真実へ ③
「……」
目の前には真っ白の天井が見える。
不気味なぐらいしみ一つ、汚れ一つ無い。
綺麗過ぎる程に真っ白な不思議な天井だ。
こんなに綺麗な天井を見たのは、生まれて初めての体験だった。
「それにしても、ここは……」
白っ…… と思わずに言ってしまう様な部屋だった。
壁や天井だけでなく、ベッドや花瓶、机やテーブルまで、ありとあらゆる物が白で整えられてる。
美しくはあるが、白過ぎて頭が混乱する。
「そうだ、俺はまた意識を失って……」
先日見知らぬ敵の襲撃を受けた記録が再生される。
俺は人生最大の大怪我を負ってしまっていた。
顔面は半分切り裂かれ、腹部には反対側が見える程の巨大な穴を開けられていたのだ。
失った内蔵は?裂けた心臓は?
そんな事気にならない程の悲惨な致命傷。
血こそあまり出なかったものの、人間だったら何度も『即死』していただろう大怪我。
自分が人間では無いと言う事は重々承知していたものの、改めて自分が人間じゃないと言う事を痛感させられる。
「けど、生きてて良かった。流石に死ぬかと思った……」
一体何日間気を失っていたのか……
眠っている間だけは記録が無いのが不安になる。
だが、身体はもはや何処を怪我していたのか分からない程に綺麗に治っていた。
大穴は完全に塞がり、抜け落ちた歯も新しく生えている。
相変わらず馬鹿みたいな治癒能力だ。
あれ程の大怪我でも再生出来てしまうなんて。
「いや……もしかしてこれは夢で、俺は既に死んでいのでは?」
この真っ白な部屋は実は天国で……
なんて気持ちにさせてしまう。
だけど、俺は天国に来れる様な善人では無い事を思い出した。
とは言うものの、地獄に落とされる程の悪行を重ねたつもりも無い。
「兄ちゃん!」
部屋に飛び込んできた小さな天使が、そのまま俺の身体に激突する。
ほら良かった。
やっぱりここは地獄なんかでは無かった。
見知った可愛い天使に会えた。
「良かった!兄ちゃん突然倒れるから死んだんかと思ったで!」
「ああ、ごめんラーちゃん。ママが助けに来てくれなかったら流石にヤバかったな…… 所でここはどこなんだ?」
「ここはウチの家やで。兄ちゃんピクリとも動かへんからママが運んでくれたんや!」
「そっか。良かった。ラーちゃんもやっとお家に帰れたんだね。まさかこんな急に解決するとは思わなかったけど、本当に良かった」
「ほんまやな。兄ちゃん色々ありがとうな!それと、兄ちゃんの目が覚めたら連れてこいって父ちゃんもママも待ってるねん!はよう行こ!」
「そっか。しっかり助けてもらったお礼もママに言わないとな。お陰様で身体もスッカリ元通りみたいだ。行こう」
にしても、あのママが俺を運んでくれたのか……
後でまた怒鳴られそうで怖かったけど、取り敢えずあんな所に放置されなかった事を素直に感謝しよう。
ラーの種族の事とか、スメーラの事とか、他にも色々と聞きたい話もある事だし、早速ラーの両親に会いに行く為に部屋から出る。
✩.*˚
「な、なんだここは!?どうなってるんだ!?」
ラーの家、というか邸宅とでも言うのか。
馬鹿みたいに広く真っ白過ぎる家を出て、俺は更に驚いてしまう。
「白っ!……」
白かったのはラーの家だけでは無かった。
目の前に映るありとあらゆる建物が、完全な『白』で統一されている異常な街並み。
『白系統で統一された』とかでは無い。
全てがペンキで塗り潰されているみたいに、一面真っ白なのだ。
「そんな驚く事か?まあ、人間の町は色んな色が混ざってゴチャゴチャしてたからなぁ……」
「って驚くよ!これだと何がなんで何処にいるか分からないじゃないか!?」
「アホなっ!そのぐらい分かるわっ!」
確かに、色は完全に統一されてはいるものの、形や素材は様々だ。
よ~く目を凝らして見れば、白の中にも微妙な違いを僅かに感じる事が出来た。
だが、それでもやはり頭が混乱しそうになる。
そして。
「うおっ!でかっ!大丈夫かな?突然襲われたりしない?」
「人間とちゃうんやし、そんな怖い事する人なんかここにはおらへんわっ!」
人通りのある道に出て更に驚いた。
とにかく同じ種族とは思えない程に、この白い街の住民は多種多様性に富んでいた。
天使の様な見た目のラーとは違い、町を歩いている者達が物凄く異形なのだ。
やたらデカい複眼の男、やたら筋肉質で多頭多腕の女、異常にガリガリな男、途方もなく巨漢の女、いやラーママに比べたらそこまででも無いが、全く形態の異なる多種多様な化け物達が白い世界を闊歩していた。
肌の色や角の数に至るまで、全く統一感が無い。
強いていうならば、大きさや形態の違いはあれど、みな翼を持ち、俺の感覚でいうならば醜悪で恐怖を感じさせる形態をしていると言う事だった。
まるで聖書に出てくる『悪魔』みたいだった。
その悪魔達がこの不気味なぐらいに真っ白い街並みに点在し、不思議なコントラストを作っている。
異常な程統一された街並みの中、異常に統一されていない悪魔達が動き回っている。
「おっラテマやないか。暫く見ぃひん内に大きなったなぁ……」
三本角に手が八本も生えているのに、目が一つしかない青紫色の肌の男が話しかけてきた。
見た目はこれ以上無い程に恐ろしいが、ラーと顔見知りの様で、声と表情はとても温和な感じがする。
「あっ!ヘカ爺ちゃん!爺ちゃんも元気そうやな!」
「ほんま、あんなちっこかったのに、こんなに大きうなって…… もう10歳ぐらいにはなったんかの?」
「あほなっ!お爺ボケてんのか!ウチはまだぷりぷりの1歳や!」
「ほぅかぁ。あっという間やなぁ。ほなまた暇な時にでも遊びにおいでな。婆ぁさんも大きなったラテマに会いたがりよるわ」
「お爺ぃ。ウチの話聞こえるか?ホンマに…… けどまあ婆ちゃんにもよろしくな!長生きしてや!」
「……」
理解が追い付かない。
今聞こえた会話の意味が理解出来ない。
もしそのままの意味だとすれば、今目の前にいる見た目5歳か6歳ぐらいの幼女は僅か1歳。
俺と出会った時には僅か生後数ヶ月だったと言う事になる。
そんな赤子みたいな少女がこんなにも利発的に話したり動いたり出来ると言うのだろうか?
「どうしたんや?兄ちゃん。変な顔して….」
「ラーちゃんって皆よりも大分成長が早いって言われない?」
「そんな事ないで。ウチは普通やわ。爺ちゃんちょっとボケてきてるねん。昨日も同じ話ししてたし……」
ラーは変わらずキラキラした瞳でこちらに微笑み掛けていた。
頭が混乱する。
嘘を付いている様には見えない。
もしかすると、犬みたいに異常に成長が早い種族なのだろうか……
確かに出会った頃に比べれば言葉もスラスラと話せる様になっているし、身体も大きくなっている。
とは言うものの。
「ほんま大丈夫か?具合悪そうやで?」
「大丈夫。ちょっと自分が嫌になっただけだから……」
頭が混乱する。
なんなのだこの街は……




