真実へ ②
「ぐっ!このバケモンめ!離しやがれ!」
ドスッという音の後に、折れた槍がコロコロと転がった。
ラーママの身体に突き立てられた槍は腹部を貫く事適わず、逆にポキンと折らてしまったのだ。
「アホかい。もう諦めぇ。そんなちっこい槍でウチをどうにか出来る訳無いやろが」
ラーママがバリバリっと乱雑に何かを引き剥がすような仕草をすると、男の迷彩が解かれていく。
男は豪腕に首根っこを鷲掴みにされ、片手で軽々と持ち上げられていた。
「ちっ!」
「逃がさへんて言うたやろ。観念せえ、《ドレイン》」
まだ諦めずに抵抗を試みていた男は、ラーママの不思議な能力により、次第に力を失ってグッたりとしていく。
「やっと静かになったな。白状しろ。お前は何処のもんや?」
「……」
男は答えない。
しかし、勝負はもはや試して見るまでもなく、誰が見ても明らかだった。
男にもそれは理解出来ているようだ。
そのぐらいラーママの存在感は"この場"を圧倒している。
何をしても無駄、という表現がピッタリの状態に見えた。
これ程圧倒的な存在感は、マテラ以外ではお目にかかった事が無い。
「そうか…… 弱いもん虐めすんのは趣味ちゃうけど、しゃあないな……」
「ゴフッっ!」
ラーママの剛腕が男の腹に突き刺さり、身体がくの字に折れ曲がった。
「おらぁ!おらぁ!何とか言うてみぃ!」
剛腕の嵐は止まることなく、男の身体はまるでサンドバッグのごとく、クネクネと左右に折れ曲がっている。
俺に対してはあれ程攻勢を見せた男であったが、化け物の様なラーママにはまるで相手にならない。
「ラーちゃんのお母さん。めっちゃ怖いね……」
「せやで。絶対に怒らせたらあかんねん。ママが怒ったらお父はんでも手に負えへんねんから…… 」
「おらぁ!おらぁ!もう終いかっ!このパチモンが!誰に手出したと思っとるんじゃこらぁ!?」
ラーママの"お仕置"は止まらない。
男は最初に鷲掴みにされた時点でラーママに大半の魔力を吸い取られており、既に勝負は決していた。
魔力を根こそぎ吸い取られ、その上でボロボロになるまで殴打され続け、まるでボロ雑巾の様にズタボロになっている。
「む、惨い……」
あれでは降参して何か白状しようにも、喋る事など出来そうにも無い。
「あの…… お母様。そのぐらいで止めておかないと、そいつ死んじゃうんじゃ?」
「はぁ!?アホか!心配せんでも手加減はしてる。せやけどこいつは兄ちゃんを殺そうとしてた奴なんやろ?そんなクズの事まで心配してお人好しにも程があんで!」
「いや、そいつが何故襲って来たのか理由を聞き出さ無いと……」
と、言った所で既に言うのが遅かった事に気付いた。
男も人間では無いのか、死んでこそいないらしいが完全に気を失っており、何かを答えられるような状態では無かった。
もし人間だったとしたら、間違いなく100回は死んでいる。
「そんなん、知るかいや!起きとる時に言い!ウチらに手出したらどうなるか、キッチリ教えこんだらんとあかんのや!」
「あ、はい……すいません」
「分かったらええんや!こいつらウチらが居らん間にチョロチョロと悪さばっかりしとってな!いつか捕まえてお仕置したろうと思ってたんや!兄ちゃんが誘き出してくれて助かったわ!」
俺を助けてくれた訳では無かったのか……
と言うか、さっき間違えて俺を殴ろうとしていたクセに……
などと思いつつ、下手な事を言ってしまうと俺までその男みたいにされそうな感じがして素直に引き下がった。
「ふんっ!このクソがっ!二度とウチらの前に姿見せんなっ!次は根城までカチこんで皆殺しにしたるからなっ!」
ラーママは散々ド突き回して気が済んだのか、ポイっとまるでゴミでも投げ捨てるみたいに男を投げ捨てた。
自慢の迷彩効果のある魔法具はみるも無惨に破り裂かれ、槍は叩き折られ、割と色男であったその顔はボコボコに腫れ上がり見る影もない。
殺されかけた俺ですら哀れに思ってしまう程であった。
「はぁスッキリした。それよりもラテマ!あんた何でこんな所におんのや!どんだけ探したと思うてるんや!」
「ひっ!ママごめんなさ~い!わっ苦しい……」
つい先程見た光景が再び繰り返されている。
ただ今度は血なまぐさい"お仕置"では無い。
パッと見はとても恐ろしいが、我が子を心配する母の過剰な愛情表現の一環の様だ。
口調は怖いものの、ママも余程心配していたのだろう。
ラーを剛腕で強く抱きしめていた。
愛情表現だとは思うが、膨よかな身体に小さなラーの身体が埋まり、窒息死しないかだけが心配だ。
「あ……」
「兄ちゃん!?大丈夫!?」
人生最大の危機が去って、命が助かった事に安堵したのか、怖くはあるが何故か異常な程に安心感を与えてくれるラーママの存在に、今まで張り詰めていた気持ちが緩んでしまったのか。
「ごめん。もう限、界…… 寝させ……て……」
どちらにせよ、大量に血を失い過ぎた。
腹もペコペコで栄養が足りない。
なんて事を考えたながら、俺はそのまま意識を失ってしまった。
ひんやりと冷たい地面の砂の感触が気持ち良かった。




