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滅び ①

 

 暗がりの奥にソレは居た……


 ソレは、初めて見るタイプの怪物だった。

 怪物…… なのだろうか?

 今まで見てきた怪物達とは、雰囲気、威圧感、その圧倒的な存在感が異なり過ぎている。

 ソレは大きな翼が六枚も生えており、大きな口にはまるで剣の様な鋭利な牙がビッシリと生えている。

 尾は太くて長く、まるで巨大な大蛇の様。

 脚の他に太くて逞しい腕が四本も生えているし、なんだが神獣みたいな不思議な色の"角"まで生えている。

 体皮はまるで超高度な金属板の様な銀色の鱗で覆われていて、薄暗いこの部屋でも鈍く発光しているのがわかった。

 広間に入った瞬間明るく感じたのは、この光る鱗の所為のようだ。


 コイツは……ヤバ過ぎる……

 

 今までに戦った怪物達が可愛く見えた。

 その怪物は、まるで"悪魔"の様な凶悪な禍々しさと、"神"の様な神聖な神々しさを併せ持っており、今まで出会ったどんな怪物とも比較にならないほど不思議な雰囲気を漂わせているのだ。

 ソレは、俺が初めて遭遇する事になった見た事も無い生物だったが、俺は既にこの生物が何なのかのを知っていた。

 俺だけではない。

 恐らく世界中の人間が知っている。


 間違いない。こいつは『竜』だ……


 漫画やアニメなど、創作物語では当たり前の様に出てくる生物ではあるが、言うまでもなく伝説や架空の生物であり、地球に実在した可能性は限りなく低い。

 この世界が普通の世界では無い事は、もう嫌と言う程に味わっている。

 御伽噺にしか出て来ないような生物が居たとしても、今更驚いたりはしない。

 だが、訳の分からない獣や不気味な怪物の類は散々見て来たものの、これ程の生き物を見るのは初めての事だった。

 明らかに、他の怪物とは"存在の次元"が違う生命体である事が伝わってくる。


「……」


 緊張で動けない。

 身体が動く事を拒否しているかの様。

 竜はそんな俺の事など歯牙にもかけず、台座の上でただジッと鎮座したまま動かず、今も俺の様子を観察し続けていた。

 気の所為か、驚いているみたいな表情をしている様な気もするが、初めて見る『竜』の表情など読み取れる訳も無い。


 どうする?

 変に刺激してしまう前に退散するべきか?

 どうやら問答無用で襲いかかってくる肉食タイプでは無いようだが、もし機嫌でも損ねて襲われたとしたら、他の怪物など比較にならない程の危険な相手なのは間違いない。


 ポタリ……


 汗が滴り落ちていた。

 気付けば俺の身体は汗でビッショりだった。

 襲われている訳でも無いのに、緊張で脂汗が止まらない。

 何の覚悟も持たずに軽い気持ちでこの洞窟に入った事を後悔した。

 目を合わしているだけで、精神がゴリゴリとすり減っていくようだ。


「はぁはぁ……」


 呼吸が苦しい。

 この『竜』には俺の未完成な『力』など、間違いなく通用しないだろう。

 襲われた場合、『逃げる』だけでも出来るかどうか怪しかった。


「はぁはぁ……」

 

 ただ、息をするだけでさえ辛い。

 これ以上、この緊張には耐えられない。

 何とか身体を動かして、今の内にこの場から逃げよう。

 俺は竜を刺激しない様に、慎重に慎重を重ねて、ゆっくりと少しづつこの場から立ち去る事にした……


『;%+%:#+(+68982=6(,uo&#;??』


「!!……」


 突然、竜が不思議な鳴き声を出した。

 それだけで、極限の緊張状態であった俺の心臓が止まりそうになる。

 心臓が止まった程度で俺は死ぬ事は無いと思うが……


『jdbgvsoxhdksiy-#!!?』


「なんだ!?」

 

 座っていた竜が起き上がり、ゆっくりと近づいて来る。

 襲いかかってくるのか?

 俺は咄嗟に後ろへと飛び退いた。

 いつでも逃げられる様に身構えた。


 しかし、竜は不思議な鳴き声を出し続けている。

 恐怖の中でも、予想と違う"鳴き声"だった事に少し驚いた。

 この恐ろしい見た目から、もっと禍々しくて凶悪な鳴き声だと思っていたのだ。


 全てが規格外で予想外の竜の行動が読めない。

 どうすれば……


 だが、襲いかかってくる様子では無い。ように見える。

 もしかして、俺に何かを伝えようとしている……のか?


『カタユマ…ナマラタンナタ…パナマナデ……』


「な、なんだ!?俺は美味く無いぞ!」


 近付いてくる竜を必死で牽制する。

 何やら言葉にも聞こえた気もするのだが、焦っている俺にそこまで冷静に考える余裕は無かった。

 流石にこれ以上、近寄らせるのは危険性の方が高いと判断する。

 そして、自分の体重を《減重》した。

 直ぐに逃げられるように、体勢を整える。


『コワガラ、ナクテモイイ』


「!?」


 俺の頭が、真っ白になった。

 今のは何だ?

 まさか、今のは言葉なのか?

 まさか、竜が言葉……それも、日本語を話したのか?

 いや、いくら何でもそんな事有り得ない。

 気のせいだろう。


 だが、やはり気になってしまう。

 好奇心に抗えない。

 恐れながらも言葉を返していた。


「今、怖がらないて良い。って言った?」


 竜が笑った。ような気がした。

 物凄く怖い顔で、恐ろしい牙をムキっと見せて。

 一見すると怒っている様にも見えるが、何となく『笑った』ような気がしたのだ。


『通ジタ…カ……?』


 有り得なくなかった。

 竜は間違いなく言葉を発している。

 完全な人間の言葉で語りかけて来たのだ。

 しかも、日本語で……


「ええ!? 喋って…る……??」


 余りの衝撃に頭が働かない。

 自分以外の言葉を聞いたのは、一体いつぶりの事か。

 それよりもこんな巨大な生物が人語を話す事など想定外過ぎたのだ。

 人間などよりも遥かに深い"知性"を持つとされる伝説上の"生命体"の竜であれば、確かに言葉を解する可能性は充分に考えられた。

 だが、極限の緊張状態にあった俺に、そこまでの想像は出来なかったのだ。


 それに俺自身が"言葉"と言う物を忘れてしまいそうな程の長い時間、言葉と言う物を使っていなかったのだ。


『良かった。ナントカ通じてイルようだなナ』


 竜は最初に比べるとかなり流暢な日本語で話しかけてきた。

 凶悪そうな見た目と裏腹に、口調はとても理性的で、何故か今度は涙を流していた。

        

「貴方は……俺の言葉が…解るのか…!?」


 久しぶりで自分の"声帯"の動きがぎこち無かった。

 そんな事よりも、興奮のあまりに目の前に居るのが恐ろしい巨竜だと言う事を忘れて、気付けば竜に随分と近寄っていた。

 その時には既に、さっきまで抱いていた恐怖心など掻き消えていたのだ。


『ああ、解るぞ!』


 竜は俺の言葉にハッキリと応えてくれた。

 来日直後の外国人のような、一方通行の言葉などでは無い。

 完全に意味を理解して発している。


 だけど、なんで日本語を話せるんだ??


 俺はまずその事を疑問を感じていたのだかが、すぐにここが『異世界(なんでもあり)』だという事を思い出した。

 何も良い事など無かった辛いだけの『異世界』……

 やっと良い意味で、理不尽で都合の良い展開になってきたのだ。


 正確には、この竜が話している言語は"日本語"では無かったのだが、竜の話した言語と"日本語"は、とある理由で非常に酷似していただけだっだ。

 勿論、そんな事を今の俺には分かる訳が無かったし、分かった所で意思の疎通が出来る存在に出会えたと言う点ではどうでもいい事だったのだ。



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