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真実へ ①

「うわぁぁぁん!」


 泣きじゃくるラーが駆け寄ってくる。

 巻き込まれ無いように遠ざけようとしても、ヒッシと俺に抱きつき決して離れようとしない。

 激痛のせいで、今の俺にはそんな余裕など無いのに、幼くて小さな手の感触がとても心地よかった。


「邪魔だ。どけ。お前まで殺すつもりはねえ……」


「嫌や!もうやめてぇ!」


 もういいから…… 俺から離れて……

 と声に出す力も残っていない。

 今の俺に出来る事と言えば、追撃を避ける為に一秒でも早く回復する事だけ。


「しかし、てめぇまだ生きてやがる。人間じゃあねぇのか?それとも何かの『加護持ち』か?」


 腹に空いた大きな風穴からの出血は収まりつつある。

 思考もさっきよりは鮮明になってきた。

 信じられない事だが、こんなになっても俺は生きていられるらしい。

 こんな化け物みたいな敵にまで驚かれるとは。


 まだ動いたり魔力を使うには時間がかかるが、このままもう少し時間稼ぎ出来れば……


「信じられねぇタフさだが、頭を潰されたら流石に生きてはいられねぇだろう……」


「いやぁぁあ!」


 敵が再び槍を振りかぶった。

 必死でラーを離そうとするが、少女はまるで手足に鉤爪でも付いているかの様に離れない。

 いや。少女の細腕を振り解けない程に俺の力が低下していると言う事なのか……


「くっ……」


 槍に貫かれたら無駄だと思いつつも、ラーを守るように覆い被さった。

 もしかしたら、俺だけなら頭を潰されてもムカデみたいに死なないかもしれない。

 腹に空いた穴が既に修復を始めているみたいに、潰れた頭もニョキニョキと生えて来るかもしれない。

 何せ俺は人間じゃないんだ。

 こんなにもしぶといのだから……


 流石にそんな都合良い訳無いか……

 悔しい。

 悔しい。

 訳もわからず、こんな所で……

 ……いや、まだだ……


「しね……」


 槍が振り下ろされる。

 眉間に突き立てられそうになった槍を強引に頭を捻って躱す。

 ズシャ。

 だが、頬骨から鼻先にかけて肉が抉り取られていった。


「ちっ!離せ!なんてしぶてぇ野郎だ!」


 残った歯で刃に食らいつく。

 離すわけにはいかなかった。

 大量の出血で口の中が鉛の味で染まるが、絶対に話さない。

 後もう少し。

 後もう少しすれば、身体が今より回復する。

 鼻がもげようが、耳が削ぎ落とされようが、それでも命さえ残っていれば。


「ふがっ!」


 ノラ犬みたいに噛み付いていた刃はベシッ!という音と共に、奥歯ごと引き抜かれた。


 死が迫る。

 同じ作戦はもう通用しない。

 受け止める歯も残っていない。


「ちっ……」


 だが何故か男は、再び槍を振り下ろす事は無く、静かに俺から距離を取った。


「……?」


 男の行動が理解出来ない。

 今度こそ本当にやばかった。

 これだけの力量の男がその事に気付かない事など有り得ない。

 俺の足掻きに情が湧いて見逃してくれたなどという事も無いだろう。

 理由は分からないが、この敵は明確な殺意目的があって俺を殺しに来ていたのだ。

 今更見逃される事など有り得ない。


「こらぁ!なにしとんじゃ!われ!やめんかい!」


 その時、突如上空から見知らぬ声が聞こえた。

 何故か男から動揺を感じる。


「ちっ。時間をかけ過ぎたか……厄介な奴のせいで」


「!?」


「ママ!!」


「え!?」


「ラテマー!!」


「ママー!!」


「うわぁ!っ」


 声の主は上空から巨大な隕石でも落ちてきたかの如く激しく降り立った。

 モクモクと舞い上がった砂埃の中から恰幅の異常に良い女性が現れ、ラーを強く抱きしめた。


「あんたっ!あんだけ一人でどっか行ったらあかんって言うたのにっ!どんだけ探したと思ってるんや!お父さんもめちゃくちゃ怒ってはるで!」


「ごめんなさい~っ」


「……」


 目の前では強烈なオカンが子を叱り飛ばす光景が繰り広げられている。

 ラーのママと思われる女性の肌は燃えるような鮮やか赤色をしており、見るからに人間では無い。

 巨大な角といい、蝙蝠みたいな羽といい、まるで悪魔みたいな見た目をしていた。

 とても天使の様な見た目を持つラーの肉親には見えないが、どうやら母であるらしい。


「あんたか!?ウチの大切なラテマを誘拐したんは!?このままただで帰れると思わんときや!もう随分弱っとるみたいやけど、ウチらに手を出した事、死ぬ程後悔させたるからな!」


「え!?いや!俺じゃ……」


 ラーママの丸太の様な腕に鷲掴みにされる。

 ヤバい。

 今の俺には反撃する力など残ってはいない。

 何とか死なずにここまで来たのに、こんな勘違いで殺されている場合じゃない!


「ママ!違う!兄ちゃんはあの変な男に襲われた所を助けてくれてるんや!」


「なんやて!このけったいな人間崩れみたいなんがか!?何なんやこいつは気持ち悪いっ!せやけど、そうなんやったらすまん!助けたるわ!兄ちゃんっ!」


 ドサっと、乱暴に投げ捨てられた。

 危なく本当に死んでしまう所だったが、何とか誤解は溶けたようだ。

 だが、俺をこんな目に合わせた正体不明の敵は、今の混乱に乗じて既にこの場から立ち去ってしまったようだ。

 周囲を見渡しても俺達の他には誰も居なくなっていた。

 が。。


「おいっ!ソコに隠れてる紛い物!出て来て説明せぇ!遮蔽しとっても臭いは消えてへんぞ!」


「……」


 返答は無い。

 だが、ラーママは何も無い場所へと突如高速移動したかと思うと、その太い腕でおもむろに何かを捕まえた。





















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