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朧げな幻影 ②

 折角この世界で、知り合う事が出来たのに。

 折角この世界で、本当の自分が受け入れられたのに。


 こんな下らない事で、全て無くなってしまうのか?

 こんな下らない結末で終わってしまうのか?

 そんなの嫌だ。絶対に嫌だ。


 この先また一人になってしまう事など、もう絶対に耐えられない。

 もう彼女抜きではこの世界で生きていく事など出来ない。

 何が何でも、マテラを守ってみせる。

 その為には、一刻も早くここから脱出しなければ!


 俺の手にはもはや、唯一の武器だった『木の槍』も無い。

 今残されているのは、鍛え上げた俺の肉体一つだけ。

 状況は壊滅的だが、諦めるという選択肢は無い。

 だってこのままでは、マテラは殺されてしまう。


 大切な人が目の前で殺されていくなど、俺には耐えられない。


「うああぁぁぁ!!」


 俺は、限界まで自分の体重を《加重》し渾身の力を込めて口の中から殴りつけた。

 ズシン!と、怪物の口壁に拳が深くめり込んだ。

 怪物からすればか弱く小さな俺の攻撃だが、限界まで鍛え上げた俺の拳は見た目からは判断出来ない破壊力を持っている。


 だが、相手は怪物。この程度で倒れる訳も無い。


 だがこれで諦めるつもりなど無い。

 苦痛に根を上げて、口を開くまで、何度でも何度でも殴りつけてやる。

 俺は、何が何でも絶対にマテラを助けに行くのだ。


 俺は全身の力を集中させて、拳を振り上げた……


(ザシュ!!……ドシン!)

 

「うわぁっ!」


 突如何かを切断した様な激しい斬撃音の後に、落下したような衝撃を感じる。

 そして、怪物の動きが止まった。


 まさか…… さっきの俺のパンチで既に怪物に致命的なダメージを与えていたのだろうか?


 自分の拳を見た。

 綺麗な拳だった。

 だが、いつの間にか、俺の拳は訓練によって凄まじい力を得ていた事を知った。

 自分でも気付かない内に、俺の身体は激し(かった)訓練によって鍛え研ぎ澄まされ、ついに未だかつて撃破する事の叶わなかった大型怪物を一撃で仕留めるまでに進化していたのだ。


 確かに、思えば俺の身体は昔とは違う。

 更に『力』によって加重されていた俺の拳は、150kgで放たれる『鉄球』の如き破壊力を持つに至っていたのだ。


 だが、そんな事に感動している暇は無い。

 まだ怪物達は大勢残っている。

 たった一匹倒しただけなのだ。

 一刻も早くマテラを救うべく、俺は動かなくなった怪物の口から出ようとした……


(ググググ……)


 独りでに、固く閉ざされていた怪物の口が自動的に開かれていく。


「よいしょ。佑弥、大丈夫か??」


 開かれた口の先に、逃げた筈の彼女が居た。

 彼女はまるで居酒屋の暖簾でも開くような気軽さで大きな顎を片手で持ち上げ、俺に手を差し伸べていたのだ。


 え?なんで……?

 何で逃げて無いの?

 俺なんかを救う暇があるならば、早く逃げて欲しいのに……


 理解出来ずに呆然とする。

 呆然としながらも、差し出されていたその柔らかな手を取った。

 身体中についていた臭いベタベタの唾液が彼女に付いてしまわないか一瞬戸惑ったが、頭は働かない。

 彼女に手を引かれて、そのまま口の中から出た。


 そして、俺を丸呑みにしていた巨大な怪物がピクリとも動かずに大地に横たわっているのを見た。


「……」


 怪物の頭部と胴体が綺麗に別れている。

 まるで鋭利な刃物で真っ二つにされたような断面が見えた。


「なんでこいつ首がちょん切れてるの?」


 目の前で起こっている出来事に理解が追いつかない。

 如何に俺の攻撃が強烈だったとしても、首がちょん切れている説明がつかない。


 それに、あれだけ群れていた筈の怪物達が何処にも居ない。

 ギャアギャアと五月蝿かった鳴き声すら聞こえない。


 だがその疑問は直ぐに解決する。

 衝撃的な光景を目の当たりにする事になるからだ。


「なっ……!」


 死体。死体。焼死体。死体。焼死体の山……

 複数の死体が俺の目の前に並んでいた。

 目の前には、もはやただの炭と化している"怪物達だった物体"が無数に横たわっていたのだ。


 夢でも見ているのか……?

 余りの惨劇と理解不能の現状に、自分の目を疑った。

 全ての炭の塊は、ピクリとも動かない。

 無数に転がる死体の中、俺達二人だけがその場に立っていたのだ……


「ビックリしたぞ?私の話を聞かずに突然走り出すから……」


「うん……」


「私を守ろうとしてくれた気持ちは嬉しいが、無理しなくても大丈夫だぞ?」


「うん……」


「心配しなくても私はとても強いんだ。こんな奴らがどれだけ襲ってきても問題は無いから安心しろ。私がちゃんと守ってあげるから」


「うん……ありがとう」


 呆気に取られ、取り敢えず返事を返す。

 意味が解らないが、目の前の状況とマテラの発した言動から推測するに、どうやらあの無数に居た怪物達を、マテラはたった一人で壊滅させてしまった。と言う事らしい。


 そんな大それた事を行なっておきながら、マテラはまるで何事も無かったかのような優しい笑顔で微笑んでいたのだ。


 たった一人であの大軍を絶滅させたのか?

 あの焼死体達は、一体どうやって?


 そう言えば、見た目の可愛い女性の姿に騙されて、すっかり最初に会った時の衝撃を忘れていた。

 マテラはめちゃくちゃに強そうな竜の化け物なのだった。


 とは言え、竜とはそれ程の物なのか?

 相手は巨大の怪物が10匹以上も居たのだ。

 いくら竜とは言え、あんな怪物達をほんの数秒で全滅させる程強いなどと、誰が思うというのだ……


「信じられない……」


 驚き過ぎて、もう何も言う事が出来なかった……




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