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終わらせようとする者……

 

 _____令和 東京


 これは佑弥が異世界に飛ばされた数年前の東京での話……


 大きな瞳と、腰まで届きそうな漆黒の髪。

 服の上からでも解る程の、大きくて形の良いバストと日本人離れした抜群のプロポーション。

 誰が見ても美しいと感じる程の容姿を持つ少女だが、実は彼女もまた、人間では無い。


 佑弥の様に虚弱体型でも無いし、貧血寸前の青白い肌でも無い。

 透ける様に美しい"色白"ではあるが、佑弥と違い弾けそうな程に健康的に見える肌。

 佑弥以上に外見からは想像がつかないが【上條凪(かみじょうなぎ)】は人間等とは次元の違う生命体である。


「どうか許して下さい…… だけど、私達にはもうこの方法しか残っていないのです…… 帰ってきたら、いくらでもお仕置を受けます。お願いいたします。ごめんなさい!!」


 凪は、自分のこれから行う所業に対する罪悪感の為か、美しい顔を涙でグチャグチャにして、鼻水を流しながら決して届かない謝罪を何度も何度も繰り返していた。


 代々『上條家』は【日本】と【日本人】を、時にはやさしく、時には厳しく、遥か大昔から長きに渡って裏から支え続けていた。

 古くは【古事記】に記された出来事に始まり、第二次世界大戦、その後の異常とも呼べる経済発展など、日本の全てにおいて『上條家』が密接に裏で関わっていたのだ。

 決して公にされる事は無く、『上條家』の存在を知っているのは極々ほんの僅かなひと握りの権力者だけ……

 その権力は日本国の"最高権力者"である"天帝"陛下と同等か、もしくはそれ以上だった。


 世界トップクラスの権力者である『上條家』当主である凪は、東京の中央地下深くに、誰も入るの事の出来ない巨大な『極秘施設』を有している。

 

 施設内部は"最先端現代科学"と失われた"超古代文明"の粋を極めた物となっており、特に研究室の中には、国家機密、世界機密レベルの機械、更には数々の『魔法具』で埋め尽くされている。

 そのどれかひとつでも、"世に出る"ような事があれば、世界の常識が変わってしまうような代物である。


 凪は施設の中央巨大モニターの前で、下校中であった高校生の【炉林佑弥(いろりばやしゆうや)】を監視していた。


 今から凪が行う事は、決して誰にも知られてはならない事だった。

 もしこの作戦が明るみに出てしまったら、今迄人類が持っていた"既成概念"を覆してしまう程の事件となってしまう。

 それは地球の在り方が変わってしまう程に重大な事だったのだ。


「絶対に、絶対に、もう失敗は許されない……」


 凪は、何度も確認し、慎重に"息"を整えていく……

 呼吸を整える為に深呼吸する度に大きな胸が上下に揺れる。


 集中した凪の身体が淡く発光し、魔力の渦が部屋全体を埋め尽くす。


(ピシッ)

 

 頑丈に作られた筈の特別な巨大モニターや計器類にヒビが入った……

 凪は気合いを入れ過ぎて、壊してしまった計器の被害を悔やむ。

 が、そんな事は、些細な事だ。

 これから行う事には、この星の命運がかかっているのだ。


 普通の人間がその場に居合わせたら、失神してしまう程に強大な魔力を、凪は一人で制御していた。


「《פיתוח טכניקה לְטִישָׁה》……」


 そして凪は、不思議な言語で呟いた。


「貴方に届きますように…… 決して離れる事の無かった二人の思いが。二人ならきっと、終わらせる事が出来る筈。あなたの力が世界を救う救済になりますように……」


 凪が言葉を紡ぐのと同時に、何も無い空間にまるで絵を描かれて行くかの様に幾何学的な魔法陣が浮かび上がる。

 描かれた魔法陣はまるで生命を持っているかのように独自に動き出し、複雑な演算処理を素早く正確に計算していった……


「《דלת כוכבים(星霜の次元門)》!」


 凪が最後の詠唱をすると、モニターに移る佑弥の足元には先程のと同じ模様の巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 

 魔法陣は魔力を持たない佑弥や、他の人間には視認する事は出来ない。

 ただ、目に見えぬ不思議な"穴"となって対象を"任意"の場所へと送り届けるのだ。


 穴に飲み込まれていく佑弥は必死で逃れようともがいているが、一度飲み込まれた"穴"からは決して逃れる事は出来ない。


 ズルズルと穴に引きずり込まれ、無様な格好で這いつくばっている。

 

「……あんなんで大丈夫かなぁ。心配だわ……」

 

 凪は不安を感じたが、他に選択肢は無かった。

 モニターに映るこの無様な男には世界の命運が託されているのだ。


「あ、先生!あれだけ邪魔するなって言ったのに!」


 凪は予め、『例え先生であれども、作戦の邪魔する事は絶対に止めてくれ!』と念を押していたのだ。

 彼女に邪魔されてしまったら、全ての計画が狂ってしまう可能性があったからだ。


 だが、凪との約束通り、美しい女性は佑弥を助けなかった。

 凪は安心した。

 女性は最後に佑弥に"何か"を渡していたが、その程度の"誤差"によって計画が狂う事は無い。と思う。


「先生も、佑弥の事が心配で見ていられなかったのね………」


 そして、魔法陣の起動を確認した後、凪は自分の『髪の毛』を乱雑に引きちぎった。

 髪の毛には長い期間をかけて特別な『呪』がかけてある。

 佑弥を守り、佑弥の力になる為に。


「痛たたた。頼むからお願いよ!あなたに貰ったモノを返します!」


 凪は引きちぎった『髪』を虚空に浮かべ、何やら呪文を唱えた。

 

 数瞬後、『髪』は凪の前から転送され、モニターの先に映る佑弥の身体に吸い込まれていった。

『髪』が佑弥の身体に吸い込まれいくのが合図だったのか、魔法陣は突如大きく発光し、佑弥の身体を一気に飲み込んでいく。


 そして、"穴"は完全に消えて無くなった。

 

 現代において、たった一度しか発動出来ない『転移魔法』が、完全に発動された事を確認した凪は、そのまま床へと倒れた。


 凪は気を失っていた……

 力を使い果たしてしまったのだ。

 



 




 

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