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9 北へ

 

 治癒の雫は死にかけない限り飲みたくない味らしい。勇者達の話によると苦味が長い間繰り返す地獄なのだと。

 確かに搾りカスのヒール草を食べると苦味が少ない。


 ヨードが飲みにくいのは問題だと言っているけど、飲む必要あるの?軟膏と丸薬にしてあげればいいじゃんと言ったら目を丸くしていた。


 西では魔石持ちの生き物が増えているらしい。魔王の戦略やら実験やらと噂されている、つまり魔王のせい。そんな訳で治癒の雫を沢山欲しいのでお菓子が沢山な訳だ。沢山作ってもリーシャの軟膏は人気だね、良い香りだし。


 そろそろ寒くなってきた。他の町でも集めたヒール草の大半を治癒の雫にした。毛も生え変わってもこもこだ。アカリちゃんもメロメロな毛並み。チヨ師匠から料理の修行も卒業、ナルバから一本取れた……ら良かったのになー。


 と言うことで「達者でな、坊主」アカリちゃんの肩を叩いて背を向ける。

「クー、坊主は男の子に使う言葉だ。て言うか何処にいくんだ?」

「冬は北の山籠りで特訓さ。温泉もあるんだって!」

「ああ……そうか。でもリーシャ様の所に帰らなくていいのか?」

「雪が積もる頃には帰るよー」

「籠るんじゃ……もういいや、出る前にお嬢様の所に挨拶に行こうな?」

「うん!」



 ―――



「いってらっしゃい~」ふりふりと手を振っているカナリア。

「達者でな、お嬢」ふりふり返す。

「いいんですか?」

「剣と魔法が使えるんだし問題無いでしょ。束縛してもクーは逃げるわよ多分。それともナルバは一緒に行きたいの?」

「いえ、アカリと居たいですね」

「でしょ。クーには餞別に剣をあげましょう」

「おー、新たなる相棒!」

「たしか、ここら辺に……あった!ほら」

「お嬢様の子供の時に使っていたやつですね」


 剣を鞘から抜いて頭上に掲げる。

「こいつの名前はヒールカリバーだ!」

「うん、似合ってるわよ。お土産よろしくね」

「任せておけ!」

 ルンルンで屋敷を出て北へ向かう、気分は勇者クーだ。

 木剣を収納して変わりにヒールカリバーを腰に差す。


 食べれる物が沢山落ちている。もうすぐ食べ物が無くなっていくので見つけた木の実や熟れた果実をばんばん回収しておく。いい香りのキノコもゲットだ。

 ドングリを食べながらうろうろと進んでいく。渋くて旨い。


 日も暮れて料理しようとして調理器具が無いことに気付いた。

 これは困った、山の町で交換出来るといいのだけど。

 結局元の姿で食べ歩きしながら、とっとこ進んでいく。


 3日で森を出たら馬になって進む。サイズは子馬だけど移動は速い。

 北西は勇者達が行くと言っていた都市だ、自分は北東の鉱山の町へと行く、そこに温泉がある。


 カッポカッポ、山道進んでいるとチビッ子が脇で倒れている。鼻で仰向けにひっくり返してみると呼吸してる。髭が無いからドワーフの女性だ。

 勇者の仲間と同じで細いから子供だね。

 背中に引っ張り上げて治癒の魔法をかけながら山をのぼる。助けたお礼に調理器具を貰う、完璧だね。


 枯れ木を集めて、精霊に火を点けて貰って森で仕留めた鳥を枝に刺して焼く。内臓は森で食べたので肉だけだ。


 焼けた香りを彼女にそよそよさせると鼻がピクピクしている。

 たき火に栗を投げ入れる……ドキドキ。

 収納準備万全でその時を待つ……


『バンッ!』

「はへゃっ!」跳ね起きる彼女。栗を収納する自分。

「災難だったな」結果に大満足して話す。

「はい、え?あの……何が?」

「転んで気を失ったのだろ?」

「あー、『きゅるるー』……お腹がすいて倒れてました」

 大きな葉っぱに焼いた鳥肉を置いて渡す。

「私はクー、山の町に行く所だ。肉を食べるといい」

「もぐむぐ、ガツガツ」

 既に食べていて話を聞いていない彼女に、調理器具は貰えるか少し心配になってしっぽを弄る。


「ふー、私はスズ。助けてくれてありがとう!あなたは?」

「クーです」


 テンション下がって喋りが素に戻る。

 銀杏を腰の袋から出したように見せて収納から取り出し、果肉ごと食べる。

「くさっ、よくそんなの食べるわね」

「美味しいよ。スズは何処にいくの?」

「家に戻る……のよ」

 キョロキョロと不安な感じで喋るスズに面倒事だと察し、考えるのを止めた。その時になったら考えよう、横になって寝ることにした。

「お休み」

「えっ?あぁ、お休みなさい」



 ―――



 揺すられて起きたらドワーフが二人増えていた。

 起こしたのはスズに似ているけどガッチリした女性、男性はスズに怒鳴っている。スズは座らされて、タンコブが出来ている。


「起こしてすまないねぇ、スズの親なんだけど状況を教えて欲しくてねぇ。向こうからはまだ聞けそうもないし」

「クーです。スズが昨日倒れてたのを助けて、ここまで連れて登ってきました。お腹空かせていたので食事して、野宿しました」

「助けてくれたのかい。ありがとうね。山に行くのは鉱山かい?」

「温泉に行くのと、調理器具を買う予定です。後、美味しい料理を覚えたい!」

「なら家に泊まるといい。あんた達!さっさと帰るよ!」

「おう!帰るぞスズ!」


 むっすりとした顔のスズとその両親と一緒に町へとしっぽをふりふり向かうのであった。



「達者でな、坊主」少年の頭に大きくてあったかい手を乗せて、筋肉装甲のゴンザエモンは颯爽と筋肉を震わせて去っていった。

ー勇者ゴンザエモンの放浪記よりー

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