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17話 伝統の競魔稽古

 ランチタイム後の美術室は、少々賑やかだった。

 美術の担当教師がやってくるまで、まだ時間があるそうだ。


 美術室に誰かが入ってきた。教師かと思ったが、制服を着ていた。ユーリアの同級生のようだ。

 何やら得意げな顔で、室内の生徒たちを見回している。


「皆様よろしいかしら。ご朗報ですわ」


 その同級生は注目を浴びた。コホンと小さく咳払いする。 


「先ほど承認がおりました」

「なんの承認ですこと?」


 問うたのは金髪たて巻きロールのシャナレミアだ。


「もちろん競魔稽古のことですわ。お姉様の使い魔に、ユーリア様の使い魔が勝負を挑みますのよ。あす魔導館にてです」


 黄色い歓声があがる。


 ちょっと待て。


 ユーリアの使い魔ってオレのことだよな? んで、他の使い魔に挑むってなんだよ。誰もそんな話、持ちかけてこなかったぞ。ユーリアにも相談なんてしてないだろ。勝手に決めんな!


 だいたい競魔稽古ってなんだ? なんの勝負をさせるつもりだ。五十メートル走みたいに、疲れる競技は絶対にイヤだぞ。もしやるんだったら、じゃんけん辺りで勘弁してほしいな。


「応援しておりますわ、ユーリア様」


 大勢の生徒たちがユーリアを囲む。

 そこへシャナレミアが割って入ってきた。


「ユーリア様にはたいへん期待しておりますのよ。もちろん本来『競魔稽古』は決闘とはまったくの別物でして、互いの魔法魔術の技量を高めるための競技実習に過ぎません。ですが当クラスのため、お姉様の使い魔には必ず勝利していただきたく存じますわ」


 嫌な予感しかしてこない。『本来』っていうことは、ようするに決闘みたいに危険なことをさせるつもりなのか。そんなのお断りだ。


 周囲の生徒から拍手が湧いた。

 しかしユーリアはオレをしっかり抱えたまま、走って教室をとびたしていった。


 おい、大丈夫か。次の授業、そろそろ始まるんだろ?


 彼女は校舎裏で立ち止まった。

 ぬいぐるみのオレを正面に向かせ、額に唇をつける。

 オレはぬいぐるみから顕現した。


 ユーリアが俯いたまま詫びる。


「ごめんなさい、ガオちゃん」

「ガオじゃねえ、凛だ」


「ご、ごめんなさい、凛を巻き込んじゃって」

「ユーリアが謝ることじゃないさ。あいつらが勝手に決めてきたことだからな。ちなみに競魔稽古って、具体的に何すりゃいいんだ?」


 しばらく沈黙したあと、彼女はこう説明した。


「競魔稽古は魔法と魔法のぶつかり合い。その多くは操作魔法の対決。人形同士を操って戦わせるの。でもガオちゃ……凛たちは使い魔だから、使い魔同士の取っ組み合いになると思う。でも心配しないで。あした学校、休むから」


 やはり格闘対決の意味だったか。なんとなく想像していたとおりだ。


 でも構うものか。

 オレにはシノがいるんだし。


「学校休む必要なんてねえよ。もし休んだら『ユーリアが逃げた』なんて周りからいわれるんだろ? あしたは任せておけって」

「凛……」

「そんな顔するな。大丈夫だ」


 そういえばさっきからシノがいない。どこへいった?

 シノがいてくれないと非常に困るんだが。まあ、魔競稽古はきょうじゃないから問題ないか。


 美術室へと戻った。

 すでに教師がおり、授業は始まっていた。


「も、申しわけございません」


 ユーリアが謝りながら入室する。

 髭の生えた教師が、こっちをじろりと睨んだ。


「あー、オレ、ユーリアの使い魔ッス。授業の邪魔はしないのでお構いなく」


 教師は何もいわなかった。使い魔が美術室にいることを黙認してくれるのだろう。ならばこのまま授業を見学させてもらおうか。


 生徒たちは絵を描いていた。二人組で向かい合わせに座っており、それぞれが互いの絵の被写体になっている。


 室内を歩き回ってみた。


 みんなの絵がかなり仕上がっているところを見ると、きょうから描き始めたのではなく、もっと前の授業から描き続けてきたのだと思われる。


 雫型イヤリングの生徒が目に入った。コイツが渡り廊下で上級生に、わざわざ喧嘩を売るような真似をしたんだっけ。ちなみに絵はあまり巧いとはいえない。

 彼女がふり返ってオレを見あげる。


「あした、楽しみにしてますわ」

「それって魔競稽古の話か。だったら教えてくれ。相手の使い魔ってどんなヤツなんだ? ちゃんと人間の姿をしているのか?」

「残念ですが、存じませんの。未公表とのことですので」


 未公表ってなんだよ。

 まあ、どんな奴が相手だろうと、山神のシノならきっと大丈夫だ。


 ほかの生徒の絵も見てみる。


 金髪たて巻きロールのシャナレミアが、銀髪ストレートのビウメラと描きあっている。こいつら、ホント仲いいな。どちらも絵は巧かった。


 この二人は別として、オレが絵をのぞきに近づくと、筆の止まってしまう生徒が多かった。他人に見られると描きにくいのだろう。邪魔しちゃ悪いので、ユーリアのもとに戻る。


 あのさ、ユーリア……。

 どうしてお前だけ花瓶の花を描いているんだ?


 ああ、わかった。そういうことか。

 生徒の人数は偶数ではなく奇数だったんだ。奇数って辛すぎる。


 しかもその絵、実物とは全然違うじゃん。

 もう下手とかのレベルとは別次元の問題だぞ?


 そのことについては、オレが指摘する前に、彼女が自ら口を開いた。


「枯れちゃったの。だから新しいお花に……」


 なるほど。そりゃ何日もかけて描いていれば枯れるわな。

 つくづく不憫だ。


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