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姿見えぬ者 ③

 目的地は決まった。

 目指すはこの星の最南端。

 そこで彼女が、俺を待っているのだ。


「兄ちゃん。南の端っこまで行くん?」


「うん。そのつもりだ。かなり寒いかもしれないけど、もう少し付き合ってくれるかい」


「もっと寒いん!?ん~でも、大丈夫!」


「けど、ラーちゃんの家はもっと寒かったんだろう?もしかしたらラーの家も見付かるかも知れないよ?」


「え!ほんま!?」


 そうなのだ。

 ラーの故郷はあの山脈よりも、更に寒かったと言っていた。

 あそこより寒い場所など、南極か北極ぐらいしか思いつかないのだ。

 偶然にも、俺達の目的地は同じだったかも知れないのだ。


「勿論だ!じゃあ。行くか!南の果て【南極】へ!」


「おおっ!」


 期待に胸が膨らむ。

 あやふやでは無い。

 今度こそ、確実に彼女が待っている。

 どんな過酷で困難な場所でも必ず到達してやるのだ。


「兄ちゃんの用事で色々驚かせちゃってごめんな。ビックリしただろう?俺もビックリしたんだけどね」


「ほんまビックリしたわ。兄ちゃんがまさか『イロリンのユウヤ様』やったなんて!ウチもとんでもない人に助けてもらったもんやわ!」


「は?なんだそれは?」


 何故この世界のラーが、俺の恥ずかしい方のあだ名を知っているのだ?

 もう何年もその呼び方を聞く事も無く、既に封印されかけていた俺の忌まわしき二つ名を……


「いや、だから兄ちゃんがあのユウヤ様なんやろ?伝説のマテラ様の最大の友で一番弟子の……」


「え!?どういう事!?ラーちゃんはマテラを知っているのか?」


「そらそうや!ウチらの国で『マテラ様』を知らん奴なんかおらへんよ!ウチの名前かて父ちゃんとママが尊敬するマテラの名前を頂いて付けたって言うてたもん!」


 ラテマ……マテラ……確かに逆に読んだだけなのは奇妙な偶然を感じていた。

 自分の事で精一杯なのに、ラーの面倒をここまで見ているのには、そこに運命の様な物を感じたからでもある。

 そう言う事だったと言う事なのか?

 しかし、何故ラーの種族がマテラの事を!?


「え、だけど何で!?ラーちゃん達の国にマテラは居るのか?」


「ちゃうちゃう!兄ちゃんは『ユウヤ様』なんやろ?何でそんなん分からへんの?マテラ様はウチらの国で一番有名な神様やねん。みんなマテラ様のお話を聞いて育つねん。だからここがお話に出てくるスメーラのお城ってわかってめちゃくちゃビックリしたわ!」


「何だって!?」


 マテラが神様、だと?

 確かに彼女の力は他の生命体からすれば、まるで『神』にも等しい力を持っていた。

 ゼジャータの中だけでは無い。

 それは、このバビロディアに来てからでもより強く痛感させられている。

 マテラに全く手も足も出なかった俺でさえ、この時代のどんなモンスター達ですら相手にならない程の力を持っているのだ。


 彼女を神と崇める者達が居ても全く不自然では無い。

 だが、バビロディア図書館で調べられる全ての文献を調べたが彼女やそれに近しい様な伝承、神話等、何も見付ける事は出来なかった。


 そんなマテラの話が、大っぴらに童話となって語り継がれているなど、更には俺の名前までも。

 ラーの種族とは、一体何者なのか?


「改めて聞くけど、ラーちゃん達って一体何者なんだ?」


「う~ん。ラーちゃんはラーちゃんやしなぁ。せや!父ちゃんに聞いたら分かるかも!父ちゃん物知りやから!」


 やはり、満足な回答は得られない。

 なんとしても事情を知っているであろう大人のラーの種族に会う必要がある様だ。


「そっか…… わかった。因みに、ラーちゃんの国では俺の事はどんな風にお話されてるの?」


「兄ちゃんはあれや!マテラ様の一番の弟子で変態で最初は弱かったけど、マテラ様の訓練でどんどん強くなって、最後は『悪の神様』をやっつけるんや!どうりで兄ちゃんめちゃくちゃ強いと思ったわ!最初っからただもんじゃないとウチは思ってたんや!」


「いや…… スマンがそれはかなりオーバーに描かれているな…… 兄ちゃんそこまで強く無いぞ」


 途中までは確かに合っているが、何故俺が居なくなってしまった後の話まで勝手に描かれているのか……

 悪神どころか、マテラから一本すらも取った事が無いと言うのに……


「またまたぁ!兄ちゃんが『剣王スザリオ』を倒す話なんか、みんなめっちゃ興奮して読んだんやで!ウチも一番好きな話や!兄ちゃんの必殺『グラビティアオメガアルティマイソード』が炸裂する時とか最高やったわ!」


「あ…… そうなんだ。へぇ……」


 そんな技知らないし、今後も恥ずかし過ぎて命名する気も起こらない。

 もはや、途中からは完全な創作になっているような気がする……


 マテラとスザリオに会ったなら、是非その辺も詳しく聞かなくてはならない。

 まあ、俺など別に好きに扱ってくれて構わないのだが……


 驚かされはしたが、結果的にどうでも良いレベルの話になってしまったラーの国の神話を聞きながら、都市の出口を目指す。


 早く、マテラに会いたい。

 まさか目的地が南極だとは思っていなかったので、準備も何も出来ていないが、流行る気持ちを抑える事が出来ない。


 ラーちゃんは嫌いなだけで、寒さ自体にはかなり強いらしいし、俺はそもそも寒くても暑くてもあまり影響を受けない体質をしている。


 ここから出たら、すぐに南極を目指す事にしよう。


「あ~。ここが物語のお城って知ってたらもっとよく見ときたかったわぁ!また兄ちゃん連れて来てな!」


「そうだな。今度はラーちゃんにこの国の王様も紹介するよ。きっと"お話"と全然違ってビックリすると思うぞ?」


「え~!それってマテラ様の事やんな!めっちゃ嬉しい!」


 はしゃぐ少女が堪らなく可愛かった。

 彼女にとって俺やマテラは映画の役者さんみたいな感じなのかもしれない。


 目的地はもうわかったのだ。

 この少女と交わした約束は、必ず叶う約束なのだ。

 俺もその瞬間が堪らなく楽しみだった……


「……!」


 ドクん…… と急に感じた心臓が締め付けられる様な感覚。

 寒さを物ともしない俺の身体に現れた大量の鳥肌。

 嫌な、とても不快な感じがする。


「ラーちゃん。ちょっと静かに……何だか、とても嫌な予感がする」


 出入口はすぐ目の前だ。

 念の為に周囲を確認するが、周りには誰も居ない。

 だが、何かが確実におかしい。




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