滅び ④
「私にも地球人の事を教えてくれないか?お前の様な不思議な生き物は初めて見た。私にも何が何だかさっぱりわからない」
そこまで言われるのか……
しかし、彼女の前ではもう隠す必要など無い。
俺は産まれて初めて、自分の内面を打ち明ける事になる。
その事を少しだけ戸惑ってしまうが、恐れる事では無い。
何故なら俺と同じく、マテラも人間では無いのだ。
「いや、確かに俺は人間じゃない。と思う。と言うのは、俺も自分が一体"何者"なのかは、分からないんです……」
「どういう事だい?」
「いや、そのままの意味です。他の地球人はみんな普通の人間だと思います。俺だけが特別なんです。俺は小さい頃から自分が普通の人間じゃない事には気付いていた。だけど、マテラのように変身している訳では無いし、人間に化けている訳でも無い。ただ、自分が人間じゃないと言う事を『知っている』だけなんです……」
俺は人間ではない。
その事はもはや疑いようの無い事実だ。
不思議な【力】もあるし、他にも色々不思議な体質の事もある。
だが、どれだけ調べても自分の正体は未だに全く解らないのだ。
「佑弥の両親は同じ種族では無いのか?佑弥だけが特別なのか?」
「いや、両親は普通の人間だと思います。俺みたいな特徴の人にも出会った事はありません……勿論仲間も居ません」
両親に嘘でも付かれていない限り、幼い頃に両親に拾われて来たと言う話も聞いた事は無い。
赤子の時の記憶すら完全に覚えている俺には、両親や祖父母から実の子と変わらぬであろう深い愛情を受けた思い出もある。
親族達も間違いなく普通の人間なのだろう。
だが、人間から産まれた突然変異体と言うには、俺の体質は人間とは異なり過ぎていた。
どう考えても自分が人間だとは思えない。
「そうか…… だけど、佑弥は私が昔会った『彼』と同じ種族なんじゃないかな? 見た目は全然違うけど、感じる雰囲気は『彼』と良く似ているよ」
「え!本当に!?」
彼女が昔に会ったと言っていた、俺と同じ【異世界】から来たという存在。
今は何処にいるのかも分からず、彼女も詳細な事は分からないらしいが、とにかくその『彼』の存在がとても気にかかった。
彼が同じ種族だというのなら、帰還する方法だけでは無く、俺の正体を知っている可能性も高かったからだ……
☆。.:*・゜
産まれて初めて心の内を解放出来た俺は、止まる事無く話し続けた。
寂し過ぎて狂いかけていたマテラも色々な話をしてくれた。
何年も溜まった鬱憤を晴らすかの如く、お互いに紡ぐ言葉が止まらなかった。
俺は久しぶりに心を許せる存在に出会い、気付いた時には敬語を使わなくなっていた。
きっと彼女の姿が恐ろしい竜の姿から美しい女性の姿に変わった事も関係していると思う。
彼女の本当の名前は『マテライン』と言うらしい。
とてもとても大切な名前で、信頼出来る者以外には滅多に名を明かすことは無い為、普段は略称で『マテラ』と呼ばせている事……
時代によって【神】だの【悪魔】だの、様々な扱いをされていた事……
もう忘れてしまうぐらい大昔から生きているが、今は全ての文明が滅びてしまった『滅亡の時代』であり、人間や竜族の様な"高度な知性を持つ生命体"はもう一人も生きていないだろうという事……
最後に知性のある種族が絶滅してから、既に何百年も経っているらしいという事……
マテラの言う"人間"とは、普通の生命を持ち普通の知性を持つ生命体の事。
竜族や俺の様な種族として余りにも普通では無い者は、姿や知性に関わらず人間とは言わないらしい。
俺の身体は、普通の生命体が持つ基本的な構造とは全く異なっているらしいが、マテラにもわからないらしい。
種族や時代によって呼び名は違うが、この星の名は【ゼジャータ】と言うらしい。
マテラ達の言葉で『循環する』と言う意味を持ったこの【ゼジャータ】を見護って行く事が、マテラの大切な使命だと言う事……
だけど特に興味を惹かれたのは、俺のように異世界から来たかもしれない【異世界人】に会った事があるという話だった。
それは"元の世界"へ帰還する為には最も重要な手がかりになるかも知れなかったからだ。
老人の知恵袋とでも言うのか、長い間生きたマテラの知識は凄まじく、何年かかっても全く解らなかったこの"世界"について、詳しく教えて貰う事が出来た。
伊達に長生きはしていない。
だが、そんな何でも知っていそうな、莫大な時を生きたマテラですら【異世界間】の"移動方法"は知らないらしい。
かつて何年も研究を重ねたが、どうしても完成するには至らなく、そのまま諦めてしまったらしい。
現時点で"帰還する為に出来る事"と言えば、実在するかどうかも分からない『新たな方法』を探すしかない。
だが、こちらに来る方法があったのだから、必ず『帰る方法もある』との事。
どうやってこの世界に来たのかも解らなかったが、たしかに、この世界に"来た方法"と"逆の方法"が、どこかに存在しているかもしれない。
だが、やはりその方法を見付けるのは簡単では無いようだ。
「はぁー。薄々そんな気もしてたんだけどやっぱり、日本に戻るのは難しそうだな……」
「たしかに、簡単では無い。佑弥が落ちた穴…… まあおそらく何者かが"この世界"に送りこんで来たのだとは思うが…… そいつが再びお前を元の世界に帰す為の【何か】をしてくれるのを待つか…… 諦めて新しい方法を探すか…… だが、簡単では無いが、決して不可能な事では無いぞ?」
「うん……」
俺は複雑な心境だった。
簡単に帰れないのは覚悟していたが、もうこの時には『マテラなら必ずどうにかしてくれる』と思ってしまう程に、彼女の事を信頼し過ぎてしまっていたのだ。
まあ、可能性が皆無では無いという事が分かっただけでも吉報だったと前向きに考えた。
何せ今までは、何も無い荒野を当ても無くただ歩いて居ただけだったのだ。
悠久の時を生きた、最高に頼れる相棒が出来ただけでも感謝しなければ……
「取り敢えず、まずはこの洞窟から出るか。ここにも、長い間篭もり過ぎてしまった。久々に外に出て、二人で旅をするのがとても楽しみだ。佑弥と一緒なら、退屈過ぎて死を待つだけだったこの世界も、きっと楽しい旅になるに違いない!」
マテラの笑顔がたまらなく眩しくて、何か話そうと思ってた事も忘れてしまった。
たった数年一人で生きていただけで、心が折れそうだった俺に比べて、マテラはもう数えるのも嫌になるぐらいの悠久の時を一人で過ごして来たのだ。
それは、"想像を絶する孤独"だっただろう。
助けてもらう立場ではあったが、彼女が俺と居る事を望んでくれるなら、幾らでも喜んで一緒に居ようと思った。
俺としても、こんな美女のお姉さんと一緒に旅する事が出来るなんて『願ったり叶ったり!』喜びで今にも踊り出したい程だった!!
やっと一人ぼっちの孤独から解放されたと同時に美人過ぎるお姉さんと二人っきりの旅が始まるのだ!
今までの地獄を思えば、まるで夢の様な話だ。
「よ、よろしくお願いします!」
俺はありったけの大声で叫んだ。
「ふふふ……こちらこそよろしく頼む」
あれ……?
その時、俺はふと自分が『自然に笑えている』事に気付いた。
俺ってこんな風に人と楽しくお喋りする事が出来たのか。
あんなに、笑えなくて困って居たのに。
こんなに辛い世界へと放り出されているのに。
何年も一人でこの滅亡した異世界を旅していた反動からだろうか?
それとも、やはりこの全てを受け止めてくれた女性のおかげなのか?
俺は浮かれていたのだ。
『簡単には帰れない……』という残酷な事実を知った割には、不思議とショックも軽かった。
友達とも言える仲間が出来た事と、既に数年間一人で生きてきた事で、心の中では覚悟が出来ていたのかもしれない。
そんな事よりも10年以上もずっと隠してきた秘密を全く気にもせず普通に接してくれたマテラに出会えた事。
全てを打ち明ける事の出来る存在と出会えた事が、俺のギリギリだった精神を救ってくれた。
今までどれだけ愛情を注がれようが俺の心は決して開かれた事は無かった。
常に心では自分が人間では無い事を憎み、人間に対して後ろめたさを感じていたのだ。
こんなに簡単に受け入れて貰えるのなら、俺に対して絶大な愛情を注いでくれていた両親や祖父母にだけは打ち明けていれば良かったかもしれない。
今更だけど、その事を後悔していた。
きっと皆は笑って俺を受け入れてくれただろう。
そんな事を考えながら、マテラを見た。
そして、思った。
喋り方とかリアクションとかは案外若いんだな……
俺に合わせてくれているのだろうか?
俺はその点においても少しホッとしていた。
何故なら、彼女の口調が、
「我は、永久の世より生を受け……」
みたいな漫画に出てくる古代竜みたいな口調だったら、ここまで仲良く喋れなかったからだ……
☆。.:*・゜✩.*˚✩.*˚
(やっと『竜の女王』に出会えたか。心配させやがって……)
広間の奥から二人を監視する男……
奥とは言え、距離は20mと離れていない。
マテラの感知能力は、20mどころかこの星全ての異変までをも感知する事が出来た。
にもかかわらず、男はマテラに存在を悟られる事も無く、ずっと二人を監視し続けていたのだ。
(しかし、初めて見たが、あれが噂の『竜の女王』か。なんだあの魔力量は…… まったく化けもんじゃねぇか…… 佑弥もよくあんな化けもんと平気で話せるな……)
マテラの持つ桁違いの魔力を感じる事が出来る男は、その異常な魔力量に恐怖していた。
その力は、男が何十年も溜め込んだ魔力を遥かに凌駕するものだったのだ。
(これ以上長居していると見付かるかもしんねぇな……)
男は、佑弥がマテラに出会えた事だけを確認すると、そのまま闇に溶けて行った……




