7話 不思議な彼女たち
太陽が高さのピークを迎えた頃、凛とユーリアが畑仕事から戻ってきた。
出迎えたのはシノだ。
「凛、ユーリア。お疲れだったわね」
「いい運動になったぜ。ユーリアは大変だったな。よく頑張ってた」
「これくらい問題なくてよ。わたくしが働くと決めたことだから」
ユーリアはそういっているが、その顔にはかなりの疲労が見えていた。
「あんまり無理するんじゃねえぞ」
「そうよ、ユーリア」とシノ。「生まれて初めて働いたのでしょ? あしたもあることだし、きょうはこれくらいにしておいたら?」
ユーリアは肩で呼吸しながら、無言で頭をふった。
昼食後も仕事を続けるつもりのようだ。
「なあ、ユーリア。もういいって。お前はよくやった。オレが認めてやる。だから休め。じゃないとシノのいうとおり、あした体が動かなくなるぞ」
「でも、おカネを稼がないとならないわ。ご飯を食べられなくなってしまうから」
小さなシノが背伸びし、自分より背の高いユーリアの頭を撫でる。
「午後はあなたに代わって、あたしが仕事をするわ。だから休んでいなさい」
「そんなの悪いわ」
すると無表情だった小さな顔が、若干の柔和さを帯びていくのだった。
「あたしはあなたのことを友人だと認めてやる、といっているつもりなのよ。それともイヤなのかしら?」
「イヤだなんて……。ありがとう、シノ」
午後はユーリアに代わって、シノが畑仕事にでるようだ。
しかしムアはここで首をひねった――。
凛とユーリアが仕事を得たのは、『食う』ためにカネが要るからだ。しかし奇妙なことに、シノが『食う』分のカネについては、会話の中でいっさい触れられていない。午後からユーリアと交代してシノが働くにしても、受けとるカネは三人分ではなく、合計二人分にしかならないはずだ。
どうしてシノが『食う』分をカウントしないのだろう。そういえば今朝、彼女はパンを口にしていなかったような……。
昼食はニーロの提案により、皆で屋台の簡易食堂へいった。
だがシノだけはついてこなかった。彼女は食物の摂取が不要なのか? いいや、生きている以上、そんなはずはない……。不思議な女の子だ。
不思議な者ならばもう一人いた。リチナだ。その簡易食堂で多くのものを注文したくせに、肉や卵ばかりを食い、パンや野菜は残してしまっている。
「リチナは蛋白質しか摂取しないのか?」
ムアの問いに彼女が答える。
「骨とかも好物だよぉー」
昼食後、凛とシノはユーリアを残して仕事に出かけた。
ユーリアはまるで孤独を楽しむかのように、ずっと一人きりで他者から距離を置いていた。
ムアはそんな彼女が少し気になっていた。
話しかけたら悪いだろうか……とも思ったが、笑顔でさりげなく近づいてみた。
ユーリアはムアの気配に気づいたらしく、キュートな顔をあげた。
だが小さな肩は震えていた。
ムアは軽いショックを受けた――。
なんだろう、その怯えるような瞳は。わたしが怖いというのか?
見た目で怯えられてしまうなんて、オンナとして情けなくなってくる。
確かに鎧を装着しているし、ロングソードも目立っている。
だからといって、あんまりではないか。
「あっ、あの……なんでしょうか」とユーリア。
まるで命乞いでもするような表情だ。
ああ、何故だ。こちらとしては全力で笑顔を作っているつもりなのに。
「午前の仕事はどうだった?」
別に聞きたかったわけではない。他に話題が見つからなかったのだ。
「はいっ。は、はた……畑仕事と伺っておりましたが、実際には作物に触れたのみではございません。ええと……庭で用具庫の清掃や、道具の並べ直しなどをいたしました。器具の運搬もございましたが、力仕事はすべて凛がやってくれました。もちろん収穫も体験でき、いろいろと、べ、べ……勉強にもなりました」
ユーリアの顔つきは緊張のせいか、コチコチに固くなっている。
これ以上、しゃべらせるのが心苦しくなるほどだった。
「そうか、そうか。ご苦労だったな」
二人の会話は終了。
夕方、凛とシノが戻ってきた。
もうもうとしていたユーリアの表情は、たちまち晴れやかになった。
仕事を終えてきた凛は、見るからに疲労困憊といった感じだ。
それなのにシノは汗一滴としてかいたようすがない。
おいおい、まさかサボっていたのか?




