めての体験だったし、なんだか自分が少し『特別』みたいな感じがしたのが嬉しかったのだ。

 あんなに普通の人間になりたいと思っていた筈なのに、変な気持ちだった。


「とてつもない事なのだが…… これ以上言っても理解出来ないか…… よし!では基礎体力と共にその『力』も同時に鍛える事にしよう!」


「う…… まだ基礎訓練もやるの?」


「勿論だ!佑弥はきっと、凄く強くなれると思うぞ!死ぬぐらいに辛い時でも、自分を信じて頑張るんだ!」


「はい。よろしくお願いします……」


 俺以上に凄いテンションで、何故かマテラが燃えていた。


『死ぬぐらい辛い』って……

 さっき絶対に死なせ無いって言われた様な……

 いや、だから『ぐらい』なのか?


 それに、またあの"岩潰れ"をやるのだろうか?

 いくら怪我が早く治るとはいえ、痛みや感覚は普通にある。

 身体を押し潰される痛みは、たまったものではないのだが……


「よし!じゃあもう一度だ! 次は30秒ぐらい何とか我慢してみてくれ! 必ず出来るはずだ!」

 

「ま、え、今、直ぐにやるの!?」


「さっきよりは軽く感じる筈だ! 行くぞ!」

 

 再びマテラは巨岩を持ち上げて、俺目掛けて放り投げて来た。

 俺がどんなに拒否しようとマテラは聞く耳など持ってはくれないようだ。


 鬼だ……


(ブチュ……)


 俺は既にマテラに弟子入りした事を後悔していた……



 


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