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真実へ ⑤

「あの、すいません。そのマテラの神話ってのは一体どのぐらい前の話なんでしょうか?」


 忍び寄る嫌な予感に冷汗が止まらない。

 この世界がゼジャータと同じ世界である事はわかった。

 映像とはいえマテラを繋がる事も出来た。

 だが、あれから一体どれ程の時が過ぎているのだろうか?


「儂にも詳しくはわからへんが、儂らの爺さんのそのまた爺さんの、ずっと前の爺さんの世代の話らしいからな…… 多分、一万年以上は昔の話やと思う。もう大昔過ぎてまともな記録も残っとらん。ただ、お前も見た『遺跡』は実在しとるからな。神話も実在した事だけは間違いない……」


「やっぱ、り……」


 サァ~と、血の気が音を立てて引いて行くのを感じた。

 いち…… 一万年。

 地球の尺度で言えば紀元前8000年。

 日本で言うならば、縄文時代後期か?

 そんな大昔、想像もつかない途方も無い時間である。

 いくらマテラが不老で限りなく不死であるとはいえ、そんな途方も無い時間を生きていられるものなのだろうか?

 スザリオは?

 いくら命を持たぬ不死の存在とはいえ、魂の寿命には限りがあると言っていた。

 更に、本体であるマテラが死んでしまったとしたら、有機物である部分には魔力の供給というか、経年劣化による修繕が行われるとも思えない。


「どうしたんや?顔が青いぞ?今更になって自分がそんな大昔から《転移》してきたなどと言った言葉が信じられなくなってきたのか?」


「いや、それは本当の事なんです。現に今でもちゃんとその大昔の事を全て覚えてますし、ですけど、まさか一万年以上も時を超えてしまったなんて……」


 ショックで頭が働かない。

 やっと確信出来た二人の安否に迷いが生まれていく。

 それに、生きていたとしても俺の事などとっくに忘れてしまっているのでは……


「悪くは思わんでくれ。お前を疑っとる訳では無い。娘を助けてくれた事には死ぬ程感謝しとる。ただ、それでもお前が一万年もの時を超えてきたなどという話を鵜呑みには出来んのだ……」


「はい……」


 衝撃過ぎてまともな返答は出来なかった。

 ただ、落ち込んでばかりもいられない。

 二人がどうなっていようとも、今の俺のやるべき事は変わらない。

 どうなろうとも、取り敢えず二人を探して会う事が唯一で最優先の目標なのだ。

 俺の事など忘れてしまっていたとしても、取り敢えずまずは二人に会わなければならない。


「他に何か聞きたい事はあるんか?」


「あ、はい。俺はこの世界に来て調べられるだけの知識を全てバビロディアで覚えていました。ですが、マテラ達の事はおろか、あなた達の存在の事など全く何も残されていませんでした?あなた達は何者なのですか?何故マテラ達の事をそんなに詳しく知っているのですか?」


 ラーのみならず、そのぐらいこのソルモン人という人達はバビロディアで知った人間達と姿形や文化がかけ離れているのだ。

 更には、マテラ達の事まで知っていた。


「ふむ。まあ、お前も人間とは違うようじゃから言うても構わんか…… 『アスムリ』と言う言葉に聞き覚えは無いか?人間共は儂らソルモン人の事をかつてそう呼んで畏れていたのだ。儂らソルモン人はな、儂らがゼジャートスと呼んどるこの大地に、人間共が誕生する以前にゼジャートスに生まれた生命体なんや。言うてみればこの世界全体の『先住民族』みたいなもんやな」


「なっ!?」


「原始の類人猿と原始の生物が様々な魔力交配、かつてのゼジャータの大気に溢れた高密度の魔力を享受し続けた結果、儂らソルモン人が生まれたと言われておる。儂らソルモン人は産まれた時は同じ類人猿から進化した人間と大差無いけどの、過酷だったかつてのゼジャートスを生き延びる為に、星からの魔力を人間等とは比較にならん程大量に享受出来るように進化したんや。魔力ってのは不思議なもんでな、大量の魔力はあらゆる現象や事象を可能にする。同種や親子と言えども見た目に一貫性無く、同種でも様々な姿形に進化したのはそのせいじゃろう。ラーもいずれは人間などとはかけ離れた容姿に育つだろう」


「そう、だったんですか……」


 ゼジャータ。ゼジャートス。

 微妙な違いはあれど、ほぼ同じ。

 マテラの日記にあった知的生命体が育ち、発展を遂げ、彼らソルモン人になったと言うのか……

 魔力の神秘性や無限の可能性については疑う余地も無い。

 かつて爬虫類からあっという間に進化を遂げた黒竜達を知っているので違和感も無い。

 こんな角度から『アスムリ』の情報が得られたのも驚いたが、それ以上の事実が次々と浮き彫りになっていく。


「とはいえ、儂らも誕生した時には脆弱な存在だった。神の如き力と知恵を持つマテラ様の事を神と崇めて、教えをこうたんや。マテラ様は儂らソルモン人達を何度も絶滅の危機から救いったと神話には記されておる。そしてマテラ様の教えに従い、神の都市である『遺跡』を人間共の手から隠し、ずっと守ってきたんや」


「守って、きたですって?あの人間から?」


「そうや。人間共は争いを好み、同種や自分の家族まで殺し食らう人間共と平和を愛し家族や仲間を愛する儂らとは決して相容れん。だが、それもまたマテラ様の教えにより、人間共と戦争を起こす事を禁じられとる。だが、儂らの力は人間共には強大過ぎた。こちらに戦う意志など無くとも人間は儂らを忌み嫌い畏れた。やから、この様に姿を隠し決して見付からぬ様に天空に隠れ住んでいるんや。時々、姿を隠して地上に降りるぐらいの事はするけどな」


「そうやで!人間は危険で凶暴なんや!ほんまやったらウチらの相手になんかならへんのに、ウチらがマテラ様の教えで手が出せへんのをええ事に、地上を我がもの顔で支配しくさって!!」


 ラーがこれ程までに人間を憎み恐れていた理由がわかった。

 確かに言っている事は理解出来る。

 人間は凶暴で戦いを好むと言われても反論できる訳が無い。

 それだけの事を地球でも散々見聞きしてのだ。

 俺もかつては人間の事を心から憎んでいた。


 ただ、今の俺は長い時間を人間の世界で生活してたせいか、昔の様にそこまで苛烈に人間を恨む事は出来ない。

 彼らの主張はほんの一部の極悪人の行為であり、全ての人間に当てはまるものでは無い。


 いくら何でも全ての人間がその様な凶暴で悪魔の様な人達では無いのだ。

 俺の家族達がそんな極悪人な筈が無いのだ。

 それだけは誓う事が出来た。









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