姿見えぬ者 ②
「やった!何か動いたみたいやで!」
溜飲が下がる。
これで何とか前に進む事が出来ると思った。
俺がもし二人と同じ境遇に立ったとすれば、絶対に俺の為に何かしらの手掛かりを残す筈だ。
手掛かりを残すとすれば、一番可能性が高いのはここしか考えられないのだ。
『起動しました……』
機械音と共に、目の前に投影式のスクリーンと操作パネルが浮かび上がる。
パスワードを入力する画面が表示されている。
「兄ちゃん!なんやこれ!?使い方わかるん?」
「多分大丈夫だ。昔に知り合いが使っているのを見た事があるから…… ここにパスワード入力してっと……」
アクセス名にはマテラの真名。
そして、パスワードを入力する。
勝手にマテラの名前を騙る事になるが、今は許してもらおう。
後でいくらでも謝ればいい。
『認証しました……』
無事に認証を通過する。
マテラはこの国の最高権力者。
これで『情報庫』内にある全てのデータが閲覧出来る筈だ。
だが、この膨大にある資料の中から一体何を探し出せば良いのか。
しかし、その不安は一秒も経たぬ内に解決する事になる。
膨大にある項目の中の一番目立つ所に、とても気になる名称のフォルダを見付けたからだ。
そこにはスメーラ語で、こう書かれていた。
"私の名を知る異国の友へ"……
これで間違いない。
俺の手が震えた。
震える手でそのフォルダをクリックする。
『フォルダ名"私の名を知る異国の友へ"は作成者が定めた閲覧者制限がかかっています…… あなたは該当者ですか?該当者であれば国籍と真名を答えてください……』
閲覧者制限。
これで俺で無ければ笑いものだが……
流石にそんな異世界転生が何人も居るとは思えない。
俺は確信して名を告げる。
「国籍、日本。真名、イロリバヤシ、ユウヤ……」
「え!?」
『音声及び魔力パターンにより、該当者確認しました。フォルダ"私の名を知る異国の友へ"のアクセスを許可します…… 』
ラーが驚いていた。
ラーにも隠していた自分の名を告げたからだろう。
だが今のラーになら、もう俺の素性がバレても良いと思っていた。
そのぐらいラーの事は信用してるし、そもそも最初から人間では無い事はバレている。
「ごめんな、ラーちゃん。兄ちゃん名前を隠してたんだ。本当の名前は今言った通りだよ。兄ちゃんも、こことは違う世界から来たんだ」
「う、うん。いやええねん。けど驚いたわ……」
「隠しててごめんな。もっと早く言うべきだったんだけど、ラーちゃんにはまだ難しい話だし、本当の事言っても信じて貰えないと思ったから…… また後で詳しく話すよ」
「うん….…」
簡潔にラーに説明して意識を画面上に戻した。
開かれたフォルダの中にはたった一つの動画ファイルが置かれている。
俺はそのファイルをクリックした。
『ピッ……』
画面上に、何度も夢見て追い求めたマテラのその姿が映し出された。
たった一ヶ月強。
記録に残った映像で、何度その姿を再生した事
か。
愛おし過ぎて涙が出そうになる。
「こんにちは、佑弥。久しぶりだな。"時を越えた"君からすれば、もしかするとそんなに久しぶりでは無いのかも知れないが…… 私の感覚では君が居なくなってから、随分と長い時が経ってしまっている……」
「マテラ……」
久しぶりに見た変わらず美しいマテラの声や動きに涙が零れた。
俺からすれば、時間転移からたった一ヶ月強。
だけど、実際にマテラに会えなかったこの一ヶ月はまるで何年にも感じられて……
「何から話せば良いのか…… そうだな。佑弥が旅立ったあの後、私とスザリオは二人で佑弥の帰りを待ちながら、訓練したり、旅をしたりね…… そうだ、ルーファウスの方は特に何も動きが無い。きっと今もどこかで悪巧みをしているのだとは思うが、何が起こっても私が止めてみせるから安心して欲しい。この世界の平和は私が必ず守って行くから……」
良かった。
取り敢えずマテラは元気そうだ。
ルーファウスの事も心配だった。
だが、マテラとスザリオの二人が居る限り何の心配も無いに決まっている。
続きが気になる。
「そうそう、スザリオは凄く強くなった!まだ私には届かないとしても《魔法》の新たな運用方や頭の回転の速さには思わず驚かさせる事も有るぐらいだ!かなり良い練習相手になるよ!まあ、それでも佑弥ほど私を驚かせた男はいないがな!」
流石、超高性能コンピュータ。
あのまま進化し続けたとしたら、とんでもない事になっているだろう。
悲願の『マテラから一本取る』事は出来たのだろうか?
続きが気になる。
「あれから、爬虫類型の怪物達は随分数を減らしてね。代わりにまた色んな生物達が生まれたよ。そうそう、久しぶりに知性を持つ生命体が産まれたんだよ。今回はなんと猿達が進化して知性に目覚めたんだ。今では遂に言葉までも使うようになった!生物に知性が芽生える瞬間は何度見ても興奮する!まさか、あの脆弱な猿達がこの過酷な世界で生存競争に打ち勝って知性に目覚めるほど数を増やすとは。全く驚きだ!余りに驚いてまたルーファウスが変な事したんじゃないかって心配したけど、今回は大丈夫。完全に自然に進化出来た事を確認出来たよ。きっと、彼達が佑弥の居た世界の"人間"みたいになっていんだと思う!この先の未来が楽しみだ!」
マテラが凄く興奮していた。
俺の常識では猿が知性を持ち、文明を築く事は普通の事なのだが……
むしろ他の生物がかつて文明を築いていたという方が驚きだった。
あ、いやスザリオ達が居たか。
けど、あれは例外中の例外だから余り当てにはならないか。
興味深い話だが、久しぶりに見るマテラが余りにも美しくて愛おしくてそんな話はどうでも良かった。
早く、続きが気になる。
「とまあ、佑弥が旅立ってから色々あったのだ。私達も随分と長い間君の事を待ってたんだけど、ちょっと限界が来てしまったようでな。これからは暫くの間、この星の成長を離れて見守る事にしたんだ。今の所ルーファウスにも変な動きは無いし、スザリオも、もう先に眠りに付いてしまったからね……」
展開に俺の鼓動が早くなる。
離れて? スザリオが眠りに?
まさか……
続きを……
「だけど心配しないで欲しい。私もスザリオも元気だ。まだまだ決して死んだりなんかしない。だけどね、だけど……もう私達は疲れてしまった。永久とも言える時間の牢獄は私達には長過ぎたんだ。これ以上はいくら私でもきっと精神がおかしくなってしまう。だから、暫くの眠りにつく事にしたんだ……」
俺は馬鹿だ。
たった一ヶ月強。
彼女達が過ごした時間という地獄に比べれば、俺の味わった苦しみなど、どれ程の物だと言うのか……
俺なんかの為に、こんな俺みたいなクズの為に二人は長い間、どれだけの長い時間を待ち続けてくれていたと言うのか。
わかっていた。
最初に会った時もそうだった。
不死に限りなく近い竜族の"真祖種"に弱点があるとするならば、永遠とも呼べる圧倒的な孤独による衰弱だけだと。
みんな孤独に耐えきれず精神を崩壊させてしまうのだと。
「だけど、私の役目はちゃんと果たすよ。ルーファウスが動き出したら、私は"本能"でちゃんと目を覚ますし、必ずルーファウスを殺す。何度でも殺す。絶対に負けたりしない。だから安心してほしい。だけどごめんね。佑弥がもし私達の時代に帰ってきたとしても、私達は眠っていて迎えに行ってあげれないかもしれない…… 」
モニターに映るマテラの顔が険しい物になっていく。
そんな事どうだっていい。
俺なんかがどれだけ二人を探すのを苦労したとしても、俺が二人を待たせてしまった時間の事を考えれば比べようにもならない。
「と言う事ですまないな佑弥。この映像を見た後にまだ私達に会いたいと思ってくれるならば、是非私達を起こしに来て欲しい。場所はこの星の最も"南"だ。私達は【スメーラの聖域】で眠りにつきながら君をずっと待っている。とても過酷な土地だけど、強くなった今の君ならば、簡単に辿り着く事が出来るだろう。じゃあな佑弥。また会える事を楽しみにしているよ…… 」
そこで……動画は終わっていた。
やるべき事が決定する。
会いたいと思ってくれるならば?
会いたいに決まっている。
何が何でも会いに行く。
最も南、と言えば南極。
何が何でも、会いに行く!




