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滅び ②


「俺、何年も言葉を話してなかったから、上手く話せないかもしれません! でも、なんで貴方は言葉を話せるんですか!? いや、それよりも俺は、俺の名前は佑弥と言います!」


 感情のコントロールが効かない程に興奮していた。

 あまりの喜びと興奮で、言葉が支離滅裂な土石流の様に溢れ出していた。

 止められなかった。

 

「よろしくユウヤ。私のコトは"マテラ"と呼ぶが良い。悪いが、もう少しゆっくり話してくれ。私もコトバを話すのは、随分と久しぶり、ナンダ……」


「え!ああ、すみません! 貴方もそうなの? ところで、こんな所で何をしているんですか?」

 

 興奮の余り突っ走ってしまった事を謝罪するが、この興奮は全く収まっていなかった。

 "抑えろ"と言われても無理だっだのだ。

 だが、その喜びはマテラと名乗る竜にしてみても同じ気持ちだったようだ。

 土石流の様に話しかける俺の言葉を、マテラは心底心地良さそうに聞きながら、何か思案するように虚空を見上げる。

 そして、大きな瞳に涙をいっぱいに貯めて、深く深呼吸をした。


「ああ。なんと懐かしい…… 誰かと言葉を交わしたのは一体いつぶりの事だろうか…… もう言葉を話す種族は生き残っていないと思っていた。お前は、いったい何処から来たのだ?仲間は? お前一人だけか?」


 マテラは、大粒の涙をポロポロと零していた。

 突然の竜の涙に意表を付かれた俺は、慌てふためいた。


「なんで泣くんですか!? 泣かないで下さい!俺は【地球】っていう違う世界から来ました。突然底なし沼に飲み込まれて、この世界に来てしまったんです」


 俺は訳も解らずに、突然この世界へと放り出されてしまった事を伝えた。

 それからずっと長い間、たった一人でこの世界を彷徨っていた事も……


「そうだったのか…… この世界をたった一人で彷徨うのはさぞ辛かったろう。だが、地球? はて?私でも聞いた事が無い名だ」


 マテラは困惑した表情だった。それも当たり前だ。

 ここは、【異世界】なのだ。

 この世界に住んでいる者が【地球】の事を知っている筈が無い。

 他にも異世界から来た人間がいるならば、少しは話も通じたのだろうが……

 そんな事を思いながら、やはりここは地球では無いのだ……と確信してしまった。


「多分、こことは違う"世界"なんだと思う。不思議な穴に吸い込まれて、この"世界"に飛ばされて来たんです」


 話したところで簡単に信じてもらえない事は分かっていた。

 だけどその事をマテラに隠す必要も感じなかったし、他に上手く説明出来る方法が思いつかなかったのだ。


「違う"世界"だと?……いや、俄には信じられない不思議な話だが、お前は嘘を付いている様には見えんしな。不思議な事もあるものだな……」


「本当に……?こんな、訳の分からない話を信じてくれるんですか?」


 こんな訳の分からない話を、マテラは取り敢えず信じてくれたようだ。

 こんな科学も何も無い世界で、よく【異世界】という概念が通じたものだ。

 自分で言っておきながらなんだが、俺ならば信じる事が出来ただろうか?


「うむ。今まで残っている文明が無いか、散々探したが見付からなかったし、お前の他には誰にも出会えなかったしな。それに、『お前のような存在』に会うのも初めての事では無いのだ……」


「マジで!?俺の他にも『地球人』が!? その人は、今何処にいるんですか!?」


 せっかく少し落ち着いた心が再び最高潮に達した。

 まさか自分の他にも地球人がこの世界へ来て居たとは!

 俺は興奮のあまり、また声を荒らげてしまった。


「まあまあ落ち着け。地球人かどうかはわからない。『お前みたいな存在』と言っただけだ。それに、もうずっと昔の話だ。すまんが、彼が今、何処に居るのかは、私にも解らないな」


「そっか…… その人に聞けば、帰る方法が解るかと思ったんだけど……」


 俺は垣間見えた希望が、一瞬で途絶えてしまった事を激しく落胆してしまった。

 帰れるかも!と頭に浮かんでしまったのだ。


「すまんな。だが、そんなに気を落とさないでくれ。そうだ!お前が帰る方法を探すのを私も協力してやろう。私も言葉を話す者と会うのは本当に久しぶりなんだ。孤独で退屈で、長い間蓄えた知識と力を使う事も無く、誰の記憶にも残らないままに、"使命"を果たす事も出来ずに、心が折れてしまってそのまま石の様にでもなってしまうのでは無いかと思っていた。お前に会う事が出来て、本当に嬉しくて嬉しくて、この感動をなんと表せばよいのか…… 幸いにも時間はいくらでもあるのだ。だから、これからゆっくりとその辺の事も、お前が帰る方法を探すのにも、この私が幾らでも力を貸してやる」


 マテラはまた泣いていた。

 そんなにも嬉しかったのだろうか。

 俺も言葉を解する生物に出会えた事は心底喜んでいたが、流石に涙が出る程ではなかった。

 見た目と裏腹にとても涙脆い竜?らしかった。

 それとも『竜』と言うものは全て涙脆い生き物なのだろうか。

 

 だが、正直に言うと俺の気持ちは内心、とても複雑な心境だった。

 何故なら、マテラは『長年言葉を話す者とは会っていない』と言っていたからだ。


 つまり……この世界には、人間は居ない。

 人間どころか知的生命体、『文明そのものが残っていない』という事になる。

 何度も何度も押し殺して来た"不安"が、竜の言葉で確信となり、そして再燃する。


 俺は、元の世界へと帰れるのだろうか……


 不安が押し寄せてくる。

 しかし、光明と取れる発言もあった。

 さっきマテラは『帰る方法』とも言ったのだ。

 マテラがどれ程頼りになるのかは分からないが、この竜が強力な助けになる事は間違いない。

 少なくとも戦闘面では、圧倒的だろう。

 恐竜のような怪物達が可愛く見える程なのだ。


 それに、荒廃した【異世界】だろうがなんだろうが、やっと話せる存在に出会えて、状況が好転している事には変わりない。

 取り敢えず今は、この先の不安よりも、マテラと出会えた喜びに浸ろう。

 俺は前向きな事だけを考えた。

 そして、気持ちを切り替えて無我夢中で話した。

 最初に恐ろしい竜に抱いた恐怖などは完全に忘れてしまっていた。

 マテラは相変わらず全力で喜びを言葉で伝え、涙を流し、俺もそれに負けぬよう全力で応えた。

 マテラに聞きたい事、話したい事は幾らでもあった。

 まるで永遠に話し続ける事が出来るのではないか?と思わせる"女子高校生"の様に話し続けた。

 俺達は久しぶりに言葉を使い、話し、自分以外の人に会えた喜び、自分以外の人と話せるという喜びに没頭し、何時間も時を忘れて話し続けたのだ……


「所で、佑弥……」


「何? 何ですか?急に改まって……」


 すっかり打ち解けていたマテラは、急に改まった態度で俺に確認してきたのだ。

 ほんの数秒前まで出会ったばかりとは思えない程に親しく話していた竜の態度とは思えなかった。


 まさか…… とは思うが、気を許させておいて、今更『お腹が減ってきたので食べさせて頂きます』等と言われるのでは無いか?と今更有り得ない想像してしまう。


 俺はマテラが口を開くのを待ち構えた……

 この数秒にも満たない時間がとても長く感じた。



「君は不思議な存在だな?地球人とはみんなそうなのか?何故人間なんかのフリしているんだ?」


 俺の呼吸が止まった。

 瞬間的に血の気が引いてゆく……

 今まで誰にもバレた事の無かった"秘密"に、マテラは気付いていたのだ……

 

 




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