真実へ ⑦
やっと二人の足取りに迫ったかと思ったのに、結局マテラ達の居場所は不明。
それどころか生きているかどうかすら不明。
自分が想像もつかない"万年という時間"を飛び越えて来たという現実を突き付けられただけで、むしろ状況は進展どころか後退しているのではないか?と思った。
「お父ちゃん!マテラ様の事ほんまにまったく分からへんの?どっかに居てはりそうは場所とか噂とかは!?」
「すまんな。ホンマに分からへんのや…… 知ってたら儂らだってとっくに会いに行ってるやろ。儂らソルモンの大恩人なんやぞ」
途方にくれてしまう。
アマダインは俺の事を完全には信じていない。
だが、ラーを助けた事に対して俺に恩義を感じてくれてもいる。
俺の事を悪くは扱わないだろう。
少し話しただけだが、悪い人では無い事もわかる。
嘘をつく様なタイプの人には見えない。
そのアマダインが『知らぬ』と言うのだから、本当に何も無いのだ。
「と言う事なんや。期待させてすまんかったな……それで、お前はこれからどうするんや?」
「はい……」
「探す。とは言うても、"当て"も無いのだろう?それに、マテラ様の話は『下界』にはここよりも伝わっておらん。儂らですら何も分からんのに、今のお前に探せるとも思えん」
「はい。ですが俺は絶対に二人に会わねばなりません。無駄だと分かっていても探し続けたいと思っています。一応、まだ行っていない場所も少しは有りますし、この世界を隅から隅まで虱潰しに探して見ようと思います」
アマダインの言う通り、捜索は完全に手詰まりだった。
しかし、だからと言って捜索を諦める訳には行かないのだ。
「ふむ。しかし『下界』にはあのお前を襲った厄介な奴等もいる。今のお前ではマテラ様を見付ける前に殺されてしまうかもしれんぞ?」
正体不明の敵。
このバビロディア程度の世界で、自分は『強い』と慢心していた気持ちを一気に切り替えさせてくれた強敵。
確かに、また奴等に出会ってしまう可能性も捨て切れない。
むしろ、出くわしてしまう可能性の方が高いかもしれない。
そして、何故だか俺は奴等から目の敵にされていた様な気もする。
ラーママの助けが無ければヤバかった。
「ふむ。どうせ何も出来ひんのや。闇雲に探すぐらいなんやったら、ここで少し時間潰して行ったらええんとちゃうか?」
「そうや!兄ちゃん!それがええ!暫くここに住み!」
「え、いや俺にはそんな事してる時間は……」
「ええから儂の言う事聞いとけ。どっちにせよ今のお前は、この世界の事を何もわかっとらん。ここやったら『下界』の事も学べるやろし、"戦い方"を教えたってもええ。今のお前程度の力では何かを為す事も出来ひんのや。マテラ様に会う前に、今度こそ訳のわからん奴相手に野垂れ死にするのが関の山や……」
「はい……」
アマダインから、この街『セミラモス』に暫くの間滞在しろと言われたのだ。
本音を言えば、今直ぐにでも二人を探しに行きたい。
だが、アマダインの提案は一利どころか百利ぐらいもあった。
あの正体不明の敵は俺の過信をボロボロにする程に強敵だったのだ。
今の俺では、次は、無いだろう。
鍛えて貰えると言うならば、是非頼むことにする。
「わかりました。ありがとうございます。それでは……お言葉に甘えさせて頂きます……」
「やった~!また兄ちゃんと一緒や!」
「こらラテマ。佑弥殿はお前と遊ぶ為に残らはるんちゃうんやぞ。『下界』に落っこちて迷子になって散々迷惑かけたのに、これ以上迷惑かけたらあかん!」
「ええ~!せっかくもっと遊んで貰えると思ったのに!」
ラーがバビロディアに居た理由が余りにも適当で驚いたが、ラーのおかげで俺は救われた部分もあった。
何より楽しかった。
感謝こそすれ、迷惑だなんて思っていない。
「大丈夫だよ、ラーちゃん。また一緒に遊ぼう」
「やった~!父ちゃん聞いたか!遊んでくれるって!」
「すまんな~佑弥殿。せやけどちゃんと佑弥殿の言う事聞きやっ!」
「わかってる!なあ!兄ちゃん!」
何故こんなにも懐かれてしまったのか分からないが、すっかり懐かれてしまっている。
こんな可愛い幼子に求められているのだから、応えねばなるまい。
と、自分で自分に言い訳をした。
もう既に二人に何千年以上も待たせてしまっているのだ。
もう少しだけ待ってもらおう。
もしかしたら、俺の事なんか『忘れてられてしまっているかもしれない』って事はなるべく考えない様にした。
「よっしゃ!決まった!話はもう終いやっ!まだ佑弥殿に聞きたい事はいっぱいあるけど、取り敢えずは数百年ぶりになる珍しい来訪者の存在を祝おう!みんな佑弥殿と会いたがっとるしな!」
巨大なアマダインが吼える様な大声を上げて立ち上がる。
こんなに怖い見た目の人だと言うのに、俺みたいな半人間が少し滞在すると決めただけで、こんなに喜んで貰えるなんて……
『人』は見た目では判断してはダメだな。
なんて事を身を持って経験する事が出来た。
☆。.:*・゜
街の広場。
と言ってもどこもかしこも真っ白過ぎてよく分からないが、太陽が沈んで薄暗くなった頃には大勢のソルモン人達が俺の為に集まってくれていた。
中央には見た事の無い量のご馳走や、見るからに強そうな酒が所狭しと並んでいる。
どこから調達しているのか分からないが、セミラミスには豊富な物流があるようだ。
「おおお!結構やるな!佑弥殿!」
勧められて慣れない酒を飲む。
俺の、と言うより滅多に現れないらしい新しい住民(仮)の宴とあって、大勢のソルモン人達に酒を勧められた。
酒は酔う事も無ければ美味しいとも思えないので、出来ればあまり飲みたいとは思わない。
だが、とても次々と勧められる酒を断れる雰囲気では無く、勧められるがままに大量の酒を飲んでいたら、すっかり皆を驚かせてしまったようだ。
酒の強さだけは、ソルモン人を遥かに上回っているようだ。
「俺も負けへんで!」
「アホか!俺の飲みっぷり見とけ!」
「ウチも負けへんで~!」
「アホっ!ラーにはまだ早い!酒は10歳になってからや!」
「ええ~!ウチも飲みたいのに!」
「ガハハハ!」
"ウワバミ"である俺に負けじと、皆が酒を飲み干していく。
彼らはラー達の言う通り、見た目はともかくとても親切で心優しかった。
そして、とても明るかった。
浴びるように酒を飲み、皆が大声で笑いあっている。
非常に心地が良かった。
ここでは、俺が人間で無い事を後ろめたく感じる事は無かった。
むしろ、人間では無い事がここに居れる条件だったのかも知れないが。
こんな状況でも無ければ、ずっとここに居たいと思うほどに。
「兄ちゃ~ん!お父ちゃんが呼んでる!」
「お!ありがとう!直ぐに行くよ!」
「おい!兄ちゃん!早く帰って来いよ!」
楽しく談笑してる中、ラーに呼ばれてアマダインの元へと向かう。
アマダインの隣には、小さなラーとそれを膝に乗せて酒樽をビールジョッキみたいに片手で持ち上げてグビグビ飲んでるラーママが居た。
"ウワバミ"具合は俺が上かと思ったが、上には上がいるようだ。
「あっ!お母さま!先日は助けて頂いてありがとうございました」
「ふんっ!もっとシャキっとせえ!」
相変わらずめちゃくちゃに怖い。
温厚な筈のソルモン人の中でも、この人だけは毛色が違うのか、見た目通りに怖い。
命を救ってもらっているし、悪い人では無いのは分かっているのだが。
「おい!佑弥殿!明日からお前を鍛えてくれる"先生"を紹介するわ!」
「は、い!」
楽しい宴の最中、唐突にそれは起こった。
ここに滞在する間、戦い方を教えて欲しい。と改めて頼んでいたのだ。
ソルモン人は温厚だが、戦闘狂でもあるらしく、その強さは正体不明の敵なんかが束になってかかっても相手にならない程のものだ。
バビロディア人と比べれば圧倒的だった今の俺が更に強くなる為には、この世界ではソルモン人をおいて他に居ない。と思っていたのだ。
「ほんまは儂が直々に面倒見てやりたかったんやけどな!こう見えて儂もまあまあ忙しいんや!だけど安心せえ!飛びっきりの戦士を紹介したるさかい!」
「あ、りがとうございます……」
とは言うものの、俺には嫌な、否、決して嫌では無いのだが、とてもとても恐ろしい予感しかしていなかった。
「儂の嫁さんのザマンダや。ちょっと厳しいかも知れんけど強さはお前も知っての通りや!かなり厳しいかもしれんけど、佑弥殿は頑丈らしいからまあ大丈夫やろ!ザマンダに扱かれたら間違い無く何度も死にそうになると思うけど、乗り越えたらメチャメチャ強くなんで!」
「グビグビ……ふんっ!私に直接稽古つけて貰えるなんてありがたいと思いや!グビグビ…… 真面目にやらんかったら死ぬからなっ!」
紹介されたのは、横幅が異常に巨大で恐ろしいミセスだった。
目ためは怖いが知性的なアマダインや、他の優しいソルモン人に指導してもらえると思っていたのに……




