4話 ふたたびぬいぐるみ
「教えてくれ、シノ。ここはどこなんだ?」
小さな女の子は首を横にふった。
「わからない。ただ、あたしたちのいた世界ではなさそう」
「それってまさか、異世界ってやつか」
「異世界? 何それは? とにかくマズいことになったわ。ここからの帰り方がわからない」
「どうなっちゃうんだろう、オレたち」
「さあ」
ドアの軋る音がした。開いたドアの向こうに、ユーリアが立っている。ずいぶんと機嫌が良さそうだ。
「お待たせ」
別に待ってはいなかったが。
「おい、説明してくれ。これっていったいなんなんだ」
ユーリアがじろりと睨む。
「おい、とは失礼よ。どちらが主人なのか、認識できていないのかしら?」
「なんでお前がオレの主人なんだよ」
彼女は怪獣のぬいぐるみを抱きあげた。
「あなたはわたくしが呼びだした使い魔だもん。当然じゃない」
「お前が勝手に呼びだしただけだろ」
「口答えする使い魔なんて、前代未聞だわ!」
前代未聞だろうがなんだろうが、こっちにゃ関係ない。
何が使い魔だ。笑わせやがって。
「シノ、とりあえずこんなところから、さっさとでていこうぜ」
しかし応答したのはユーリアだった。
「何をいってるの? あなた、山神なのに頭悪いのね。わたし、そんな名前じゃないわ。もう忘れちゃったの?」
別にユーリアにいったんじゃない。勘違いするな。
小さな女の子を指差す。
「このシノにいったんだ」
「それ、シノじゃなくてベッドという家具だけど」
「はあ? ベッドに指を向けたんじゃない。その前に立ってる女の子だ」
ユーリアが首をかしげている。
もしかして彼女はシノのことが見えていない?
隣でシノが口角を僅かばかり吊りあげた。
「凛以外の人間に、あたしの姿は見えないわ」
「なるほど、そうみたいだな」
ユーリアが眉をひそめる。
「独り言って気持ち悪い」
「気持ち悪くて結構。だがな、お前を主人などと認めるつもりはない」
「あなたの意思は関係ないことなの。だってもう使い魔なんだから。さあ、こっちへいらっしゃい」
オレはユーリアを無視した。マントのように毛布で身を包み、部屋からでていこうとする。
ドアノブに手をかけた。
「止まって」とユーリアの声。これまでより強い語調だった。
誰が止まるかよ。
あれ? 体がまた動かなくなった……。
何故だ。どうしたっていうんだ。
ユーリアが歩いて、正面に回ってきた。
動けないオレの肩に手をかけ、ぴょんと高くジャンプ。額にキスする。
オレの体を巻いていた毛布が、はたりと床に落ちた。
人間に戻ったはずのこの体が、怪獣のぬいぐるみに吸い込まれていく。
また怪獣のぬいぐるみに戻ってしまったのか……。
どうやらオレは額のキスによって、姿が怪獣と化したり、人間に戻ったりするようだ。
ぬいぐるみになった体を、ユーリアが抱きしめる。
「どんなに足掻いたって駄目。あなたは諦めるしかないわ。それが運命。わたくしは主人として、あなたを絶対服従させる命令ができるの。いまさっき『止まって』と命じたでしょ。だからあなたは動けなくなったのよ」
なんだよ、そんなことができるのか。
ああ、どうしてオレって、ガキの頃から身の周りで、不思議なことばかり起きるんだよ。