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15話 お披露目

「このクラスから現役召喚士が誕生しました。これは皆さんにとりましても大変名誉なことです。さあ、拍手しましょう」


 生徒たちから拍手が起きた。しかし彼女たちの意思というよりも、無理やりさせられたようなものだ。ユーリアは一礼し、椅子に座り直した。


 女は満足そうに教壇へ戻り、生徒たちにこう話す。


「本日の魔法科の授業は、場所を魔導館に移動しまして、ユーリア・ウィルハイザさんの使い魔のお披露目といたしましょう」


 ここで一人の生徒が挙手した。


「はい、ミチニーカ先生。わたくしもユーリア様のご成功を心よりお喜びしております。ですが、あまり目立つのを好まないユーリア様のお人柄を推し量りますと、使い魔のお披露目というのはご迷惑なだけと存じますが」


 どの生徒も黙って首肯した。

 なんとなくわかった。みんな面倒くさいことがイヤなのだ。


 女はユーリアに視線を送った。


「ユーリア・ウィルハイザさん、お披露目というのはお辛いですか」

「はい、少々……」


 まあ、それも本心だろうけど、ほかの生徒に気を使ったのでは?


「残念ですが、無理にとはいきません。お披露目会はナシとしますが、代わりに使い魔を召喚したときのことを、皆さんにお話ししてくださいますか」

「は、はい……。ミチニーカ先生」


 ユーリアは小声で返事をすると、オレを抱えながらふたたび立ちあがった。

 震えつつもボソボソと話し始める。


「その……。しょ、召喚に成功したのはきのうです。大魔法使いのカマック様の館へいって参りました。召喚に必要なヨリシロは、思いを深めたものほど向いているはずだと愚考しまして、そ、それで……今回は魔法陣の中央に、このガオ……ぬいぐるみを置きました。それから呪言の代わりに『歌』で、つ、使い魔となる山神を呼び寄せました」


 女が目を見開く。


「まあ、なんと。呪言の代わりに歌ったのですか?」

「はい、ミチニーカ先生。歌いました。そうした方が言葉に魂が乗りやすくなると存じましたので」


 このあたりから震えは止まったようだ。声も活き活きとしてきた。


「……こうしてぬいぐるみに山神が宿りました。そのヨリシロから山神を顕現させるには、おでこに口づけします」


「「まあ!」」生徒たちがいっせいに声をあげた。


 それまで話に耳を傾けているような生徒は少なかったが、途端に全員の視線がユーリアへ集まった。


「わたくしはヨリシロであるぬいぐるみをガオちゃんと呼んでいますが、宿った山神には凛という名前があるそうです」


 一人の生徒が質問する。


「く……口づけで山神様を顕現させたときのごようすを、詳しくお話していただけませんこと?」


「そ、それは……」オレを掴む腕の力がぎゅっと強まった。「……口づけののち、ガオちゃんの体の中から……わ、若い殿方が一糸まとわぬ姿で、目の前に立ちはだかりました」


 いまは素っ裸じゃなく、シノからもらった袴を身につけているけどな。


「「「ひやあああああああああああああああ」」」


 耳をつんざくほどの声が重なり、教室いっぱいに響いた。

 また生徒の一人が尋ねる。


「若い殿方のご容姿はいかがでしたか」

「ええと……。いっ、一応そこそこ整っているとは存じますけど」


 室内がざわめく。

 また別の生徒が手をあげた。頬をピンク色に染めている。


「……わたくし、山神様を拝見したことがございません。一度、お目にかかりとうございます」


 多くの生徒たちから、次々と手があがっていった。


「わたくしもです」

「同じくわたくしもです」

「わたくしも拝見しとうございます」


 おいおい。目立つのが嫌いなユーリアの気持ちを推し量って、お披露目はナシだという話じゃなかったのか? てか、オレ人気者っぽいぞ。


 ミチニーナという女が、あらためてユーリアに尋ねる。


「いかがでしょうか、ユーリア・ウィルハイザさん。皆さんがこれほど使い魔のお披露目を望まれているのです」

「少しだけでしたら……か、構いません」


 たちまち教室中が歓喜の声に埋まった。

 オレ、見世物にされるのか。


 さっそく教室の移動となった。

 ミチニーナが生徒たちを魔導館へ連れていく。


 教室棟からの渡り廊下は長かった。

 着いたところは八角柱の広い建物の中だ。天井がとても高い。


「さあ、ユーリア・ウィルハイザさん。お願いします」

「はい、ミチニーカ先生」


 ユーリアはぬいぐるみのオレを抱え、建物の中央に立った。

 クラスメイトたちにぐるりと囲まれている。

 彼女たちの見守る中、ユーリアの唇が近づいてきた。


 柔らかいものが額に当たった。


 ぬいぐるみからオレが抜けでていく。

 ユーリアとぬいぐるみが小さくなった。

 というよりオレが元の大きさに戻ったのだ。


 悲鳴にも似た黄色い声が魔導館を包む――。

 しかしそのトーンは急速にさがった。


「着衣されていますわ」

「お話が違います」

「どういうことでしょう」


 そんな声が飛び交った。

 もちろん袴を着ている。しらけムードだが、オレは何も悪くねえぞ。


「ユーリア・ウィルハイザさん。ご紹介を」

「はい、ミチニーカ先生。皆様、これがわたしの使い魔である山神の凛です」


 落胆する声の中、生徒の一人が手もあげずに尋ねる。


「山神様に手でお触れしましてもよろしいでしょうか、ユーリア様?」


 おい、許可を求める相手が違うだろ。ユーリアじゃなくてオレに訊け。


「は、はい。少しだけでしたら」


 ユーリアが許可してしまった。

 すると他のクラスメイトにも感染するのだった。


「わたくしも」「ユーリア様、わたくしも」「ほんの少しだけ」


 彼女たちは手を伸ばしてきた。

 触られる。掴まれる。そして揉みくちゃに。


「くそっ、なんだ。やめろ!」


 さっきまでの落胆ぶりはなんだったんだよ。



 シノが現れた。足は床に着けず、宙に浮いている。

 おう、待ってたぞ!


 やはり生徒たちには、シノがまったく見えていないようだ。

 小さな彼女が微笑む。


「凛、困っているようね」


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