表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/82

39話 マンゴープリン


 すっかり夜になった。

 毎度のごとく厨房の中で晩飯を食べる。


 メレナーラの作った賄い料理はたいへん美味だ。

 しかもきょうはそれだけではなかった。


 ちょうど食べ終わろうとしていたとき、メレナーラが小皿を持ってやってきた。

 それを目の前に置く。追加のもう一品か。


「マンゴープリンです。余りものなので、どうぞ」

「わあ、デザートか! これは超絶美味しそうだ」


 メレナーラの話によれば、屋敷の主人たちは賓客との会食中だが、予定よりも長引いているそうだ。そのため食事の後片付けを終えるには、夜遅くまでかかる見込みなのだという。

 どうやらきょうの仕事が終わったら、部屋まで送ってもらいたいらしい。なんたってここは、深夜になると恐ろしい魔獣が徘徊する屋敷なのだ。


 すなわち小皿のマンゴープリンは、そのための報酬の前払いだと考えるべきだろう。


「ちなみにコック長はどうした?」

「料理ができあがりましたので、もう自分の部屋に戻りました。あとはわたしの仕事ですから」


 メレナーラを一人残してか。冷たいな。


「そっか。だったら任せてくれ。メレナーラの仕事が終わるまで、ここで待つことにする。んで、部屋まで送ってってやる」

「ありがとうございます。山神がいっしょならば心強いです」


 マンゴープリンにスプーンを近づけようとしたところで、シノが姿を現した。黙ってオレの隣に座る。


「きゃっ」とメレナーラが声をあげる。彼女の目は明らかにシノを見ていた。


「メレナーラにも見えるのか? いまオレの隣に座った者の姿が」


 メレナーラは静かに首肯した。

 シノは手を伸ばし、オレのスプーンを奪った。マンゴープリンを一口分ほどすくう。


「いったはずよ。あの古城を訪れたときに、本来の力がだいぶ戻ったって。あたしの姿は誰にでも認識できるようになったわ。もちろんあたしが姿を消そうと念じれば、凛だろうと誰だろうと見ることはできなくなるけど」


 シノはマンゴープリンの乗ったスプーンを、小さな口の中に運んだ。空のスプーンを返すつもりらしく、こっちに手を伸ばしてきた。


 小皿ごとシノの前にずらしてやる。


「ぜんぶシノが食べていいぞ。オレの分はいい」

「あら? あたしとの間接キスを所望するものだと思ったわ」


 シノが指先でスプーンを揺らす。


「馬鹿なこというな。それにしても珍しいな。シノが食べ物を欲しがるなんて」

「凛とは違って空腹になることはないわ。でも、これ、とても美味しそうだったから。凛が食べないのなら、あたしが全部もらうわ」


 彼女はマンゴープリンを頬ばり、至福の笑みを浮かべている。

 オレの耳元で囁くのはメレナーラだ。


「その子、どちら様ですか」

「山神だ」


 彼女は目を丸くした。


「まあ、凛と同じ山神……って、そういうことを訊いたのではありません。凛との関係を尋ねたのです。もしかして恋人? うーん、年齢的にはちょっと幼すぎるかしら」


 ここでシノのスプーンが止まった。


「ちなみにあたし、凛より年上だけど」


 シノのスプーンがふたたびマンゴープリンをすくう。

 小皿のマンゴープリンはすでに三分の一に減っていた。


「それは失礼しました。山神というのは、外見で年齢を判断できないものですね」

「この食べ物、もっとないのかしら」


 そんなに気に入ったのか。

 だけど食い意地が張りすぎだぞ。


「すみません。それが最後です」

「だったら仕方ないわね。そうそう、凛との関係のことだけど、とりあえず妹ということで」


 メレナーラが首をかしげる。


「えーと……妹さんですか? あなたは凛よりも年上だと、さっきご自身でおっしゃったのでは?」

「細かいことはどうでもいいじゃない。妹というのは凛の方。これならば問題ないでしょ」


 まったくいい加減な。


「おい、シノ。嘘はつくな。オレが妹のはずはないだろ。男だし」


「そうね。凛は男の子だったわね。ならばあたしは、妹は妹でも、義理の妹ってことで。ああ、思いだすわ。昔ね、桃園で義兄妹の契りを交わしたの。我ら二人うまれた時は違えども、うんたらこーたらってね。これならば年齢問題は解決でしょ」


 三国志演義のつもりかよ。つくづくいい加減だな。

 確かに劉備の義弟となった関羽が、実は年上だったって説があるらしいけどさ。


「メレナーラ。オレが話そう。シノとは良き友人関係であり、オレからしてみれば幼馴染でもある。まあ、そんなところだ」


 憑依関係のことには触れなかった。互いに山神同士ということになっているし、憑依の説明も難しかったから。


「ごちそうさま。美味しかったわ」


 シノが布巾で口もとを拭う。


 厨房に誰かが入ってきた。

 パトルモンだ。食器の載ったワゴンを押している。


「会食は終わりました」

「お疲れ様です」


 メレナーラがワゴンを受けとる。

 パトルモンは踵を返し、厨房からでていった。


 メレナーラの食器洗いの仕事が始まった。


「手伝おうか?」と彼女に声をかけると「まあ、優しいのね」とシノが冷やかす。


 いちいちうるさいぞ。


「これはわたしの仕事です。仕事を奪わないでください」


 メレナーラがそういうのならば仕方がない。

 オレはシノの隣で、ただ黙って座り続けた。


「あら」


 溜息混じりの声がした。


「どうした、メレナーラ?」

「これはユーリアお嬢様の小皿のはず……」

「小皿がどうした」

「マンゴープリンは手をつけられていませんでした。ユーリアお嬢様の好物でしたのに」


 それほど嫌な会食だったってことか。

 いったいどんな客だったのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ