蘇る記憶【難攻不落の王子】
乙女ゲーム『王女さまと五神の伝説』をプレイすること数時間が経過していた。
朝日も、今か今かと地平線から昇ってこようとしている。
眩しくなる前にと、カーテンを閉めた。
「きゃーーーー、もう無理だ!!完全降伏!白旗挙げる!みぃ子手伝ってよぉ」
私は、両手をバンザイして降伏の姿勢を取る。
「なにー? どこでつまずいてるのぉ?」
と、みぃ子は、ソファに寝転がって他のゲームをぽちぽちいじっている。
「いやいや、この乙女ゲー、ちょっと攻略の難易度高すぎない?!!」
「んー?ゆとり、まだ“白虎王子ルート”やってるんでしょ?王子の攻略、そんなに難しいかなぁ」
ポッキーをぽりぽり食べながら、半身を起こし、私のゲーム画面を見る。
闇落ちして“悪役王”へと進化してしまった白虎王子の姿と、“ゲームオーバー”の文字が書かれている。
「いや、何回やっても、白虎王子、途中で謀反を起こすんですけど!
…で、ヒロインは敵国の王女の設定だからさ、ふっつうに殺されちゃう。マジで、あっさり殺られてゲームオーバーだよ」
「あー、白虎王子はね、早く好感度上げないと、めっちゃ謀反起こすよ。ひたすら謀反イベント起きる」
「何それー!これ本当に乙女ゲーム? 萌えキュンどころか、冷や冷やするんですけど。なんでこんなゲーム人気あるわけ?」
と、ゲーム機をベットに放り投げ、布団の上に飛び込乗った。
両脚をバタバタさせ、はああああ、もう朝になっちゃうじゃん、と悶えた。
「だからぁ、そう簡単に攻略出来ないところが、このゲームが爆発的ヒットした要因なんじゃない」
みぃ子は得意げに言い放ち、自分のゲーム機で、『王女さまと五神の伝説』を起動した。
すでに四人の正規攻略対象のイケメン達も、五人目の裏攻略対象である“ティエン”も攻略済みだそうだ。
私は、次の瞬間、自分の目を疑った。瞬きをしたり、目をこすったりしつつ、
「えぇ、このキャラ本当に“白虎王子”?! 別人みたい」
みぃ子のゲーム画面に映る白虎王子を、凝視した。私のプレイしている白虎王子とはまるで別人だ。
明るく、満面の笑みで笑っている上、ヒロインに向けて優しく甘い言葉を投げている。
対して、私がプレイした場合の白虎王子は、何度やってもサイコパスのままだ。
白虎王子は常に得体の知れない性格で、序盤から表情もどこか冷たく、終盤にかけて益々サイコパス感が増す。
甘い美少年フェイスに釣られて白虎王子ルートを選んだのだが、正直もうサイコパス過ぎて怖いだけのキャラだ。全然好きじゃない。
「ちょっと、なんで?! みぃ子の白虎王子はこんな優しそうなの?」
「ふっふ、知りたい〜?」
と、みぃ子は、眩しく太陽のような笑みをこぼす王子の映る画面を、見せつけてくる。
そう、私が見たいのはこういう、白虎王子だ。
首をぶんぶん縦に振り、教えてくださいよぉ、と乞う。
よろしい、とみぃ子は咳払いをして、姿勢を正した。
「まずね、この乙女ゲームは単にキャラに媚びて好感度上げとけばいい単純な仕様じゃないのよねぇ。多分、ゆとりはそこを間違っていると思う」
「えええ、何それー。じゃあどうすればいいっていうの?!」
みぃ子は、ぽんぽんと優しく私の胸を叩き、ハートなんです、と言う。
「このゲームの醍醐味はここなのよぉ、生身の人間と同じ」
「ふえー、全然分かんない。ハート?」
「だからねぇ、ゆとりは多分、王子のトラウマをしっかり解消して、心からの信頼を得ていないでしょ?」
「いや、トラウマ解消出来るようなイベント起きなかったよ。好感度上げはやってたけど」
そう、通常乙女ゲームというのは、好感度が一定の基準に達した段階でイベントが起きる。
そこで初めてキャラクターの過去のトラウマと向き合ったり、解消したりという方向にストーリーが展開されるはずだ。
そもそも、白虎王子の場合、得体の知れない奴のまま謀反を起こされ、あっという間に王女であるヒロインが殺されて、ゲームオーバーしてしまう。
「あー、このゲームね【戦争に行く】を選択して一緒に戦わないとなかなか好感度上がらないよぉ」
「え、戦争モードあるのは知ってたけど、おまけかと思ってやってなかったー」
「原因はそこだね、どんどん【戦争に行く】を選択したほうがいいねぇ。ヒロインがお飾り王女のままだと、結局好感度上がらず、謀反イベント起きて殺されるから」
「分かった! じゃあ戦争行ってきます!」
と、意気込んで再びゲームを起動した。