想起の地へ ⑥
コカトリスを無事に倒した俺達は、その後何事も無く山を越えてトラアティス領に入った。
山を降りてすぐ、ラーオススメの肉で食事を取る。
身体を石にされてまで狩りたいとまでは思わないがコカトリス肉は噂通りの美味だった。
結果簡単に倒す事が出来たし、俺には何故か石化攻撃が効かない事も知れたので良しとする。
肉は全て食べてしまうと勿体ないので、大切に保存しておいた。
ここから先は未知のトラアティス領になる。
一見するとバビロディアと大差無いように見えるが……
「せっかく違う国に入ったのに、全く何も変わらへんな……」
「そうだな…… この辺は町から外れているのかもしれない。もう少し南に下がってみるか……」
新たな領内に入ったとはいえ、特に何かが大きく変わった訳でもない。
相変わらずの無人の荒野が続いているだけだった。
まあ、山を降りて直ぐにトラブルに巻き込まれたり見知らぬモンスターとの連戦が続くよりはマシだったが。
「あ~ せっかく山降りたのに、また寒くなってきた」
「それはそうだろう。赤道を超えてどんどん南極に近付いているんだから……」
「ウチの家はいつも寒かったから寒いのは得意なんやねどな……」
「そうなんだ。そうなると、やっぱりさっきの山の近くの方が故郷に近かったのかな?」
「う~ん。多分違うと思う。もっともっと寒かったわ」
「あの山よりも寒いってなると相当南でもないと..…じゃあ、南極か北極に近い場所なのかな?」
大陸の赤道近辺には山脈がひしめいている。
更にこの世界の大陸中央に位置する山脈はかなり高度が高いので、大半が万年雪に覆われておりかなり寒い。
それ以上となると本当の南極まで行かないと無いのではないだろうか……
果たして、そんな寒い所に生物が住めるのだろうか……
因みにこのトラアティス領とは、かつて【ゼジャータ】で黒竜達と戦闘を繰り広げた地域だ。
昔は暑い南国だったのだが、季節的なものなのかなんなのか、今では南国では無くなっていた。
そんな会話を続けながら俺達は南へと飛行を続けていた。
相当の距離を進んだと思われるが、全く人が住む町の様なものは見当たらない。
モンスターの数もバビロディアよりも遥かに少ない。
だったのだが……
「ちょっと気になるモンスターを見付けた。高度を下げるぞ……」
眼下にチラホラと見えるモンスター達を観察して気付いた事がある。
まず、トラスティアは何故かモンスターの数が極端に少ない。
少な過ぎた。
下手をすると普通の動物の数よりも少ないかもしれない。
しかも、バビロディアのモンスターに比べてグロテスクさも少ない。
一言で言えば『グチャグチャ』な見た目で、一体何系統のモンスターなのか全くわからない不気味なバビロディアのモンスターに比べれば、トラスティアのモンスター達は比較的爬虫類系だったり、鳥類系だったりと判断しやすいのだ。
色んな怪物が無理やりごちゃ混ぜにされた感のあるバビロディアのモンスターにくらべ、トラスティアのモンスターは普通の動物種が魔力により突然変異したような感じなのだ。
サイズこそ比べ物にならないが、それらはまるで、散々倒してきたゼジャータの怪物達にとても近く感じたのだ。
『魔力』という概念があるこの世界で地球の進化論の常識はあてにならないが、寒さに比較的弱い筈の爬虫類種が異常に多いのも気になった。
「う~ん。気になるな。バビロディアの周りが特殊だったのかな?ラーちゃんの故郷のモンスター達はどんな感じだったの?」
「うちは生きてるモンスターを見た事無かったわ。人間の国に来て初めて見た」
「え?じゃあ何を食べてたの?動物だけ?」
「そんなん分からへんわ。色んなお肉食べてた。たまに父ちゃんがさっきの鳥みたいに美味しいの採ってきてくれたけど……」
確かに、子供にそんな事がわかる訳も無い。
地球にいた時、妹も子供の時は『赤いお肉』だとか『白いお肉』だとかしか判断していなかった。
「そっか、念の為に一匹狩っておくか……」
俺は、適当に爬虫類種っぽいモンスターを仕留めて保管しておいた。
夕食の時にどんな味がするのか試してみる事にしたのだ。
そして、空から南下を続けていく。
何でもいい。
何か見付かって欲しかった。
苦労してこんな何も無い大陸くんだりまで来たのでは報われない。
そして……
「あっ!兄ちゃんあっち見て!すっごいでっかい綺麗な丸い湖がある!」
「!!……」
俺は絶句する事になる。
上空から見た大地に、綺麗な円の形をした巨大な湖を見付けたのだ。
きっと下から見た時にはわからなかったが、上空から離れて見た時のその異常なまでの真円の形は、この湖が人工的に作られた物としか思えない。
一見するだけだと、それは隕石がぶつかった衝撃で出来た穴に、長い年月をかけて水が溜まって出来た湖の様にも見えた。
そういった理由で出来た湖は、地球でも観測されている。
「すまん。下に降りるぞ……」
だが……
念の為に地面に降りて、しっかりとこの目で過去と記録と目の前の景色を重ねる。
この位置から見える地形、特に山の形を思い出す。
「これ、は……」
同時に、激しい爆音と閃光で五感が消え去る程の恐怖を味わった事を思い出していた。
山脈の形、山脈までの距離、全て一致している。
微妙な誤差こそあれど、それは年月の風化によるものだろう。
「やっぱり……これは、あの時の穴が……」
「兄ちゃん大丈夫?どうしたん?」
マテラが俺にいい所を見せようとして結果的に出来てしまったこの"核爆発の跡"……
この穴は、もっと"西"に合る筈なのだ。
この穴が、あの時の核爆発によって作られた穴に水が溜まって出来た湖なのだとしたら……
とんでもない距離を大陸が回転移動していると言う事になる。
「マジか…… あれから一体何年経っているというんだ……」
絶望する。
これ程の距離を大陸が移動するのに、一体どれ程の年月がかかると言うのか。
一体俺はどれだけの時間を飛び越えて来たと言うのか……
「くっ……!」
頭に浮かんでしまった自分の想像が恐ろしくなる。
二人は大丈夫なのか?
本当に会えるのか?
マテラは無敵で、多分寿命など存在しない超生命体だと言っていた。
だが同時に、永い年月とは『身体よりも精神を壊して狂ってしまいそう』だったとも….…
生きていたとしても俺の事などとっくに忘れてしまっているのでは無いか……?
朽ちる肉体こそ持っていないものの、いつ消えるかもわからない"魂"しか持たぬアイツは……
「ごめん。ラーちゃん。悪いんだけど、ちょっと行きたい所がある。先に兄ちゃんの探しものに…… 付き合ってもらっても良いかな……?」
「勿論や全然ええで!」
普段わがままばかり言うラーが、慰める様に俺に応えた。
もしかしたら、俺は凄い顔をしていたのかもしれない。
ごめん。でもありがとう……
小さな子供に気を使わせてしまった事を、心の中で感謝した。
「ちょっと急ぐよ……」
そうなのだ。
何故俺は最初にあそこを探さなかったのか?
残されたマテラが俺にメッセージを残すとするならば、あの場所しか有り得ない。
まず最初に探すべき筈だった……
俺達以外決して誰にも入られる事の無いあの場所を……




