姿見えぬ者
「兄ちゃん?こんな何も無い所に来て何するん?」
俺達は急遽スメーラの跡地にきていた。
記録を辿り割り出した方角と距離は間違いなく"この辺"で合っている。
長い年月で変化した地形の為に、完全に一致する風景は見付からなかったがそう大きく外れてはいない筈なのだ。
「うん。多分この辺りだったと思うんだけど……」
だが、かつて辛うじて残っていた建築物の残骸は長い年月によって完全に風化させられており、俺の能力を使っても見付ける事は出来なかったのだ。
しかし、まだ方法はある。
地底都市は状態を保存する為にマテラの《時間魔法》がかけられていた。
今もまだその魔法が生きているならば、その魔力反応を探る事で正確な位置が分かる筈だ。
この地域一帯の魔力反応を全力で探る。
範囲が広過ぎるし反応も小さい。
だが、この時代に来て何故か急激に魔力が上がった今の俺ならば、絶対に出来ると信じて。
「何処だ!?絶対に見つけ出してみせる!」
「なんや知らんけど兄ちゃん頑張れ!」
深く深く、全ての感覚を神経に張り巡らせる。
その結果、今の位置から100mも離れていない箇所から魔力反応を感じる事が出来た。
「見付けた!あっちだ!」
「見付けた!?何を!?」
全速力で反応の有った場所へと走る。
『魔力反応が残っている』と言う事は都市が機能していると言う事だけでは無い。
その術者であるマテラもまだ生きてるという事なのだ!
「ここだ……間違いない」
反応の一番強い部分に到着したものの、そこには何も無かった。
永い年月で完全に全てが風化してしまっているのだ。
「ラーちゃん。ちょっと砂がいっぱい飛ぶから俺の近くに居てね」
「分かった!」
周辺の砂を《風魔法》で吹き飛ばしていく。
たが『門』は現れる事は無い。
しかし、反応は変わらずこの真下から感じられる。
間違ってはいない筈なのだ。
諦めずにどんどん砂を掘り進んでいく。
「うわぁ!そんな穴掘って何してるん?」
「ちょっと見てて!絶対にここに有る筈なんだ!」
吹き飛ばした砂が大量の砂嵐となって舞い上がっていった。
邪魔だった砂や土を吹き飛ばされた 事による穴は深さ数メートルにも及んだ。
「なんや!?でっかい岩が出てきた!」
そして遂に、その下から見覚えのあるある頑丈そうな岩盤が姿を現したのだ。
見間違えようもない。
全てが風化して砂になってしまった中、唯一魔力を帯びた岩門だけがその変わらぬ姿を見せていた。
「たしか……《ការបើកទ្វា》……」
記録にあるマテラの詠唱を口にしながら、心の中で祈る。
詠唱自体は間違ってはいない。
だが、あの時の俺はまだ魔力と言う物を見る事が出来なかった。
もしかしたら見えなかっただけで"魔法陣"を使っていたのかもしれない。
開門するのには、詠唱と共に"魔法陣"が必要だったのだとしら?
それとも、魔法と共に生体認証なんかが必要なのだとしたら?
だとすれば、折角辿り着いたこの都市に入る事など出来ないのだ。
「うわぁ!なんや!?岩が勝手に開いて行く!」
ホッと胸を撫で下ろす。
俺の杞憂は全て無駄に終わってくれたようだ。
☆。.:*・゜
スメーラの町を歩く。
変わらずここには、動物、虫、ありとあらゆる生物というものが全く存在しない。
「誰も居らんな……ボロボロやし……」
「そうだな……」
久しぶりに訪れた地底都市は朽ちていた。
辛うじて《時間魔法》は生きてはいるようだが、完全な状態とは程遠い状態であった。
かつてあれほど完璧な状態を保っていたスメーラの都市だというのに、今では何百年も経っているかと思うほどに建物や景観は老朽化していたのだ。
もしかすると実際に、何百年、いや何千年という年月が経っていて《時間魔法》の効果を持ってしても耐えきれない程の時間が流れてしまっているのかも……
マテラは……
不安な気持ちが収まらない。
「兄ちゃん…… ここに来た事あったん?」
「うん。昔に一度ね。もしかしたら『大昔』だったのかも知れないけれど……」
マテラの《時間魔法》にも限界が有ったのか……
考えたくも無いが、既に《魔法》は解除されていて、今はその残滓だけが機能しているのか……
考えたくも無い。
だが、この老朽化した都市を見れば見る程、嫌でも不安な気持ちが俺を覆い尽くしていく。
かつて、マテラと歩いた道を歩き続ける。
マテラが自慢しながら歩いた大通りを抜けて。
マテラが立ち止まって何かを思案していた場所を抜けて。
「ほら、あそこに大きな建物があるだろう?」
「うん。デカいな!なんやあれ?」
「あれは昔、もの凄く立派なお城だったんだよ。部屋なんか数え切れないぐらいいっぱいあってさ。ロビーみたいなでっかい部屋でさ。大きな浴場なんかも有って……」
「え……!?え?兄ちゃん……ここ入るん?」
城だった場所の中へ入る。
マテラと一緒に寄り添いながら眠った寝室だった場所を通り抜けて。
「兄ちゃん……大丈夫?」
一人で大きな歌を歌いながら入ったかつて浴場だった場所を後にした。
「見てこの部屋。凄いだろう?昔はもっともっと凄かったんだ……でっかい王様の座る椅子なんか有ってさ……」
「うん….… 兄ちゃん、まだ行くん?」
この地を救った英雄の話を聞いた、あの謁見の間だった廃部屋も後にして。
「なぁ。兄ちゃん……気持ちは分かるけど、もう行こう?」
この様子ではまともに動く事は無いだろう。
だがそれでも、ここまで来たからからには調べる必要がある。
「うん。最後に、あと一箇所だけ……頼む……」
端末はもう見付からなかった。
というよりも、端末がどれだったのか俺でも判断出来ない。
なので直接メインサーバーとなる『情報庫』へと来た。
前回は端末で操作したので、この部屋に入るのは初めてだった。
ここも変わらず老朽化が進んでおり、まともに動く気配は感じられない。
おそらく、すでに電気の代わりとなる"魔力"も通っていないのだろう。
だか、唯一辛うじて原型を留めている巨大な機械の様な物を発見した。
これだけはかなり厳重に《結界》が張られているようだ。
「すっごい機械やな!でも、もう壊れてるんちゃう?」
「かもしれない…… だけど、もしかしたら魔力を供給すれば、まだ動くかもしれない……」
大気に自然と存在する魔力を自動的に取り込んで供給する為の装置は完全に機能を停止している。
だが、サーバーの代わりをしているこの装置自体は魔力切れを起こしているだけで、まだ生きている……のかもしれない……
気合いを入れる。
「《|Магично напојување《魔力供給 起動》》」
スメーラ文明の基本的な部分は記録に有る。
適正な値に調整した魔力を、停止している装置に直接流し込んだ。
『……....』
『ブブブブ……. ブンッ……』
一拍の間を置いて、装置に光が灯った。




